Neetel Inside 文芸新都
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「なあ、あんた撃たなかったよな?」
『赤メガネ』が、隣の隣に座っている『ユニクロ君』を、蛇のような舌を出して言った。
「このランニングちゃんが発砲しようとしたが、撃たなかった。下手すりゃ、全員一気に撃つつもりだったかもしれないんだぜ?なんで撃たなかったんだ?『ユニクロ君』?」
『ユニクロ君』は、怯えた表情でうつむいている。何度も話しかけられ、ようやくぼそっとつぶやいた。
「だって、銃弾がもったいないじゃないですか…」
『赤メガネ』が笑い出した。
「はははは!おかしいなそりゃ!『マネージャー』が銃弾は6発こめられてるっていってたろ?ここには自分以外に6人いる。…正確にはもう5人だが。その気になれば誰だって1人で全員撃てるんだぜ、そんなの言い訳になってねえっての」
「何が言いたいんだい、『赤メガネ』さんや」
 『ジャージハゲ』が尋ねた。『赤メガネ』と『ユニクロ君』の間の席に座っていて、窮屈そうだった。
「わかんねえかい?『マネージャー』の説明じゃ、赤い石が4つ、青い石が3つ。青い石のが不利だから、消極的になっちまうってことさ」
 『ジャージハゲ』が笑った。
「つまり、『ユニクロ君』は青い石を持っていて、下手に人を撃てなかったっていうんだな。青い石を持ってると思ってる人にそういって問い詰めるってことはさ、お前さんが赤い石を持ってるってことにつながるぜ?」
 『赤メガネ』が、ぎくりとした。
「メガネの色と同じで、赤い石を持ってるのかな、お前さんは?」
「だったらどうだっていうんだ?お前は何色だよ、じいさん」
『ジャージハゲ』は、完全に優位に立っていた。
「無意味な誘導尋問だな。まあ、『ユニクロ君』が青い石を持ってるよりも、あんたが赤い石を持ってるって可能性が高いことはよくわかった。」
 完全に言いくるめられて、『赤メガネ』は悔しそうに唇をかんだ。
「しかしさぁ」
 緊張した雰囲気になった場で、『ユニクロ君』の右隣に座っていた『ドクロ』が話し出した。
「このデブが、ハズレの拳銃を持ってたってのはたしかだな。誰一人、こいつに撃たれなかったんだから。…ゲームとしちゃおもしろみにかけちまったな。ポーカーで言えば、ブタのやつがレートを高めるっていうこともありえなくなったってわけだ。残った俺たちは全員、実弾入りの拳銃を運良く手にしたってことも判明した」
「それはそうだな。全員、人を撃てる力を持ってるってわけだ」
 『ジャージハゲ』は、いとおしそうに持っている拳銃をハンカチで拭いた。ランニング男へ放った一発のせいで、その武器は幾分熱をもっていた。
「ひとつ、いいですか?」
『赤メガネ』の左隣にいた『青服』が言った。
「こいつの死体はひきとってもらえないんでしょうか?このまま放置していても、臭くなるばかりですよ」
「そういや、死体の始末は『マネージャー』はなんにも言ってなかったな」
『赤メガネ』は、侮辱の視線で、椅子から後方へ倒れて動かなくなったランニング男の死体を見やった。
「おい、『マネージャー』さんよ、この場を見てるんだろ?死体は片付けちゃくれないのか?」
 『赤メガネ』は天井のスピーカーに向かって言ったが、反応はなかった。『赤メガネ』は舌打ちした。
「それから、皆さん重要なことを忘れてますよ」
 『青服』は、ランニング男の死体へと歩み寄って、ポケットをまさぐった。そして手にしたものをテーブルに置いた。

 青い石だった。

「うほ、こりゃひでえな」
 『赤メガネ』は、笑わずにはいられない、といったふうにその石を見た。
「今、赤い石は4つ、青い石は2つってわけだ。うまくことが進めば、あと二人死ねば、ゲーム終了、賞金いただきってわけだ」
「やはり、おまえさんは赤い石決定だね」
 『ジャージハゲ』が言った。『赤メガネ』は再び指摘され、ぐっと怒りと屈辱をこらえた。
「なあ、『ユニクロ君』よ。石見せてくれないか、なあ?」
 『赤メガネ』が怒りの矛先を変えるように、挑発的な態度で『ユニクロ君』へ迫った。
「そんなに『ユニクロ君』がお気に入りなら、席を替わろうか?はさまれてそんな唾を飛ばされちゃこっちもたまらん」
 そう言って『ジャージハゲ』は、ハンカチを取り出して、顔にかかった『赤メガネ』の唾を拭った。
「…話をまとめると」
 『金ネクタイ』が、変わらずにやけた顔で話し出した。
「今、赤い石が4つ、青い石が2つ。そこの『赤メガネ』ちゃんは赤い石、『ユニクロ君』は青い石。ここまではあってるかなぁ?」
 『赤メガネ』と『ユニクロ君』が同時に言った。
「違う」
「おや、同時に同じこと言っちゃったね。仲がいいんだか悪いんだか、君たち二人は」
 『金ネクタイ』はそう言って、下品に笑った。『ドクロ』と『青服』は、この中で1番気味の悪い男に、不快な視線を送った。
「なあなあ、なんでそんなニヤニヤしてんの、おっさん」
 『ドクロ』の質問に『金ネクタイ』が答えた。
「楽しいゲームに参加してるからに決まってるじゃないか。あんたらも楽しいだろ、このゲーム。平然としてるほうが異常だ」
 そういって『青服』をなめるように見つめた。
「ここにいる全員、借金やら金が緊急で欲しくて集まってるんだろう?でなきゃ、『マネージャー』の誘いにゃのってねえもんなぁ。どいつもこいつも借金で首が回らないとか、働きたくなくて、楽に金稼ぎにきてるって感じだもんなぁ。『青服』さん、あんた1番金が欲しいっていう感じしないけど、なんでこのゲームに参加したんだね?」
「私も賞金のために参加したに決まってますよ、『金ネクタイ』さん」
 『金ネクタイ』のいうとおり、『青服』が1番落ち着いていて、借金がありそうでも、大金目当てというようにも見えなかった。この部屋では彼が1番異端だった。
「そっかそっか。さぁて、ちょっとトイレでも行ってくるか」
 『赤メガネ』が立ち上がり、西のドアを開けてトイレへと行った。すると、『ユニクロ君』も同じように立ち上がった。
 『赤メガネ』がトイレへ入ったあと、『ユニクロ君』も続いた。トイレから一発の銃声。

 返り血を浴びた『ユニクロ君』が、室内へ戻ってきて、『赤メガネ』の持っていた石をテーブルの上へと転がした。


 『赤メガネ』ゲーム終了

       

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