Neetel Inside ニートノベル
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~~アリスとミューがけんかした~~

『ちょっとクレフ、いいの?』
 お医者様のもとから宿に向かう途中、アリスがそっと耳打ちしてきた(アリスは魂の状態でぼくの身体に宿っているので、耳打ちというのはおかしいのかもしれないけれど、そうとしか言いようがない)。
「なにが?」
『リアナよ。
 あの若先生かっこいいし、へたしたらあんた、とられちゃうわよ?
 結婚したのは前世でしょ。リアナももう16なんだし、するんだったらもう一度ちゃんとしとかなきゃ』
「え…………」
 全く予想してなかった展開にぼくは呆然とした。
「あの、でも、ええと……」
 するとミューがぼくの肩に乗っかってきた。ひげが頬に当たってくすぐったい。
『そうだニャ。おまえらどうするつもりだにゃん。
 まえはロビンがおまえの身体に宿ってた、だからリアナはおまえらふたりと結婚できたんだって聞いたニャ。
 でも今回はそうもいかニャいだろ。こんどはロビンにも身体がある。この国じゃ結婚は同時にひとりとしかできないニャ。
 まあ我輩的にはリアナは、ロビンとくっついたほうがいいと思うけどニャ。おまえの身体にはすでにいっぴき押しかけ女房がいるんだからニャ』
『なっ、なに言ってんのよ!! あたしとクレフはそんなじゃないわよ!!
 クレフは……っそうね、弟よ!
 あんただって弟相手にどうのこうのは考えないでしょ?』
『弟……………………』
 ミューは考え込んだ。
『純白にゃんこのしーたちゃん………
 ふかふかしっぽのしーたちゃん………………』
 そのときアリスがしまった、というように息を呑んだ。
『大丈夫!! しーたちゃんになら我輩どうにかされても』『スト――ップストップストップストップ!!
 クレフに悪い影響があったらどうするの!
 クレフ、今のはなしよ! 今のはなし!!
 まったくもう、あんたに聞いたあたしが馬鹿だったわ!』
『しーたちゃんのどこが悪いニャ!!』
『もってる兄貴が悪いのよ!!』
『ニャ――!!』
「クレフ、クレフ」
 そのときぼくの肩をぽんぽんと叩くものがいた。ロビンだ。
「ちょっと今日は飲みすぎだぞ?
 さ、帰って飲みなおそうな。
 道のまんなかで飼い猫とケンカしてると婚期逃すぞ?」
 気づくとぼくを、道行くひとたちが“かわいそうな人を見る目”で見ている。
 ぼくは口を押さえた――ああ、やってしまった!
 気をつけてなかったから、そしてアリスのテンションがすごく上がってしまったから、アリスの言葉が口からだだもれだったのだ。
 ミューは以心伝心で話すから、基本ぼくたち以外の人には言葉が聞こえない。
 つまりぼくは客観的に見れば、肩の上でにゃーにゃー怒る黒猫と、女の子口調でケンカしていた……ということになる。
 恥ずかしくなったぼくは、全速力でその場を逃げ出した。



~~その判断が間違いだった~~

 宿に着いたぼくは、なんかもうすっかり落ち込んでしまった。
 そのため、ロビンが温泉入ろうと誘ってくれても行く気になれず、あとでと言ってベッドに寝転んでしまった。
 それでも、眠ることもできず、ぼくはひとり天井を見上げていた。

 とりえといえば算術と弓(とちょっとしたトラップ)くらい。それも、そんなに使うことはない。
 しかも、頭も運動能力も、どっちかというと鈍い。
 体力はロビンの方があるし、頭や器用さはリアナに及ばない。
 ミューみたく、風や動物と話をして情報を集めるなんてこともできないし、アリスのように便利な魔法が使えるわけでもない。
 ロビンにリアナ、そしてミューを加えたパーティーで、旅を始めて一週間。
 ぼくは改めて自分の駄目っぷりを痛感してしまった。
 やっぱりあのとき、ぼくの方が死んで、アリスが生き残ってればよかったのかも、なんてことまで思ってしまう。

 駄目だ。こんな後ろ向きでどうするんだ。
 ぼくだって、みんなと同じ『ソウルイーター』だ。
 死した人の魂をこの身に迎え入れ、心残りを解消して天の国へいかせてあげるという、大切な使命をもって生まれてきたんだ。
 いま、旅をしているのだってそのためだ。
 駄目ならだめなりに、がんばらなくちゃ。
 そのときひらめいた――そうだ、お酒を飲んでみよう。
 昔この身体にいたソルティさんは、いつも村のワインを飲んでは陽気に歌って笑ってた。
 そのときはぼくも、一緒に楽しい気分になったものだ。
 ぼく自身にはお酒を飲む習慣はない。アリスにもない。
 だからこの数年間はほとんどお酒を飲んでいなかった(お祝いのときは付き合い程度に一杯だけもらってたけれど)。
 よし、飲みにいこう。アリスがいいといってくれたら。
 ぼくはアリスに問いかけた。
「ねえアリス。ぼくさ、お酒を飲みに行こうかと思うんだ。いいかな?」
『いいわよ。あたしはしばらく眠ってる。
 明日はあたしにケーキ食べに行かせてよ?』
「了解」
 アリスのテンションもちょっと低い。というか、ずっとだまったままだった。
 通りでのことを反省しているのだろう。
 ぼくが気をつけてあげてればよかったのに。ごめん、アリス。
 すこしお酒を飲んだら、外で小さいケーキを買ってこよう。そう決めてぼくは部屋を出た。

       

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