Neetel Inside ニートノベル
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~~式の日~~

 それからは怒涛のようだった。
 まずはロビンのお葬式。
(ロビンが“生きている”ことを知っているぼくと、とうの本人であるロビンにとっては、なんだか微妙な感じだったけど……)
 喪が明けるのももどかしく、婚礼衣裳の仕立て、結婚パーティーの段取り。
 新居はリアナのうちになるのでいいんだけれど、このさいだからってんでカーテンなんかを新調したりして。
 もっともリアナの身体のこともあるし、ぼくもまだ包帯男だったので、実際ほとんどはリアナのご両親(というか、おばさん)がやってくれたんだけど。
 お医者様には驚かれた。
「こんなに回復の早い患者はみたことがない。愛の力と若さですかな。いやはやうらやましいかぎりですなあはっはっは☆」
 ……と冷やかされ。
 村の男たちにはめちゃくちゃうらやましがられ、しかし事情を知るや否やほとんど全員が『俺は今日からお前の親友だからなっ』『困ったときはまかせとけ!』と熱く握手してきたりして。
 女性陣はなぜかぼくを見る目がものすごく変わり(まるでぼくがロビンになったみたいに…いやホントに、なかみはロビンなんだけど)。

 そしてリアナはというと、なにかとぼくの面倒を見てくれた。
 彼女はほんとうに細やかで優しくて……
 こんなヒトと結婚できるなんて、ロビン、ホントによかったなあとぼくも心から感動し。
 ぼくの好みの熱さと甘さのホットミルクをいれてもらったときには、思わずロビンじゃなくてぼくが『ありがとう』て言っちゃったりもして。


 ――そして、季節が変わる直前。
 純白の花嫁衣裳も縫いあがり、ぼくのケガもぶじに治って。
“ぼくたち”の結婚式は執り行われた。


 婚礼の衣装を着て、花を飾って礼拝堂へ。
 満場の祝福のなか、ふたりは祭壇へ歩く。
 神父様がふたりに、永遠の誓いを立てさせて。
 ロビンがリアナに、リアナがロビンに、結婚指輪をはめる。
「それではここに、愛の誓いの口付けを!」
 ロビンが、リアナのヴェールをあげた。
 ああ、まるで天使みたいだ。
 すぐ目の前で微笑むリアナは綺麗で、ほんとうに綺麗で、ぼくの心臓は跳ね上がった。
 しかし。
 そっと優しくかさなる感触、その一瞬あと、なにかがするっと抜け出した。
 同時に腕の中ずるずると、きゃしゃな身体がくずおれる。
「え……リアナ?!」
 腕の中、リアナはぼくたちを見上げて笑った。
 そしてしずかにささやいて……
 永遠に、目を閉じた。


 いまやぼくのお義母さんとなったおばさんは、ごめんよ、まさかこんなことになってしまうなんて、ほんとうにごめんよと泣きながら謝ってくれた。
 そしてお義父さんは、リアナはきみのおかげでとても幸せだった、その恩返しをさせておくれ、私たちを本当の親と思ってなんでも頼っておくれとぼくをだきしめてくれた。
 ぼくはただぼうぜんとしていた。
 最後の瞬間リアナはこう言ったのだ。
「あなたたちふたりと結婚できて、わたしすごく幸せよ。だから神様にお願いしてくるわ。
 あなたのこれからを幸せにしてくださいって。
 短い間しかそばにいられなくてごめんね。ありがとう、クレフ」
 そうしてロビンもこういったのだ。
『ごめんクレフ、どうやら俺にもお迎えがきたみたいだ。
 きっとリアナとこうして結婚できたからだな。お前のおかげだよ。ありがとう相棒。
 生まれ変わったら絶対絶対絶対に、百倍恩返しするからな!』
 そうしてふたりの魂は一緒に、天に昇っていったのだ。

 死んだはずのぼくだけがここに残り、愛した人も相棒も、ともに天に召されてしまった。
 つまりぼくはひとり、とりのこされてしまったというわけで……
 とりあえず、店の仕事に戻った。けどぼくはまったく上の空で。
 みかねたお義父さんとお義母さんが、ぼくに言ってくれた。
 しばらく旅行にでもいってきたらどうだろう、綺麗な景色をみておいしいものを食べれば、きっと心の傷もいえるよと。
 その間、店と家とポーラ(あのあと自力で村に帰ってきた。幸い大して怪我もなかった)はちゃんと守っておくから、何も心配せずに行っておいでと。

 ちょっと迷ったが、確かにこのままこうしていてもしかたなさそうなので、ぼくはその言葉に甘えることにした。
 とりあえず(いろいろ取り紛れて忘れてたけど……)昔お世話になった賢者様の庵を訪ねてみよう。そうすれば何かわかるかもしれない。
 ぼくは荷物、といってもたいしたものはないけれどとにかく着替えとかお弁当とか、そんなものをまとめて村を出ることにした。

 旅立ちの日。
 村の人たちは総出でぼくを見送ってくれた。
 それどころか「これカンパだよ。いい旅を」と小さな袋も手渡してくれた。
 胸がいっぱいになったぼくは、お礼を言って握手して、抱き合って手を振って、何度も何度も振り返って、優しいひとたちばかりの故郷を後にしたのだった。


       

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