~~ユーシス君の謎(前)~~
ユーシス君の友達、ということでお泊りさせてもらったのだから、ごはんもおよばれしておくのが自然だ。というミューのアドバイスでぼくたちは、お誘いを受けることにした。
返事の内線をかけるとユーシス君のお母さんは優しい声で、どうか気取らずお好きなお召し物でいらしてくださいね、もしもお気になるようでしたら、わたくしと主人の若い頃の服をお貸ししますよと言ってくれた。
これにおしゃれなユーシス君が飛びつかないわけがない……
と思ったら、なんだか元気がない。
『ん、いや……
えっと、だってパパの服でしょ? あんま可愛いのなさそうじゃん……』
そんなことを言っているけど、どうも理由はそれじゃないようなかんじに見えた。
リアナがそっと声をかける。
「ユーシス君。
お父さんとお母さんに、ほんとのことを言ったらどうかしら?
もちろん、ソウルイーターについての説明は、わたしもお手伝いするわ。だから……」
すると、ユーシス君はびくっと肩を振るわせた。
『だ、だめだよ! そんなこと言ったら……パパもママもきっと泣いちゃうよ!!
ぜったいにダメ!! おねがいだから、パパとママにだけはないしょにして!!!』
そして即座に、断固として拒否してきた。
「え、ええ……わかったわ。
ユーシス君が嫌なら、わたしたちからは言わないわ。安心して」
リアナは驚きながらも約束する。
『ありがと……ごめんね、お姉ちゃん。
服だけどさ、ボクはこれでいいよ。
お姉ちゃんたちはパパとママのお洋服みせてもらってきなよ。その間ちょっとボク寝てたいから』
ぼくたちは顔を見合わせた。
そのときアリスが言い出した。
『そうね、じゃついでにちょっとだけホテルの中とかぶらぶらしてくるわ。一時間くらいしたらかえってくるから、それまでゆっくり寝てて』
『うん、ありがとお姉ちゃん』
そしてアリスはミューを抱き、リアナの手をとってさくさくと廊下に出た。
「アリス、どうしたの急に?」
『うん、ちょっと確かめたいことがあって。
ミュー、身辺調査頼める?
生前ユーシス君と親しかった、若い女の人がいたかどうか。
年頃はリアナくらいかな。今着てるワンピースを持ってるか、似合うようなひとがいるか』
するとミューは得意げに背中をそらした。
『ふふん。その程度とっくに調べはついてるニャ。
結論からいうと、そういう相手はいないにゃん。
まず姉妹はいない。つきあいのある親戚にも該当する年頃のオンナはいないようだニャ。
あいつはかわいいから従業員たちにも人気だったニャ。しかしいかんせん虚弱体質で入退院を繰り返していたから、可愛がられはしていたがプライベートを知っているような間柄のやつはまだいなかったにゃん。
ちなみにソレが似合いそうなオトコも周囲にはいないニャ』
『これが似合う男の人ってどんなのよ。
まあいいわ。そうなると秘密にする理由がわかんないわね……
誰か、禁断の恋のお相手がいるのかと思ったんだけど……』
アリスが腕組みをしてうなりだす。
リアナはきょとんとしていたが、しばらくたってもアリスが動かないのを見てそっと問いかける。
「ごめんなさいアリス、禁断の恋のお相手って? このワンピースがなにか手がかりなの?
あ。もしかして、けさのお店で何かあったのね!」
『あ、うん。実はね……』
アリスは、ぼくたちが見たものをリアナとミューに伝えた。
今朝、あのお店で。ユーシス君は、泣いていたのだ。
ひとり、鏡の前で。リアナにすすめたのと同じワンピースを、抱きしめるようにして。
『だからさっきのやりとり聞いたときにあたしは、ユーシス君はそのことをないしょにしたいんだと思ったの。
でも禁断になるような相手はおろか、交友関係にもそうしたひとはいない……
う~ん。だめ、わかんないわ!!
“生きている”ことを内緒にしたいならわざわざここに来るわけもないし!!』
「……確かにユーシス君、ときどき何かをごまかそうとしてるみたく、ふざけ始めたりするわよね。ロビンにちょっかい出したり……」
するとミューがぱったぱったとしっぽを振りながら言い出した。
『我輩的にはあとひとつ、気になることがあるニャ。
おまえたち“パジャマパーティー”ってどういうやつらがやるか知ってるにゃん?』