~~スイートルームでスイーツ食べて~~
ユーシスちゃんのお父さんとお母さんは、ソウルイーターのことを知っていた。
かつてこのホテルにも、死者の魂を宿したソウルイーターがやってきた。
そして、きれいなお姫様の写真をとってもらってかえっていったのだ、という。
アリスが腕組みをしてうなずく。
『どうりで驚かないはずね……
でも、そもそもなんでわかったのかしら、ロビンのなかにユーシスちゃんがいるって』
『家族とはそういうものだにゃん。
おいらもしーたちゃんとかくれんぼをすると、どんなとこにしーたちゃんが隠れててもたちどころにわかるのだにゃん。これが愛というものなのだにゃん』
ミューもソファのうえで香箱を組んで、うむうむとうなずきながら言う。
『もう途中までいいカンジだったのに……そもそもあんたのそれはうまれつきの能力でしょ』
『これはしーたちゃんへの愛がはぐくんだ能力なんだにゃん! 愛なのだったら愛なのニャー!!』
『はいはいわかりました。』
「ふたりとも。せっかくのお茶が冷めちゃうわよ。
ロビンもほら、ケーキ食べ……あら」
リアナはケーキの箱を開け、驚いた顔になる。
「ごめんなさい、ビターショコラ買ってきたつもりだったけど、スイートショコラケーキだったわ。取り替えてもらってくるわね」「いや」
そのとき、甘いものが駄目なはずの人物が声を上げた。
「スイートでいいよ。たまには俺も甘いもの食べてみたいから」
「ロビン……」
ロビンはそのままさくさくと、ぼくたちみんなの取り皿にケーキをのっけていく。
その手つきは、昨日ユーシスちゃんがケーキ店で見せたものにそっくりだ。
「んじゃ、いただきます」
手を合わせ、軽く紅茶で喉を潤して、フォークで小さくケーキを切って、そのまま口に運ぶ。
「……甘。」
しかしロビンはもう一口紅茶を飲むと、そのまま食べ続けた。
「よし、これならいける」
そして半分くらいまで食べたところで、ふっと顔を上げた。
「って、なんだよみんな? なんか俺の顔についてる?」
「え、いや……」
『ロビンお前、甘いケーキ食えたのかにゃん!』
『そうよ、いっつも二口くらいで“……ごめんクレフ、あとお願い”って半泣きになってたのに!!』
「え、半泣きはないって!
……いや、さ。ユーシスがすごく甘いケーキ食べるときにこうしてたからさ。
あいつさ、俺が限界近くなるとこうして、紅茶飲む量増やして調節してた。
そしたら、割と食えちゃったから、さ」
「ロビン……」
ロビンはかたり、とフォークを置いた。
「甘いケーキも、けっこううまいんだな。
あいつは俺にいろんなワガママしてきたけど、……あいつのこと宿すことができて、よかった、と思う。
俺、まえより高いとこ怖くなくなったんだ。
だからあいつが選んだ服もさ、ときどき着てみる。
こんなの、今更かも知れないけどさ」
するとアリスが言った。
『ロビンはよくやってたと思うわよ。
文句は言ってたけど、けっきょくユーシスちゃんのしたいようにさせてあげてたじゃない。
甘いものも高いところも女装も嫌いなのに、ちゃんと我慢して。えらいと思うわ』
「あ、……いや、まあ。
相手は子供、だったしさ」
ロビンは赤くなり、ぽりぽりと頭をかく。
「そ、それはいいとしてさ、アリス」
しかし、ひとつ咳払いをするとアリスに向き直った。
『なに、ロビン?』
「ぶっちゃけた話さ、お前も、ああいうのとか着たい?」
『え?????』
アリスは予想もしていなかったという様子で絶句した。
『……な、なんで?
っていうか、あたしが女物着たら、クレフが女装することになっちゃうわよ?
ロビンは女装きらいなんでしょ?』
「え、や、別に俺は女装が嫌いなんじゃなくて、いや、すきって訳でもないけど、そのっ……」
『落ち着けニャ』
いつの間にか、ロビンの肩にミューがいた。ほっぺたをにくきゅうでぺしっとする。
「ん、あ、ありがと。
あのさ、ユーシスも男の身体だったけど魂は女の子で、可愛いものに憧れてただろ。
今のアリスも似た状況かなとおもって。
――むかし、村の連中が祭りのとき、悪乗りでクレフを女装させようとしたことあったんだ。
クレフはこの通りのおひとよしだろ。へたしたらそこを手始めに大変なことになるんじゃないかって思って俺、そのテのイベントはそれ以来、全部全力で拒否してきたんだ。
それは、アリスがなかにいるようになってからも……
それについてアリスはなにも言わないからさ、俺はいいんじゃないかって思って、あの時もあの時もあの時も、ずっとクレフに女装はさせなかった。
けど、あの日。
ユーシスがクレフに男女兼用のジャケット着せて『これで軽く化粧すれば“お姉ちゃん”でも違和感ない』っていったとき、アリスまじまじ鏡見てたじゃん。
そのとき、ほんとはアリスも、女の子らしい服とか着たかったんじゃないか、て思って……」
『……………………………………………
ぜんぜんそんなこと考えてなかったわ』
するとアリスは心底驚いたようにそういった。
『あれは単に、意外だった、ていうかそんな風にも見えるんだって驚いたからで……
だからむしろびっくりしたわ、そういう風にロビンが考えたってこと』
「そ、…そうなんだ……
だったら、その、いいんだけど。
ごめんな。なんか、変な気回しちゃったみたいで」
ロビンはちょっと赤くなって頭をかいた。
『ううん、いいのよ。
ありがと、ロビン。あたしのこと、気遣ってくれた気持ちがうれしいわ。
これからもよろしくね。
もちろん、リアナにやきもち焼かせない程度にね☆』
「あ、う、うん。そりゃ、もちろん。
よろしくな、アリス」
ふたりはそして、手をのばして握手した。
ミューがあくびをし、リアナがにこにこ笑う。
ぼくもうれしくなってきた。
なんだか、これからの旅も、うまくいきそう。なぜかそんな風に思えた。
今日はクラシエルさん(ユーシスちゃんの苗字だ)夫妻のご厚意で、もう一泊させてもらってるから、あした出発。
とりあえず行き先は、となりの町、タッセル。
ギルダーさんの故郷であるメルファンにいくことも考えたけど、あの日のことを思い出すと、あそこにいくのはまだちょっと切ない。
そんなわけでぼくたちは、ふたまたにわかれた街道の、反対の方をたどることに決めたのだった。