Act2-1. ロビンが町で子供を“拾って”しまっていっぱい甘いもの食べさせられて街灯登りさせられて王子さまになるまで。
ピルスナーの町の名店、クラシエルホテル。
小さな小さな写真館から始まったそこには、天使のお姫様の写真が飾られている。
彼女の名前は――
~~ロビン、男の子を“拾う”~~
それはピルスナーの町についてすぐ。
ロビンが日雇いのアルバイトから帰ってきたときのことだった。
「た、すけ、て………」
宿の部屋の入り口で、ロビンはがくっとひざをついた。
眉毛はみごとなハの字になり、目は潤んでいて、今にも泣き出しそうだ。
なにより驚いたのは、甘いお菓子の香りをまとっていたこと。
ロビンは甘いものが苦手だ。だからこんな香りをさせているなんて(アリスとリアナにおみやげのケーキを買ってきたとき以外)、ふつうではありえない事態なのだ。
「ど、どうしたのロビン?!」
「甘いもの……食わされた……バイト代のほとんどで……」
「え?!」
そのときぼくとアリスは気づいた。
「『ロビン、ひょっとして!』」
「ああ……拾っちまった……
しょーもないワガママボンボンを……」
『だ~れがワガママボンボンだって~?
みかけで判断してんじゃないぞ! コラッ!』
そのとき、なんだか可愛い(多分まだ子供だろう)口調で“なかのひと”が言い出した。
ロビンはげっそりした様子で言い返す。
「見かけも何も、お前の身分はボンボンだろうよ」
『~~~~うるっさいこの、………
このっ、………………………
このぉっ、……………………………………………………
バカロビンっ!!!』
ぼんぼん、というのは小さな男の子のことだと聞いている。つまりロビンの中にいる子は男の子だったらしい。
彼は、そのままロビンと口げんかを始めてしまった(とっさにアリスが部屋に引っ張り込んでくれたから、被害は最小限だったけど……)。
こういうときはリアナの出番だ。
リアナはぼくら全員に、心とおなかが落ち着くお茶を入れて、小さなスパイスクッキー(これならロビンも好きなので定番だ)も振舞って、彼に話を聞いてくれた。
彼はこの町に住んでいた、ユーシス君という子だった。
家はお金持ちで、生活に不自由することはなかったという。
しかしかわいそうなことに、身体は弱かった。
亡くなる直前にも、大きな病で入院していたそうだ。
お医者様もご両親も必死で手を尽くしてくれたにも関わらず、病は重くなるばかりで……
ついに昨日、亡くなってしまった。
遺体は教会に安置されたものの、死に切れずに付近をさまよっていたとき、偶然近くを通りかかったロビンに“拾われた”のだ、という。
「まあ。ユーシス君はそれでロビンに……」
『そっ。
あーあ、どうせ吸い取られるならお姉ちゃんみたいなヒトがよかったなあ。
ロビンさ、いっぺん死んでよ。そしたらボク、お姉ちゃんに吸い取ってもらえるから』
「ムチャいうなっ!!」
そういえば、ほかのひとの魂を宿した状態でソウルイーターが死んだら、魂のヒトはどうなってしまうんだろう。
それを口にすると、ベッドの上に座ったミューが、あくびをしながら言った。
『近くにソウルイーターがいれば吸い取られるニャ。でもそうでなかったらさまよう羽目になるかもしれないニャ。
もっとも、自分以外の魂を宿した状態のソウルイーターはめったなことじゃ死なないからその心配はないそうだけどニャ。』
するとアリスがクッキーの最後の一枚を食べきりつつこんなことを言った。
『そうそう、しかも魂の持ってきた生命力はしばらく身体に残り続けるから、あたしが死のうとしたときはもう、相手殺さない程度に悪の組織に殴りこみかけたり、それもぜんぶなくなったら何日も人里はなれた場所で断食したりして、ホントタイヘンだったのよ』
「まあ……
本当に大変だったのね、アリス。
わたしのぶんのクッキーあげるわ。よかったら食べて」
リアナはアリスの(=ぼくの)手をやさしく握る。
いつ触れてもやわらかなその感触にどき、とする。
『あ~ん。ありがとリアナ~!
クッキーもそうだけどリアナの気持ちがうれしいよ~!!』
一方でアリスは、そういいながらリアナに抱きついた。
すると当然、ぼくにも彼女のやわらかさと暖かさが伝わってきて……
『あ~ずるい~ボクもボクも~~』
どきどきしていると、ばふっと衝撃が来た。
みると反対側からロビン、じゃなかった、ユーシス君がリアナに抱きついていた。
無邪気な様子でほおずりする。
『ん~。いいにおい~。お姉ちゃんだいすき~~』
「こ、こらおま、リ、リアナに、てかおおれの身体でなにっ」
「あら、いいのよ。ロビンもそうしてくれても♪」
「………………………………………………」
ロビンは耳まで真っ赤になった。