Neetel Inside ニートノベル
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人と言うのは果てしなく貪欲な生き物だ。何かを得てもまた他の何かが欲しくなる…例えどんな地位の人間でも…己の欲求を満たすことは恐らく出来ない…それが神の仕える神官や神父といった聖職者、もしくは仏の道を極めた坊さんでもだ…


なら……真の解放とは何だ?人がこの止まる事を知らない欲求から解放する方法は……
悠木は1つだけ心当たりがある、それは



死だ。
死んでしまえば何もかも終了する、ハズ。
仏教には『輪廻転生』と言う言葉がある、簡単に説明すると死んでもまた別の何かに生まれ変われるっと言う事だ。
今の悠木にはその答えを結論にすることは出来ない、それは悠木自身が実際に死んだ事がないからだ…いや、死んでしまおうと思った事は何度もある…


だって、俺は生まれてきた時から一度も『生きている実感』を感じたことがないじゃん…今まで学校や家でも居場所と呼べる所はなくて…友達もいなくて…ずっと一人で………寂しくて…

すると、悠木の目の前にもう一人の自分が現れ、俺に問いかける。

「じゃぁ、なぜ死ななかったんだ?」
「だって、死んだら人生それで終わりだろ?」
「でわ、どーして死んでしまおう。と思ったんだ?お前自身死んだように生きている癖に、今され生きたいと感じているのか?」
「俺だって…好きで死んだように生きているんじゃない!!」
「ほぉ…でわ…誰のせいなんだ?」
「……それは…」

悠木は言葉を詰まらせた。

「言ってしまえばいいだろ?父さんだって。お前もそー思っているハズだ」
「…俺は…」
「アハハハハハハハハハ!!そーだよな?お前はそー言う人間だったな。全部自分で抱え込んで、本当は悪くない事も自分せいにしてしまえば、全部楽だもんな?」
「……」

そこには高笑いする、もう一人の自分とは別に反論できないちっぽけな自分がいた。

「俺は覚えているぜ。母さんの病室の前でお前が言ったあの言葉…お前だって覚えているだろ?」
「…覚えて…ない…」
「嘘だ!!!本当は覚えている癖に、忘れたふりしている。言ってみろよ?なぁ!」

もう一人の自分が急に6歳の時の自分に姿を変える。
少年は泣きだした…あの時と同じように…

「やめてくれ…」
「ごめんなさい…ごめんなさい…」

悠木はその次に何を言うかを知っている…だって本人なのだから…

「…お願いだ…もう、やめてくれ!!」






「生まれてきて…ごめんなさい…」





『第10話、欲望を狩る者』




ここまでの疑問
・返り血
・血が付着していない円状の跡
・なくなった首
・落ちていた花びら
・カーテンのついていない窓

だんだんと周りが薄暗くなる。もうすぐ夜が来る…

「ねぇ。南条くん、もうやめない?」
「…」
「聞いてる…?南条!!…バカ」

あれから何時間経っただろうか…もう死神祭りは始まっている。
セナの強い口調も今の悠木には届かない。
悠木は一生懸命タカコの部屋の周りで何かを探している…

「悠木君がここまで必死になるなんて…よっぽど重要なものなんだな」
「何言ってるんですか部長!!人が一人死んでいるんですよ?次に狙われるのは俺達かもしれないのに…悠長になんてしてられませんよ」
「そーなのか?」

悠木は探すのは一時中断し、部員達に向かって叫ぶ。

「当たり前です!普通は犯人だって口封じしに来ますよ。後から警察に見つまると厄介ですからね」
「だからと言って、闇雲に探すのは無謀だとは思わないのか?」
「それは…」

篠原の言うとおり、悠木は断定的な物を探してはいなかった。
『何か』落ちているハズ…イメージすら湧かない物は悠木はさっきから探している。それはまさに雲をつかむような話。

「だって、カーテンの事はどー考えてもおかしいじゃないですか!」
「単にカーテンを変えている途中だったとか。だから今はなかった」
「じゃぁ、どーして『嫌い』だなんて言ったんですか?」
「今使っているカーテンが嫌いって意味じゃないの?」

確かにその線も絶対に無いとは言い切れない…だが、今やっと掴んだ新たな手掛かり、ここ見逃したりしたら次に誰が死ぬか…
今はこの小さな手掛かりから来る『疑問』を解決するしかない。

「…タカコさんって若いじゃないですか?まだ、オシャレとかしたい年頃なんですよ」
「タカコさんって今何歳?」
「35」
「35!?」

母:唐坂 タカコ(35)
長男:唐坂 信夫(30)
次男:唐坂 早貴(25)
弟子:君川 敬(22)
使用人:田辺 千代(49)
長女:唐坂 佳奈(17)
病死した先代の当主の兄:唐坂 智和(54)

「病死した佳奈さんのお父さんって何歳なの?」
「54歳」
「智和さんは双子の兄ってことになるな…」
「そして、何らかの事情があってタカコさんと再婚したのか…何か複雑な家系なんだな」

いつの間にか話が変わり、その間に周りはすっかり暗くなってしまった。
悠木は屋敷に帰ろうとした。その時、作業小屋の方から男性の叫び声がする。

「な、何だ今の?」
「作業小屋の方からだ!!」
「わ、私先生呼んで来る」

セナは屋敷の方へ走り出した。悠木と篠原もまた作業小屋の方に向かう。
そして、同時に悠木に寒気が襲った…
この感覚は…いつもと違う…怖い…怖いよ…

「まさか…まさか二人目の犠牲者が…」

篠原は作業小屋のドアを開けた。

「大丈夫ですか!?」
「ゴ…ゴキブリが!!!」
「へ!?」

そこには恐怖に怯える君川さんが机の上に立っていた。そして、タカコさんはそのゴキブリを大きな斧で切り殺そうとしていた…

「な、何やっているんだすか!」
「ゴキブリが…ゴキブリが…」
「何だゴキブリか…心配しましたよ」

緊張の糸が一気にほどけた。

「タ、タカコさん。何やっているんですか!早くそんな斧置いて下さいよ」
「ゴキブリはねさっさと殺すのが一番なのよ」
「僕は殺し方に問題があるって言っているんです!」

悠木はタカコの持っていた斧を即座に取り上げた。
死神よりもむしろこの人の方が怖い…

「大体、この斧って何ですか?」
「それは高豪樹を切るために使う斧で、わたしは毎日の様に使っているんですよ」
「にしてわ、泥とかおがくずとか着いていませんね」
「当たり前です。道具は職人の命ですから、毎日綺麗に手入れしてますよ」

すると、屋敷の方からセナが先生と共に大急ぎで走って来るのが見えた。

「大丈夫ですよ先生。事件とは無関係ですから」
「違うんだ南条。智和さんが…さっきから帰って来ないんだ!」
「智和さんが!?…いなくなってどれ位たちましたか?」
「もう、かれこれ1~2時間だ」
「みんな、一生懸命に捜索はしているが…見つからないんだ…」
「私達も探しましょう」

部員全員に先生、そして君川にタカコがそれぞれに探し始め様とした。
その時…

「ちょっと、待って下さい…」
「どーした。南条」
「さっきから、感じていた寒気はこれだったのか…だとすれば…」

悠木は辺りを見渡した。静まり返る暗い森の中で…悠木は必死に感覚を研ぎ澄ます…

「あそこだ…」
「あっちは…湖の方だ!急げ!!」

篠原と先生が湖の方に向かって森の中に入る。

「わ、私達は人を呼んできます」

君川とタカコが屋敷に向かった。

「南条くん大丈夫?」
「あぁ…ちょっと疲れただけだ…行こう」

二人は走り出す…

[湖]

悠木とセナが到着した時にはもう篠原や先生そして、君川とタカコがいた。
さっきとは比べ物にならない寒気がする…いや、もう寒気の領域を完全に超えている…色んな人の感情が悠木の体の中を通り抜けていく…その感覚がとても気持ち悪い…

「…状況は…」

篠原が湖の方指さした。
そこには白い物が湖に浮かんでいる様に見える…遠くて良く解らない…
悠木は湖に近付いた。
その時に一体何が起こっているのか、ようやくする理解することが出来た…

「智和さん…」

智和は死んでいた。白いボートの中で…
体と首が完全に分かれている、小学生でも解る…これは死んでいると…
ボートの中には水が入っており、そこに沢山の赤く染まった高豪花が散らばっている。

「また、高豪花ですか…」
「これを見ろ悠木君」

篠原が悠木にある紙を渡した。

「それは死体の側に落ちていた物だ…」

紙にはこう書いてある…

『我、欲望を狩る者なり。遺産に目が眩みし者達よ…汝らのその首、死神に捧げたまへ』

それは…死神からの挑戦状…

       

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