Neetel Inside 文芸新都
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「うひゃひゃひゃ!」
 『金ネクタイ』は笑い続けた。感電死した初老の男を軽く踏みつけて。
「偉そうなことばっか言ってるからこんな目にあっちまうんだよ。テレビをつけると感電死、なんてルール、『マネージャー』は説明してくれなかったよな?」
 焦げ臭い匂いが室内に充満している。そして死体の匂いも。『金ネクタイ』は、目をぎょろぎょろとさせて、室内に残っている男たちを見回した。
「なぁなぁ『どくろ』ちゃん『青服』ちゃん『ユニクロ』ちゃん、次は誰が死ぬんだろうねぇー?どこに罠がしかけられてるのかなぁー?」
 『青服』は『金ネクタイ』を無視して、感電死した男のポケットを探った。そして、取り出した石をテーブルに置いた。

 赤だった。

「うひゃ!うひゃひゃ!」
 『金ネクタイ』は、さっきまでの嫌味っぽいにやけかたとは違う、異質な表情をしていた。
「残りは赤が2つに青が2つかぁ!こりゃおもしれぇな!そう思わないか、おまえらよぉ?」
「これは少し難しくなりましたね。色の数が同じになってしまった」
「おい、『青服』ちゃんよ、あんたどこまで冷静でいられるんだよ?俺たち、いつ、どこでどうやって死ぬかわからねぇんだぜ?」
「だからこそ、冷静沈着であるべきです」
 『青服』はゲーム開始から決して態度を変えずにいた。少なくとも、他の残ったメンバーに比べて。
「もういいですよ、みんな一斉に石を見せ合いましょう。そして自分と違う色の人を撃てばゲームは終わりです」
「それもいい考えだねぇ、『ユニクロ』よぉ。どうせお前は青だろ?そして、青服も青だ」
「どうして私が青だと?」
「そりゃ決まってるじゃねえか。てめぇが青い服着てるから青持ってるんだよぉ!」
「やべえぞ、こいつ」
 『ドクロ』がぼそっと言った。『金ネクタイ』は、目を泳がせて部屋中に視線を向けていた。
「さあさぁ、『マネージャー』の仕掛けた罠はどこかなぁ?どこにあると思う、『ドクロ』ちゃんよぉ?」
「知るかよ」
「ああ、そうだった。お前は馬鹿だったもんなー」
「あんたもな」
「いいや、俺は馬鹿ではありませーん」
 『金ネクタイ』は立ち上がって、壁に掛けられていた鹿の顔をかたどった彫像を手にとって、かぶった。
「ほらね」
「なにが、ほらね、なんだ?」
 『ドクロ』に向かって、『金ネクタイ』は自分がさも偉大であるかのような態度で言った。
「私はただの鹿人間です」
「…とうとう本物の馬鹿になっちゃったか」
「だーかーらー。物わかりが悪いですね、君は。君ならわかるだろう、『ユニクロ』様」
「いえ、僕に言われても」
 『ユニクロ君』は、座っていた椅子から後ずさった。
「やはりここは、この中で1番頭のいい『青服』様に聞いてみるしかないか。私は馬鹿でないことがわかるよね?」
「いいえ、私にも分かりません」
「なんだよぉ。誰もわかっちゃくれねぇ」
「おまえは馬鹿。ただそれだけのことだ。馬鹿以上にバカだ」
 『ドクロ』に指をさされて、『金ネクタイ』は憤慨した。鹿の頭をかぶっているせいで、その表情はわからないが。
「私は馬じゃないのよ。鹿なのよ。鹿男。見てわかるでしょー?」
「やっぱり馬鹿だ…」
「もう、『ドクロ』ちゃんったら物わかり悪いんだからぁー。どう見ても鹿です。本当にありがとうございました」
 『金ネクタイ』から『鹿男』に変わったその中年は、奇妙な踊りを始めた。
「馬はーウマー。鹿はシカー。…おや、そうすると、鹿は死、か?」
「なぁ、やばいぞこいつ」
 『ドクロ』は、踊っている男から視線を反らして『ユニクロ君』と『青服』に言った。
「怖い…もう嫌だ…」
「もうちょっと精神力のある人かと思ってましたが、予想よりも早く壊れてしまいましたね」
 『鹿男』は、拳銃を握って、天井へ向けて銃弾を放った。大きな銃声が響き、天井の一点に穴が開いた。
「あーいたあいた。穴あいたー♪」
 拳銃は次に、トイレのドアに向けられた。そして再び銃声。
「トイレトイレー。ぼく、おしっこもれそうだ~。だけど、あのトイレ、死体転がってるからいやーん」
 そして拳銃は、『ユニクロ君』に向けられた。
「あははははーー」
「うわぁ!」
 『鹿男』より先に、『ドクロ』が発砲した。
「あららー、ボクの心臓に穴開いちゃった。イタイようイタイようイタ…」
 『鹿男』は、鹿の顔のまま絶命した。

 『金ネクタイ』改め『鹿男』 ゲーム終了

       

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