Neetel Inside ニートノベル
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「なあ、お前はおもらしが好きなんだよな?」
 いつもよりどっかりと目の据わったくりちゃんが、今更にも程がある確認をしてきました。
「当たり前です」
 自分は胸を張って答えます。散々ぶち上げた処女崇拝論などは、あくまでも変態ならばこう考えるであろうという一般論ならぬ変態論であり、本来自分の専門とする所ではありません。自分は生粋のオモラシスト。その点において変わる事はありません。
「前に……言ってたよな?」
「何をですか?」
「その……あたしのおもらしが……『良い』って」
 確かに覚えがあります。変態トーナメントが開催された時、自分はくりちゃんのおもらしが世界一であると保証し、確信を得、それによって勝利を得たのです。
「ならさ……」
 くりちゃんは言いにくそうにしていますが、促さずに言葉を待ちます。
「三枝委員長のおもらしは、どうなんだよ?」
 処女崇拝のヤバさを説き、事の緊急性を教えたというのに、まだ嫉妬全開のくりちゃん。
「おもらしするあたしと、おもらしする三枝委員長だったら、どっちを取るんだよ」
 おそらくくりちゃん的にはかなり勇気を絞った質問なのでしょう。これには自分もマジメに答えなければならないと思いました。
「くりちゃんです」
 瞬間、くりちゃんの顔が一瞬パアァッと明るくなりましたが、すぐに平静を取り繕いました。
「だ、だろ? まあ全然嬉しくないけどさ! この変態が!」
 高揚した声に緩む口元、ほつれまくりの平静でしたが、自分はくりちゃんのおもらしを何より評価しているというのは確かな事実です。行為中の恥ずかしぶりといい、終わった後の泣きながら後悔する感じといい、漏らす前のツンツンした雰囲気からのギャップといい、くりちゃんはおしっこを漏らす為だけに生まれてきたのではないだろうかと思う程に完璧な要素を備えています。
「でも、それだけで選べる訳ではないんですよ」
「は?」
 くりちゃんの表情が一変しましたが、自分は続けます。
「確かにくりちゃんのおもらし姿は素晴らしいですが、なんというか、三枝委員長は自分を成長させてくれるんです。三枝委員長は筋金入りの変態です。自分の裸を見られるのが大好きな、手に負えないド淫乱です。でも、だからこ
そ自分の性欲を満たす為なら努力を惜しまない」
 そして三枝委員長自身のスペックの高さは、あらゆる事を可能にし、いとも容易く変態の限界を超えていきます。
「それに、あれでなかなかかわいい所もあるんですよ。実は昨日……」
 と、ここで自分は気がつきました。くりちゃんがぽろぽろと泣き始めている事に。


「あ、いや違うんですよ。自分は昨日、三枝委員長と半年ほど旅をしてまして」
「……意味わかんない」
 くりちゃんはなかなか顔をあげてくれず、自分はあたふたと説明を続けます。
「自分のHVDO能力に『ヨンゴーダイバー』というのがありまして、それを使うとその人と死後の世界、つまり精神的に深い所に潜る事が出来るんです。で、それを使って三枝委員長の世界に入ってみた所、そこはファンタジー世界だったんです」
「なんで……?」
「なんでと言われても……。いや、潜ったのはもっと冷静に三枝委員長の事を知る必要があったからでして、ましてや三枝委員長はHVDO能力を全て捨ててしまったらしく、これは真剣に彼女の事を理解する必要があるなと自分は判断しまして」
「彼女……?」
「いやそういう意味の彼女ではないですよ。あくまでもSheという意味です。それでその潜った先の世界で、自分は全裸の三枝委員長と旅をする事になりまして」
「なんで全裸なの……?」
「まあその、色々あったんですよ。呪いとか、国とか、姫とかそういうファンタジー的な事情がですね。それで半年も旅をしていると、流石に色々と情も湧いてしまって」
「……」
 一体何なんでしょうか、このプレッシャー。自分は汗だくになりながら精一杯弁解しましたが、言えば言うほど嘘臭く、なんだかとんでもなく荒唐無稽な話をしている気になってきて、確かに実際そうなのですが、いたたまれなくなってきました。
「……れよ」
 暗くなった目に鋭い眼光。
「え?」
「……潜れよ!」
 掴まれる胸倉と、それに従って絞まる首。
「ちょ、くりちゃん! 落ち着いてください!」
「いいから潜れっつってんだろタコスケが! おしっこでも何でも漏らすからよ!!」
 逆ギレといっていいのか、それともただのキレなのか、判断に困る所ですがとにかく今は宥めるしかありません。
「まあまあ、落ち着いてください。そんな風な態度でするおもらしはおしっこに失礼ですよ」
「今はそういう話をしてるんじゃねえ! あたしの事をもっと知りたいのか知りたくないのかって言ってんだ!」
 えらく積極的というか自暴自棄なくりちゃんもそこそこ素敵ですが、ここは冷静に、
「残念ですが、それは出来ません」
「なんでだ!?」


「既にくりちゃんはHVDO能力者を自覚していますよね?」
「……認めたくはないけどな」
「その状態で、自分が『ヨンゴーダイバー』をくりちゃんに対して発動すると、それが戦闘とみなされる可能性があります」
「せ、戦闘?」
「性癖バトルです。くりちゃん自身が戦った事はないでしょうが、くりちゃんのおもらしは数々の敵を倒してきました」
「ああ……」
 と、くりちゃんが過去を思い出したのか一瞬うなだれましたが、すぐに気を取り直したようで、なおも噛み付いてきました。
「別にあたしは負けてもいい! だからさっさと潜れ!」
 くりちゃんの「眠姦」は、それ自体が好きというよりは、自分が恥ずかしい思いをせずに済む方法として開発された物です。
「そうではありません。自分が勝ってしまうのがまずいのです。昨日の朝、自分は春木氏に勝った事により9個目のHVDO能力を得ました。なので次に勝利を収めてしまうと、『世界改変態』が起きます」
「な、何じゃそりゃ」
「自分の性癖に合わせて世界全体を作り変える事の出来る究極の能力、いえ、『現象』と言った方が良いでしょうか」
 ぽかんとするくりちゃんに説明を続けます。
「今、このタイミングで世界改変態を起こす事は得策とは言えません。何故なら、世界改変態は使用者の心の底の欲望を引き出すので、具体的に何が起こるかが分からないのです。もしかするとそれによって崇拝者を追い詰める何かが得られるかもしれませんが、その可能性はおそらく低いでしょう」
「何でだ?」
「崇拝者は、自分が9個目のHVDO能力に目覚めた事を当然知っているはずです。にも関わらず、何の妨害もしてこないという事は、それほど危険だとは思っていないという事ではないでしょうか。あるいは何が起きても計画を変更しない自信がある。となると、あまり芳しくない事が起こった時に、結局損をするのは我々だけです」
 要するに、ボス戦の最初からパルプンテを唱えるのは早計過ぎるという事なのですが、くりちゃんにそう説明しても分かってくれないでしょうから、遠まわりな説明になりました。
「じゃ、じゃあ何で三枝委員長のには潜ったんだよ?」
「三枝委員長はHVDO能力を生贄にしたので、現在性癖バトル不能状態と先ほど言ったはずです」
「生贄? 何で? ていうかかそんな事出来るのか?」
「これ以上はプライベートな事なのでちょっと」
「死ね!」
 何と言われようと、その理由を詳しく教える訳にはいきません。三枝委員長の一途な思いと、それに感化されつつある自分を知らせてしまってはいよいよ刺されかねません。
「という訳なので、くりちゃんに『ヨンゴーダイバー』を発動する事は出来ません。分かってください」
 実は先の理由の他に、もしかするとくりちゃんの精神を覗いた瞬間に自分が負けてしまうという恐怖があった事はあえて伏せておきます。そうなれば崇拝者と性癖バトルをする事自体が不可能になりますので、やはり死策です。
「……」
 恨めしそうに自分を睨むくりちゃん。その眼差しに冬眠出来なかった熊のような獰猛さを感じ取ったその直後、衝撃音と共に自分の鼻から血しぶきが上がりました。次に痛みがやってきて、くりちゃんが繰り出したのが頭突きである事を理解します。
「いいからおもらしさせろ!」
 数ヶ月前のくりちゃんからは想像も出来ない台詞が飛び出し、自分はあっという間にマウントを取られました。

       

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