Neetel Inside ニートノベル
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HVDO〜変態少女開発機構〜
第四部 第四話「?」

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 寝込みを襲われました。
 とだけ宣言すると、どうとでも取られてしまう所が自分の辛い立場であると思うのです。襲ってきた相手はもちろん、我が家の隣に住む幼馴染、小便漏らしオブザイヤー殿堂入り確実との呼び声も高いくりちゃんであり、この場合の「襲われた」とはつまり、いよいよ恥さらしの人生に耐えきれず、本格的な五十妻暗殺計画にとりかかったという意味ではなく、性的な、言い換えればヤングチャンピオン烈的な意味合いでの「襲われた」の方なのです。
 ここまでで、おいおい待てよ、この野郎、のっけから貴様は我々良心的な読者に向かって自慢をぶちかまし、あろうことかそのまま被害者ぶった顔で逆レイプというご褒美をのうのうと受け取るつもりではあるまいな。と思う方もいらっしゃると思います。あるいは、またどうせお約束的な勘違いか、珍妙奇天烈なHVDO能力者による攻撃を受けているのだろう、とたかをくくって鼻で笑って心でうらやまし泣きの方もいらっしゃるでしょう。だから自分はここであえて言い訳もしません。ただ現実をありのままに、出来るだけ正確に伝えたいと思うのです。
 自分は毎朝のくりちゃん教官による拷問のおかげで、あらゆる痛みにわりと慣れた方なのですが、その日の痛みは今まで「1度だけ」しか経験したことのない物であり、その経験自体もくりちゃんによるものではなかったという記憶がまず蘇りました。くりちゃんの場合、大抵は肉体の殴打、つねり、関節絞め、呼吸の制限、冷水を頭からぶっかけたりだライターで産毛を燃やしたりだとか、なんというか非常に柄の悪い、DQNテイストの攻撃が主だったのですが、その日の朝の痛みは、そこにちょっとした性的な要素も含んだ、いじめとSMの境界線上にあるタイプの痛み、衣着せぬ歯茎丸出しの言い方をすれば、「ケツの穴」からくる正体不明の痛覚が接近、パターン青だったという訳です。
 それはかつて知恵様からいただいた「苦悩の梨」と比べれば些細な物でしたが、本来「出ていく」場所に「入ってくる」という不自然な感覚、しかもローション的な物もワセリン的な物も一切無しのギチギチという効果音が似合うガチンコ勝負に、まず目が覚めない訳がないのでした。
 自分の下着は寝巻きごと足首までずり下ろされ、当然のように下半身は露出、待ったなしの朝勃ち状態で丸出しのそれはまだしも、尻穴の入り口に感じる違和感は感情を伴いながら不規則に動き、そして目の前には嫌な仕事を嫌な上司に頼まれたOLのような顔をするくりちゃんがいたのですから、ベテラン刑事なら状況証拠だけで犯人を自白まで追い詰める所ですが、自分はちょっぴりHな超能力が使えるだけの一般的な男子高校生ですので、まずは軽く尋ねてみました。
「……あの、何をしてるのですか?」
「……」
 答えてはくれず、目もあわせようとせず、しかしまだ異物感はそこにあります。
「……くりちゃんの指が、自分のお尻の穴に入っていますけれど」
 わざわざ説明せずとも、見れば一発で分かる事ですし、指の主に話しかけているのですから、これは実に馬鹿馬鹿しい発言です。
「わ、分かってるよ!」
 くりちゃんは何がくやしいのか何に怒ってるのか全く分からない怪訝な顔でそう言うと、更に指を深くへとずぶずぶと入れようとしてきました。痛み耐性をある程度持っている自分とはいえ、くりちゃんはゴム手袋まできっちり装備しているらしく、摩擦の痛みに耐えられず自分が小さく悲鳴を漏らすと、元々そこそこの躊躇いがあったと見え一瞬手を止めてくれましたが、それでも指を引き抜くタイプの優しさは見せてはもらえなかったのです。


 現在自分の置かれている状況はなんとなく理解し、痛みと異物感によって強制的に目覚めさせられた自分は、少しずつ事態の整理が出来るようになっていました。部屋には2人きり、時刻はいつもより少し早め、腹は減っていますがそれどころではなく、どうしてかくりちゃんの表情は真剣で、お尻の穴に入っていない方の手にはカバーをかけた本を一冊持っています。
 その時自分がとっさにとった行動は、肛門を万力のような力でがっつりと締め、くりちゃんズフィンガーの進入を防ぐという、自分には珍しく常識的な(状況の非常識さは一旦置いておき)行動でした。親指の第一関節でかろうじて止まってくれた第十九使途アナルでしたが、このまま放置していたのでは再びジオフロントへと進行されるのは時間の問題であり、両親から授かったこの肛門括約筋も長期戦ではいささか不利なように思えました。
「……どうしたらいいんだ?」
 と言ったのは自分ではなく、くりちゃんです。「自分の台詞です」と主張するも、「お前は黙ってろ」と道理の通らない否定をされ、続けてこんな質問をキレ気味に放られました。
「どうやったら射精するのかって聞いてんだよ! 馬鹿!」
 ははぁ、と、朝からフル回転を余儀なくされた自分の頭脳は瞬時に答えを導き出しました。自分の置かれた状況、これまでの経験、そしてくりちゃんの性格、全てを分析し、「何故このヒロインは男の肛門に指を入れざるを得なくなったのか」という疑問に、納得のいく解説をつけられるようになった自分は別の意味においても変態的であるように思われました。
 攻撃は最大の防御。という言葉があります。これ自体は様々な解釈の仕方がありますが、ひとつには下手に守りを固めるよりも、攻撃力を研ぎ澄まし相手を早々に撃破した方が結果的に被害が少なくて済むという意味合いがあり、くりちゃんもこの考えをする事が時々あります。
 高校それ自体が変態化し、いよいよHVDOという組織の目的も徐々に明らかにされ、そして最強の変態を決める変態トーナメントが開催されるという未曾有のエロ展開を迎えるにあたり、これだけ深く関わってしまったくりちゃんが無関係でいられるなど考えられない事です。くりちゃんは口では拒否しつつもそれは認めざるを得ない立場にあり、自分の方からも、これまでにない程の恥辱が与えられるであろうという旨は既に伝えておきました。
 そんな絶望的な状況の中、くりちゃんはつまりこう考えた訳です。
『逃れられないのであれば、いっそ協力した方が事が早く済むのではないか?』
 くりちゃんにしては建設的な発想であると、頭なでなでも辞さない構えの自分です。攻撃は最大の防御、この場合、性技は最大の貞操、とでも言い換えられるでしょうか。くりちゃんは自らが「エロテク」を覚える事によって、戦いを速やかに、そして被害を最小限に済ませる事を思いついたのです。
 おおよそを理解した自分は、諭すようにくりちゃんに声をかけます。
「素人ではそう易々と扱える物ではありませんよ。『前立腺』は」
 前立腺。男性の金玉の付け根、膀胱の真下あたりにある器官で、紀元前の風俗嬢マリエール・バーダミクスはこの器官を利用して男達を自由自在に快楽へと誘ったという逸話は存在しませんが、とにかく男にとっての快楽中枢である事は間違いなく、クリトリスの男バージョンといっても差し支えのないやらしい部位です。よく分からない人はお父さんかお母さんに「うちってエネマグラあったっけ?」とさりげなく訊いてみると良いでしょう。
 くりちゃんは、HVDOの性癖バトルを少しは理解し、とにかくどんな方法であれ勃起させれば良いという解釈から、この方法を考え出したのでしょう。自身が辱められるよりも早く相手を辱めて強制的に勃起させる。そうすることによって自身の被害を抑えつつ自分に勝利を提供し、さっさとこの茶番を終わらせようという、数ヶ月前までは考える事さえおぞましかったはずの魂胆があるのです。
「う、うるせえ! いいからとっとと出して勃起を収めろ!」
 と、強がるくりちゃん。手にした本はおそらく、真面目なエロ本もとい人体の神秘的な教本か、あるいは最近流行りの男の娘系同人誌あたりでしょう。
 朝っぱらから幼馴染に射精を強制されるというシチュエーションはなかなかですが、いかんせんくりちゃんのテクニックが拙い事と、自分にその気がない事もあって、朝勃ちは一向に収まる気配を見せませんし、気持ちよくなってもきません。このままくりちゃんの気の済むまでお尻の穴を弄らせておくと、まず遅刻は確定ですし、これからの調教におけるいわゆる上下関係という物も曖昧になってきてしまい、それはあまりよろしく無いと思われます(極限状態でありつつもこんなに自分が冷静なのは、アナルの危険感知が緩んでいるせいかもしれません。後で絞め直す必要性があります)。という事で、自分はくりちゃんの誘導を開始します。
「はぁ。その程度ではいつまで経っても前立腺マッサージの練習は出来ませんよ」


 うるせえ! と表面上は強気なくりちゃんでしたが、指摘の正しさは理解しているらしく、ようやくアナルから指を引き抜いてくれました。そして質問がきます。
「とにかく勃起さえさせられるようになればいいんだろ? 早くその馬鹿を鎮めて、練習させろ」
「そうは言ってもですねえ……」
 息子を馬鹿呼ばわりされた自分は、内心ちょっと憤りつつも、まあその通りだなと認め、画期的なアイデアを提供します。
「くりちゃんがヌいてくださいよ」
「……抜く?」
 またまた、かわいこぶっちゃって、もう。自分は呆れつつも言い直します。
「くりちゃんがその手でこのちんこを握り、激しく上下させて射精させてください。そうすれば勃起は収まり、改めて前練(前立腺の練習)が出来ます」
 これだけはっきりと言ってあげたにも関わらず、くりちゃんは数秒間、自分の言った言葉の意味を反芻していました。やがてどんな行為を指しているのかを理解したのか、顔を赤らめつつ、叫びます。
「そんな事が出来るか!」
 いやいや。以前あなた、人のちんこをしっかりと握って、包丁でぶったぎろうとしていましたよね? という疑問も浮かんだのですが、まあ確かに、これまで自分はくりちゃんに様々な陵辱を施してきたわりには、1度も射精させてもらった事はないな、といういわばギブアンドギブな関係も想起され、いよいよもってこれは、何とか保っていた一線を越えつつも新たなステージへと進む心構えが必要なように思われました。まとめると、「手コキ」して欲しかったのです。
「そうは言っても、現実的な方法はそれくらいしかありませんよ。朝勃ちが収まるのを待つのも良いですが、遅刻していまうかもしれませんし」
 射精にかかる時間と朝勃ちが収まるまでの時間はむしろ前者の方が明らかに長いのですが、ここはあえて十代処女の陰茎に対する無知を利用させていただく形で、コトを進めます。
「それに、前立腺なんてマニアックな方法を取ろうという程の強者が、手コキ程度で躊躇していてどうするんですか。こんなもの、朝飯前に処理出来なくては、セックスマスターにはなれませんよ」
 そんなバトルマスターと遊び人を極めて転職出来るような職につきたいなどと、くりちゃんは一言も言っていないのですが、とはいえ反論の声もあがりませんでした。一理あると思ったのか、はたまたもうなんか面倒くせえやとなったのか、とにかくくりちゃんは覚悟を決めたように自分の股間にある天空の剣をむんずと掴み、ぷりぷりの亀頭に向けてメンチをきりました。
「いきなりは駄目ですよ。最初はゆっくり」
 くりちゃんの柔らかい手の感触に圧倒されつつも、自分はザックばりの的確な指示を出します。
「もっと全体を包み込むようにしっかり握ってください。勃起している方向に逆らわずに……」
「こ、こうかよ?」
「そうそう。良い感じですよくりちゃん」
 自分の台詞だけを見ると、熟達のAV男優を彷彿とされるかもしれませんが、その皮膚の1枚下では心臓がピンボールのように跳ね回っていました。考えてみれば、毎朝起こされ、性癖も十分承知され、何度も裸を見て見られ、おしっこまで飲んだ相手だというのに、具体的な、鶯谷でなら金銭のやりとりが発生する行為をこうして直接依頼したのは、なんとこれが初めてだったのです。
 くりちゃんの朱に染まった横顔を視界に捉えつつ、ぎこちない右手の律動に耐えかね、自分は必死に呼吸を整えながら、ゆっくりと湧き上がってくる射精感を楽しみました。背中を伝う脂汗を気取られぬように涼しい顔をしながらも、時々感情的になる5本の箱入り娘に、汚らしくも愛おしい我が子を委ね、こっそり悦に浸りました。
 この手コキという行為は、思うに相当卑猥な行為です。何をいまさら、と侮る事なかれ、何せくりちゃんが普段日常生活で使っている「手」というマルチツールが、ゴム手袋越しとはいえ異性の性器、それも自分の物に触れているのです。箸を使ってご飯を食べる時、歯ブラシを使って歯を磨く時、パソコンのキーボードを叩く時、トランプをシャッフルする時、カーテンレールを取り替える時、秘密を共有する為に人差し指を立てる時、自分はきっとこの瞬間を思い出し、そっとほくそ笑む事でしょう。その時澄ます指達は今、自分の男性器を射精へと導く為に活動しているというこの現実。下劣で猥褻な献身行為は、脳に深い皺となって刻まれ、更に興奮を呼び起こしました。
「うっ、出ます!」
 と、宣言すると、くりちゃんは驚いたのか肩を尖らせ、一瞬手の動きを止めました。
 そしてそのタイミングを見計らっていたかのように、あるいは神様が調整したかのように、またまたあるいは古より続く「お約束」という名の悪魔が今まさに飛び立つ天使(ちんこ)の足首(金玉)を鷲づかみにしたのか、とにかく自分の射精はキャンセルされ、金玉から苦情が届いたのです。
「ありゃ、邪魔しちゃったみたいだな。でもそんな事してると遅刻するぞ」
 首を90度横に向けると、そこには少しだけ開いたドアの隙間から覗く母の顔がありました。悠々自適の家事丸投げ一人暮らしに慣れきっていたせいもあってか、こういった「性行為」を肉親に見られるという経験も懸念もない自分にとって、それはまさしく青天の霹靂というか、東京上空のオーロラだった訳です。
「くりちゃん。いじめないからお嫁においで。それでそいつの馬鹿を治して」
 自分勝手な台詞を残して、母は笑いながら階段を下りていきました。
 気づくとあれだけ怒張していた自分の息子は、ゴム人形のようにだらしなく笑い、その分のエネルギーを吸収したかのように、見当違いの激怒をしたくりちゃんが自分を睨んでいました。


 図らずも母親に我が息子(この場合は孫にあたる訳ですが)の全力をご披露してしまった自分の心の傷などおかまいなしな様子で、自分が制服に着替えている間もくりちゃんによる一方的な愚痴はひたすらに続き、寸での所で発射中止を余儀なくされたマイテポドンの件もあって、自分は内心のイライラを隠そうとはせずにいつも以上の仏頂面でくりちゃんの話を聞き流していましたが、家を出て電車に乗ってもまだそれが続いていたので、いよいよもって自分は理詰めという大人気ない男の武器を使わせていただきました。
「くりちゃん。男を勃起させる練習をしようと自分の寝込みを襲ったのはあなたですよね? こんな風に言うとあなたはいつも『あたしを巻き込んだお前が悪い』とか抜かしますが、しかし考えてもみてください。家が隣同士の同級生という時点で既に自分とくりちゃんは関わりを持ってしまっている訳です。それに、例えば音羽君の件だとか春木氏の件だとかは、はっきり言って自分の預かり知らぬ所で勝手にくりちゃんが被害を受け、自分はそれを曲がりなりにも助けた形であるのです。感謝こそされても文句を言われる筋合いはありませんし、いくらくりちゃんがおもらし上手という稀有な才能を持っていたとしても、こちらとしては女子の選択肢など無限にあるのです。例えば三枝委員長。あなた三枝委員長に勝っている部分が一つでもありますか? 知性、品性、性欲、どれをとっても三枝委員長の勝ちです。自惚れないでいただきたい。巻き込まれやすいくりちゃんを自分が救う。その分だけ働いてくださいと、自分はこう言っているだけの事ですよ。それに、今朝の事に関しては自分の方がむしろ被害者です。寝込みを襲われ、痴態を母親に見られ、あなた自身は乳首すら見られてないではないですか。にも関わらずそれだけ文句を垂れるとなると、三枝委員長の痴女っぷりを加味したとしても人間性ですら大敗してしまいますよ」
 後半になってくると、くりちゃんは目に涙を溜めて自分を見上げていました。特に三枝委員長との比較の件は相当に堪えたらしく、電車がホームに入ると同時、「死ね! バーカ!」と小学生でも噴飯モノの罵声を浴びせて駆け下りていきました。
 まあ、確かにちょっと、女子に対して他の女子との比較論で頬をはたくような行為はいささか男らしくなかったかもなと反省しましたが、しかしこのくらいのキツいお灸を据えなければ、上下関係をはっきりさせる事は出来ませんし、今朝自分は危うく逆レイプまがいの事もされそうになったのですから、多少の心傷は許される範疇と思われます。「それでもあなたのおもらしは素晴らしいですが」とフォローの1発でも入れておけばまだマシだったかもしれませんが、逆効果であるという説も浮上してきています。
 何はともあれ、自分はくりちゃんを追いかける事はせず、ゆっくりと学校に向かい、1時限目の途中に教室につきました。
 学校に来るだけで随分と疲れたなぁとため息をつきつつドアを開くと、授業を受けているはずのクラスメート一同の姿はなく、荒縄で縛られ、天井から吊るされたくりちゃんと目があいました。
 やっぱり巻き込まれているじゃないですか。と思いつつも、くりちゃんの隣にいるドヤ顔の男と軽く会釈をかわして、ささっと宣言させていただきました。
「自分は女子のおもらしが好きです」
 男はにやりと笑い、答えます。
「良い度胸しとんなぁ。くくく、俺の性癖は、『緊縛』や」

       

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