Neetel Inside ニートノベル
表紙

見開き   最大化      

「逃走は爆発だーっ」
 なんて、とある名言的なノリであたし、メイラは言ってみる。それと同時に、礼拝堂内に爆発が巻き起こる。沢山の爆薬でも爆発させたかのように、爆発が入り乱れているというか、なんというか。それで、あたしは壁に穴を開けた(むしろ大穴だったり)。礼拝堂の魔法耐性?そんなの無視無視、かまってる暇なんてないもん。
「……礼拝堂の壁を難なく魔法で壊すとはなんて非常識な」
「ふふんっ、天才とはいつも受け入れられないものよね。あたしって罪な存在ー」
「なんか話ずれてねー?」
 ヒノワちゃんのズバリな指摘はスルーさせてもらう。せっかくボケたんだもん、それを認めるわけにはいかないというか、うん。
 そして、あまりの爆発に砂埃的なものが舞い上がって視界が無いというオマケ付きで、あたしは逃げる。逃げるよ。逃げる分には視界が悪くたってそこまで問題は無いもんね。
(あ、でも少し細工しとこっかな)
 それを終えてから、あたしは相手に目もくれず一目散に外へと逃げる(“目”もなにも、目は閉じてるけどね。なんて)。
 外へ出て、あたしはようやく目を開ける(あ、少し目にゴミが入っちゃったかも)。突然礼拝堂が謎の爆発を起こした挙句、小さな可愛い(ここが重要)女の子がそこから飛び出してきたんだもんね、周りの人から注目を浴びてるんだけど、それも当然だよね。可愛いもん。……可愛いもんっ!(ここ、ものすっごく重要っ!)
 去り際に、あたしは思い出したかのように後ろを振り返った。
「べーっ!」
 舌を出してみたり。うん、なんとなく腹いせ。それからもう一回元の方向を向いて、あたしはその場から離れた。今度は余計なことなんてせずに。



 『新☆魔王』の非常識魔法攻撃によって、前代未聞の大損害を受けた礼拝堂ではようやく砂埃も晴れて、その場の人間に視界が戻ってくる。パスティンとヒノワも例外ではなく、晴れてからやっとのことで逃げられたことに気がつく。隠れているということも考慮してか、パスティンがしばらく周囲を『掌握』してみるが、特に隠れているというわけでもなさそうだった。それから至って冷静に、彼は自分の服の埃を払うかのような仕草をする。ヒノワはなんだか逃げられたことにご立腹の様子だったが、なんとなくパスティンに倣って服の埃を払うかのような仕草をした。ちなみに彼女が他人の真似をするときは、とても不機嫌な時である。
 と、そんな場に、ようやく駆けつけたその町の『神官』が二人に声をかけた。
「御二方、ご無事ですかっ!?大丈夫です!」
「……(なぜ自分で答える?)ああ、リリーさんですか。ええ、大丈夫ですよ私たちは。ただ、建物の方はそうとも言えませんけれど」
「御二方がご無事ならそれでいいですよ。そうなんですよ」
 “彼女”がザルベルガの『神官』、リリントリリル=リーリルザだ。“リ”ばっかりだ。名前を見て分かるだろうが偽名だ(そしてそういう意味で有名だ)。なぜ『神官』が偽名を使う必要があるのかは巷でも謎とされていて、おそらく本人も知らないんだろう。彼女はそういう性格だ(巷では、性格に難ありと認識されている)。それでも『神官』なのだから、おそらく仕事はきちんとするのだろうが。
「ええ、問題ないですよ。だって所詮私の給料が差し引かれるだけなんですから。ちょー悲しっす!そして私の給料高っ!」
 また、元気な女でもある。ただし実は年齢は四十を超えているとかなんとか。見た目が二十台に見えるため、それはそれで彼女の不思議の一つとして巷では認識されているそうな(巷での名の売れ具合は尋常ではない)。そしてその見た目と、実年齢に触れられた時の悪魔の形相から、彼女は『聖母の後光(ワールドエンド)』と呼ばれていたりいなかったり。
「しかし、『神徒』様二人がいてこれだけの被害。一体誰と戦っていたんですか?役立たずと少なからず思っているというのは隠すべき本音!」
「……。いや、少し昔からの因縁がある人物、というより子供とちょっと出会ってね。油断していた」
「それはご災難です。油断なんてしてるからだっつーの、なんてー!」
 おそらく、『神徒』とこんな口調で話せるのは全『パラ教』信者で彼女だけであろう。それはそれで彼女の武勇伝として語られている。
「……この姉ちゃん元気だな」
 それまで口を閉ざしていたヒノワが洩らす。そしてリリントリリルは(以下、リリー)その“姉ちゃん”という言葉に反応する。聖母の表情で。そして近づく。
「うんーうんー、君はいい子だねー。私をタブーで言わない子供は私大好きです。半端ねっす」
「タブー……。なんか変なおば」
 と言ったところで、いつのまにか奪っていたヒノワの神槍が首元に突きつけられた。もちろんリリーによって。同じく聖母の表情で。無刀取りではないが(槍だし)それに近いものをパスティンは感じた。少しの恐怖とともに。ちなみに反応したのは“おb”辺りだ。口の形で何を言おうとしているのか理解できるスキルを持っているに違いない。
「タブーの前に人間平等。『神徒』とて容赦しない」
「……」
 彼女は生まれて初めて死の恐怖を感じた。それもそのはず、『加護』で効かないのは“『神魔戦争』に関係していない攻撃”だけだからだ。というのはつまり、昔使われた武器や魔法、戦争に関係している人物からの攻撃が無効化できないということで、神槍による攻撃は防げない。そういう意味で、『加護』とは『魔王』(『新☆魔王』)には意味が無いものだ。
 そしてリリーはヒノワに武器を返す。固まっていた彼女だったが、ひとまず武器を消す。パスティンも同様だった。
「リリーさん、すみませんけれど用事ができたので、急用とやらの詳しい話は聞けなさそうですね。とりあえずどんな用だったかだけ言って下さい、用事が終わったらまた来ますから」
「いえ、大丈夫です。急用というのはただの嘘でしたから。ばっかでー」
 そして『神徒』をからかうことができるのも彼女だけに違いない。全世界中で。
「……とりあえずはセルベルを見つけて、それから『新☆魔王』の対策を考えよう。ヒノワ、行こうか」
「あい、了解ー」
 二人は穴からではなく、きちんと扉を開けてそこから外へ出た。そういうところは彼は真面目だ。リリーの「いってらっしゃい。帰ってこなくていいけどねー」という言葉に見送られて二人は町へと戻る。
「……それにしても凄い破壊力ね。私も試してみたいなー」
 残された彼女がその爆発の跡を見て感心と関心を示していた。だが、そんな彼女は地面に変なものが落ちていることに気がついた。好奇心旺盛な彼女は、特にそれが何であるかを確かめずにそれを手に取った。「なんだろうかしら、これ?」と呟いてから、改めて詳しくそれを見る。
「……指輪?売れるかな」
 ちゃっかり懐にそれを忍ばせた。



 夜になり、メイラたち四人が再び町の一角に集まっていた(裏道のような所だ)。別にこれは運良く出会ったとかではなく、有事の際に集まる場所を決めていたメイラの功労だ。既に一行はそれぞれの見に起こったことを話し終わっていて、今からはこれからどうするかということの話し合いが始まろうとしている。
「……で、話は戻るけどよ。『神官』の仲間への勧誘どうするんだ?あれだけ派手に暴れてまた礼拝堂に正面から戻るとかありえねえし、かといって行かなけりゃ話し合いもできねえし。それに『神徒』もそこにいるかもしれねえから絶対戻れねえだろ」
「うんうん、普通の意見をありがとね、るーくん」
 一人で頷きながら、馬鹿にしているかのような褒めているかのような。
「だけどごめんね、るーくん。あたしは天才だもん。それくらいの対策はしているのだー」
「な、ナルシストっ……!?」
 そういえば自分の事を『天才少女』などと呼んでいたということを、今になって彼は思い出す。
「あたしは転移とかとは相性が悪くて使えないんだけどね、それでも使えるようにすることは出来るんだよ、ちょっと工夫すれば」
 得意げに胸を張りながら、ご機嫌な表情でメイラは言う。
「この間見せた指輪、あれがあるところなら転移出来るようになるんだよ。えっへん、それを礼拝堂に落としてきといたんだよー。うん、あたしってやっぱ『天才少女』だよねー。うんー」
 ルゥラナとしてはそれを認めると、なんだか色んな意味で負けてしまう気がしたのであえて反応はしなかった。ただそれでも、「とてもじゃないが八歳の子供が考えるような手段じゃないよな……」とは考えていたが。これは小さな声で呟いていた。それを聞いたレクシスが、「それには変態たる私も同意見だね」と答えたため、ルゥラナは「じゃあ俺は意見を変えよう」という風な会話が密かに行われていたのだが、それを知るのは当事者の二人だけである。

       

表紙
Tweet

Neetsha