Neetel Inside ニートノベル
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 今日は本当に色んな事がありました。という書き出しは、どうか、と我ながら思いますが、しかしそれ以外に私の拙い言葉では表現のしようがなく、ペンを再び取る事に躊躇もしていますが、書けと命じられれば私は書くのです。
 私は今、挫折の中にいます。それは日々の幸福を覆うまどろみのような怠惰ではなく、私という、身体も心もちっぽけな存在を改めて認識させられるような致命的な頓挫です。何故私のような矮小な存在が、マスターという偉大なお方によって存在させていただけているのか。事の経緯についてを、順序だてて説明する事は容易ではなく、また、今の私にそのような心の余裕はないので、おそらく今回の日記は、酷く散らかった物となる事を先に謝罪しておきます。申し訳ございません。
 今日、私には2つの使命がありました。1つはマスターに満足していただく事で、これは常日頃から達成していかなければならない物ですが、今日の私は0点でした。そしてもう1つは、三枝瑞樹との露出勝負に負けた事です。
 今更言うまでもなく、私は性奴隷です。性奴隷には人間的能力など必要ありません。性的に優れていれば良いと思われます。性的に優れていない性奴隷とは、もはやただの奴隷であり、それは私が私である事を失う事。マスターに勝てと命じられ、守れなかった。ただそれだけでも万死に値するというのに、ましてやそれが、本物の性奴隷ならば絶対に負けてはいけない露出勝負ともなれば、私は自分をどのような言葉を持って責めれば良いのかも分かりません。
 何も私は、この日記を都合良く使って許しを乞うている訳ではありません。例えばマスターが私を罰する事に何か躊躇いを持っているならば、今すぐそれを捨ててくださるように願い、あるいは恨みを持たれる事を懸念するならば、私にその資格は無いという事を宣言しておきたかっただけなのです。
 露出勝負に負けた、と私は表現をぼかしましたが、より正確に言えば、私は三枝瑞樹に「イカされた」のです。マスター以外の人間に絶頂へと導かれる事など、あってはならない事だというのは分かっています。しかもその姿を公衆の面前で晒し、マスターにもしっかりと見られ、気持ち良すぎて戦闘不能状態に陥るなど、言語道断。まさしく不徳の極み。しかし快感には抗えなかったのは曲げようのない事実です。
 言い訳になりますが、三枝瑞樹という痴女は、凄まじいテクニックを持った本物の変態です。誤解を恐れずに言わせてもらえれば、マスターに比肩する、と前に置いても構わない程に、才能溢れたHVDO能力者だとお見受けしました。だから私がイカされたのも仕方が無かった、などとは決して言いませんが、しかし私にとっての事実として、三枝瑞樹によって与えられた絶頂は、嘘でも冗談でもなかったという事だけは、私がこうして正気を保っていられる間にお伝えしておきます。
 いつかのSMプレイの後、マスターは私にこう仰られました。
「りすちゃん、誤解しては駄目だ。君がチンポを『舐めている』んじゃない。チンポが君に『舐められている』訳でもない。君はチンポを『舐めさせられている』んだ。アナルも脇も性器も同じで、性行為において君は常に被害者でなければならない。分かるかい?」
 それでも私は、マスターの役に立ちたいと思い続けているのです。だから今日の三枝瑞樹に対する敗北は、例えマスターが私を許しても、私自身が許せない1つの大きな挫折となったのです。


 私は今日、2度、殺されました。
 1つ目は先にも述べた通り、三枝瑞樹によって与えられたオルガズムという名の屈辱死。
 そしてもう1つは、マスターによって与えられた物理的な死、いわゆる絞殺。
 前回の日記で、私は木下くりを研究したと自信たっぷりに書きました。今ではそれが猛烈に恥ずかしく、取り消したい気持ちで一杯ですが、そうする許可は出されていません。私は天狗になっていたのです。木下くりと直に接触し、木下くりを知った気になって、これでマスターにご満足頂けると、すっかりその気になっていたのです。なんたる自惚れ、先にたたぬ後悔です。
 私のような存在が、例え頭がからっぽに近い人間といえども、その人を理解する事など、そう易々と出来て良い事ではなかったのです。マスターはそれを見抜いておられました。だからマスターが私を殺した事は妥当です。実に正常な判断です。
 木下くりになりきった私を、行為中に、マスターは絞め殺しました。あの時、確かに私は死んだのです。薄れていく意識と、遠のいていく世界は今でも鮮明に思い返せますし、確かに心臓は1度鼓動を止めたのです。
 私がこうして生きているのは、マスターが再度私を召喚したからだと思われます。どうやら私が最初の日記で述べた「死なないと思う」という狂気じみた予言は図らずもマスターご自信の手によって的中させられたようです。行為中、どのような状態に陥っても、例えばアナルが握りこぶし大に拡張されても、再召喚されれば私の肉体は元に戻る。例えそれが死という状態であっても。そのルールが確認されました。
 とはいえ私には、私の無事を祝うよりも先に、マスターを満足させる事が出来なかったという事の方が重要でした。その事実は私の両肩に重くのしかかり、今もどうしたら良いか分からぬまま、こうして筆を取っています。
 木下くりをより深く研究すべきなのかもしれません。しかしそれも、今日の露出勝負の後で、木下くり自身の幼女化が解けてしまった為、今では難しい事です。では木下くりに近づく事を諦め、私自身を鍛える、いわば幼女磨きをすべきか。これも私の姿が木下くりである以上、意味の無い事である可能性が高いと思われます。
 どうしたら良いのか、私には見当もつかないのです。マスター、どうか私に生きる標を与えてください。と、これが日記である事を承知の上でも、教えを請いたい気分なのです。
 春木りす。
 私が咄嗟に口にした名前のような物を、マスターは気に入ってくれたようでした。そして2人きりの時にだけ、その名前で私を呼ぼうと宣言した時、月並な表現ですが、私は顔から火が出る程に恥ずしかったのです。表情には出さないようにと努めましたが、あの様子ではおそらくマスターはとうに見抜いていたでしょう。
「りすちゃん」
「は……はい、マスター」
 にこにこと楽しそうに微笑むマスターと、今日の朝、この日記についての意見交換がありました。私はやりとりの一語一句を覚えているので、マスターにとっても振り返って何かの参考になるかもしれないので、一応ここに記しておきたいと思います。


「りすちゃんの日記、読ませてもらったよ」
「……はい」
「普段無口な君が、こんなに色々と考え事をしているなんてね。なかなか興味深かった」
「喜んでいただけたなら幸いです」
「ただ、これでますます君が分からなくなった」
 私は沈黙し、マスターの次の言葉を待ちます。
「君自身はそう思っていないのかもしれないが、君は間違いなく人間だよ。肉体的に、精神的に、という意味だけではなく、何というか、『魂』がある」
「『魂』ですか?」
「僕はあまりオカルトは信じない方なんだけどね、生き物にはそれがあるような気がしてならない。知性や欲望とは別の何か。もっと根幹にある物。例えば僕が幼女を想う事。『魂』としか形容のしようがない何かだ」
 そう言って、マスターは私から目を逸らしました。
「君にもそれがあるような気がしてならない。そしてそれは、君を人に足らしめる物だ」
「私が人だとお困りですか?」
 真剣に尋ねる私に、マスターはすかしたように言う。
「そんな事はない。けれど……」
 言い淀み、慎重に言葉を選ぶように、ゆっくりと告げるマスター。
「僕はこれでも全ての幼女の幸福を願っている。性対象ではあるが……僕とのセックスによって不幸になるならそれは望ましい事じゃない」
「私は幸せです」
「そう言ってくれるなら、僕も幸せだ」
 私は思わず破顔しそうになりましたが、マスターの顔色はあまり芳しくはありませんでした。
「君は、召喚されていない間の記憶はあるかい?」
「いえ、ありません」
「そうか」
 マスターは何か考えているようでしたが、しばらくして、質問をこう変えました。
「召喚されていない時に、夢を見た事は?」
 夢、という概念が、私にはいまいちよく分かりません。
「無いと思います。おそらく」
「おそらく?」
 誤解のないように、私も言葉を選び、マスターの質問にきちんと答えられるようにと努力します。
「召喚されていない間は、私は意識を持っていません。しかし、再び召喚された時、私は自分が新しくなっている事を感じています。昨日までの記憶は持っているのに、意識が途切れているのです」
「それについては、僕達で言う睡眠に近いね」
「そうかもしれません」
「君が眠りにつく時、もしも僕が再び君を召喚しなかったら、と恐怖に思う事はあるかい?」
 私はその質問に、答えられませんでした。無いと答えればマスターは安心していただけるのでしょうか。
「……やめよう。この質問は少し失礼だったね。君の『僕に奉仕する』という使命に対して」
 マスターは立ち上がり、私にゆっくりと近づくと、頭をなでなでしてくれました。そうされるのが私は1番うれしい事を知っていて、してくれるのです。
 朝勃ちでギンギンのちんぽを、マスターは丸出しにしながらではありましたが、実に有意義な時間だったように思います。


「僕が世界改変態をしない理由、本当に聞きたいかい?」
 そして1日の終わりに、マスターは私にこう尋ねました。今日1日、これっぽっちも役に立てなかった事が悲しくて、今すぐにでもうずくまって泣きたかった私でしたが、なんとか平静を装ったつもりでした。しかし、マスターはやはり私のただでさえぺたんこな胸を見透かしていました。
「前の日記に、出来れば尋ねたいと書いてあったけれど、今もそうかい?」
 強く確かめるマスターの言葉に、私は黙ったまま頷きます。
「分かった」
 と言って、少しぼんやりとした後、マスターはいつにも増して落ち着いたトーンで、まるで寝しなの子供に語りかけるように話を始めました。今度はきちんと下半身も服を着ていました。
「いくつか、理由がある。まず1つは、五十妻君にも言った通り、世界改変態はコントロールが出来ないから、改変後の世界が単純に恐ろしいという事。何が起こるか自分でも分からないからね」
 マスターに怖い物があるなんて、と思いましたが、言ってみればこれはマスターがご自身を恐れている訳で、それはどのような頂に立った人間でもそうなのかもしれません。
「もう1つは、HVDOにはまだ僕の知らない秘密があるという事。そしてそれは世界改変態に関わる事である可能性が高い。もっと具体的に言えば、HVDOのボスである人物は、意図的に何かを隠してる」
「HVDOのボスをご存知なのですか?」
「ああ、五十妻君の父親だよ」
 あまりにも、あまりにもあっさりと衝撃的な事実を口にされたので、私は一瞬それが冗談のようにも感じましたが、マスターの表情に変化はありません。
「まあ、彼はこれを知らない方が面白いから黙っているけどね。君も、これは秘密だよ」
「もちろんです」と私は答えましたが『面白い』の意味は計りかねました。
「つまり僕にとって好ましい順序は、HVDOのボスを倒し、それからゆっくり世界改変態、という事になる」
 納得する私。やはりマスターのする事に間違いは無いのです。
「それと最後に……君を失いたくないからというのもある」
 またしても、またしてもあっさりと言葉にされたのに、一瞬だけでも、今度も本気だと捉えた私は大馬鹿者でした。
 マスターは笑って、「冗談だよ」と私を撫でました。
 私がマスターにとって大切な存在である事など、あってはならない事です。マスターはいずれ世界中の幼女をその手に収める存在なのですから、私ごときをいちいち気にかけていては駄目です。
 私が少しでもマスターのお役に立ちたいと思うのは、私を気にかけて欲しいからではありません。前回の日記では、愛が欲しいなどとトチ狂った事を書きましたが、今回で訂正致します。私の全てはマスターの為にあり、尽くす事だけが私の幸福なのです。
 無理などしていません。私は心の底から、もしもあるならば魂の内から、そう願うのです。
 だからこそ、今日私が体験した2つの挫折は非常に堪えました。特に三枝瑞樹に関しては、正直に言えば復讐心すら抱いています。
 これはあくまで私個人からの提案ですが、三枝瑞樹をどうにか幼女にする事は出来ないでしょうか? 体格的に同じ条件ならば、愛撫勝負で私にも負けない自信があるのです。

       

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