Neetel Inside ニートノベル
表紙

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 自分、五十妻元樹15歳は、変態としての道を極める余り、人智を超える能力を会得し、並々ならぬ変態共をばっさばっさと袈裟斬りにして参りましたが、いよいよを持って敗北を味わう事となり、性的不能者へと成り下がってしましました。
 しかもそれは、ただ単に勃起しないというだけではなく、これまでに得てきた能力全ての放棄を意味し、今は第一能力すら使う事が出来ないのはもちろんの事、例え息子に元気が戻っても、再び他の変態共との死線をくぐらねば、第4の能力までを取り戻す事は叶わないとの事らしいのです。
 春木氏に決定的敗北を喫したその翌日より、毎夜、悪夢にうなされる日々が続いています。
 自分の内側には、あの日に抱いた疑問が今もぐるぐると渦巻いていて、それは分かりきった答えに向かわずに、ただ残酷に、つけられた深い傷跡を舐め、治りを遅くするのに徹しているように感じられ、非常に不愉快で、不条理で、不謹慎な物なのです。
 果たして自分は、ロリコンなのでしょうか。
 ロリコンではない男などいない。と暴論で押し切る事も出来るでしょう。誰それよりはロリコンではない。と回避行動をとる事も出来ます。そもそもロリコンで何が悪い。と開き直るのもまた1つの手です。
 しかし自分の厄介な性分は、この果てしない疑問と対峙する事を望み、また、それを解決した暁にこそ、我が息子を正しく勃起させられる、このまま暗い雲をかけたままちんこに血液が流れ、海綿体が硬化すれば、左曲がりもやむなしと思い込んでいる節さえあるのです。
 無論、今でもおもらしは好きです。しかし春木氏の攻撃を受け、過去の自分を見つめる機会を与えられた時、自分は幼女がおしっこを垂れ流す所が心底好ましく、それは自らの血肉と引き換えであったとしても、何が何でも眼窩に収めたい、やんごとなき理想絵図であると確信させられたのです。
 敗北の後、自分の中に残ったのは、意外にも後悔や絶望では無く、新しい発見であったとも言えるのです。気づかぬ内に、あえて潜めた内なる自己。ロリコンである事。おもらし好きである事。そして変態である事。
 きっと、等々力氏も似たような葛藤を経験したのでしょう。今の自分にはそれが痛みとして理解出来ます。お気に入りのエロフォルダを開いて、5本の指に入るような傑作エロ画像を目の前に表示しても、ぴくりとも反応しない息子を見ると、そこに以前の猛々しく男らしい姿は無く、まさにふにゃちん。いっそ美女のハイヒールでもって踏まれた方が、いくらか格好がつくと思えるくらいの体たらくぶりで、自分はその度、誰にも聞こえぬように嗚咽を漏らすのでした。
 惨敗。
 それから、春木氏は自分に敗北という屈辱だけではなく、とんでもない物もプレゼントして去っていきました。これから先のエピローグにて、この物語は一旦終幕を迎え、いずれ再勃起するその日まで、自分は変態として精神面での修練に努めたいと思います。
 エピローグ、自分とくりちゃんのその後。フルマックスロリコネルバースト。飽くなき衝動のその果てに、自分は世界の真理を見つけたのです。


エピローグ


「もとくーん、起きて。朝だよー」
 一点の曇りもない、純真な少女の声。瞼は無抵抗に開き、朝日に照らされた少女の柔らかい頬から、自分は目を離せなくなります。
「ああ……くりちゃん」
 まるで霞でも掴むかのように、手の平で宙をかくと、くりちゃんは「どうしたの? また怖い夢?」と心配そうに、手を握り返してくれました。
 自然と、涙が零れ、その言い訳に、太陽が眩しいからと答え、自分の1日は、始まります。
 くりちゃんは、自分が春木氏と戦ったあの日の姿、小学五年生の時の姿のままに、エプロンをかけ、右手にはおたま。表情だけではなく体全体から、優しさだとか母性だとか、女子にあるべき物をしとどに溢れさせ、泣いて土下座して頼み込んだら1発やらせてもらえそうな、そんな隙もあって、つまり端的に言うと、最高峰のロリなのでした。
 そんなロリに見とれて、いやいっその事、今日は学校になど行かず、1日中見とれていようと考えていると、
「もう! もとくん早く支度しないと遅刻しちゃうよ?」
 頬を膨らませて、ぷんぷん、というあざとい擬音が自然に似合う程なんともかわいらしい、人を癒す類の怒りを自分にぶつけるのでした。
 起き上がり、部屋を出て階段を降り、食卓につくと、ほんの少しの品目ですが、一生懸命やったのが伝わってくる料理が自分を迎えました。白米と、味噌汁と、目玉焼き。多少物足りない感はありますが、何より自分の為に朝早くから頑張ってこれを作ってくれたという事実が美味なのです。
 そして学校の支度をして、玄関。くりちゃんは寂しそうに、だけど仕方ないと分かっている、複雑な笑顔で自分を送り出してくれます。自分はいつものように、「早めに帰りますが、何かあったら学校に連絡してください」とだけ言って、今にも泣き出しそうな「……うん」を背にして、学校へと出発するのです。
 さて、泥水をすするべき敗北者である貴様が、何故ゆえにこのような超勝ち組ライフをエンジョイしているのか、と疑問に思われた方も若干名おられるかと思われます。その理由を説明するには、自分が春木氏に敗北したあの時点まで、少し時間を戻さねばなりません。


 記憶の世界から音羽邸に戻ってきた2人。股間を押さえて絶叫し、のたうち回る自分と、それを至って冷静に見下ろす春木氏。三枝委員長と音羽君は何があったのか分からずに混乱し、音羽(兄)は知らぬ間にどこかへ逃げてしまっていました。そしてくりちゃんは、自分の痛々しい姿を見て、あろうことか指をさして笑っていました。
 だからくりちゃんは馬鹿なのです。自分が春木氏に負けたという事はつまり、
「くりちゃん、君も笑っている場合ではないんじゃないかな?」
 何も喋れない自分の代わりに、春木氏が代弁してくれました。
「五十妻君が負けたという事は、君も小学生の姿から戻れないという事だよ?」
 くりちゃんは驚愕のあまり、顎が外れたように口をぽかんと開けていました。
「だだだだって! あたしはお前に協力しただろ!? 協力したら元に戻してくれる約束じゃ……!」
「でも裏切ったよね?」
 自分はここで初めて、春木氏の中に「怒り」という感情を発見しました。それはとても赤黒く、自分のような凡人では、到底汲み取れぬ程に深い、強烈な物でした。
「た、確かに裏切っちゃったけど、だってあれは……オナ……その、酷い事させようと……するから……」
 どんどん声がちっちゃくなっていくくりちゃん。勝ち目なんてある訳がないのです。ただでさえ裸ランドセルという無茶苦茶な格好をしていては、精神的に弱者の立場に立たされ、強く物も言えません。
「わがまま言う子、僕は嫌いだな」
 春木氏はそう呟くと、すっと手を伸ばし、くりちゃんの頭に触れていました。するとくりちゃんはまるで催眠術にでもかかったように、かくっと膝から折れ、その場に倒れてしまいました。
「五十妻君、聞こえているかい?」
 自分は返事もできませんでしたが、うずくまりながらも一部始終を見ていました。
「等々力君を倒して得た能力が非常に面白い物だったんでね、くりちゃんに試させてもらったよ。この能力は第一能力と同じく、僕が解除するか僕を倒せば、いつでも元に戻す事が出来る。君がどう行動するかは、君次第だけどね」


 春木氏はくりちゃんから、「記憶」を奪い去っていきました。
 くりちゃんが失った記憶は、現在から小学5年生のある日までの物。
 つまり今のくりちゃんは、おもらしをする前日までの、決して暴力を振るわない、無垢な心を持った、汚れを知らないくりちゃんになってしまったのです。
 よくよく思い出してみると、自分は、くりちゃんがおもらしをした現場を目撃した次の日、学校でその事を言いふらし(当時の自分に悪意はなく、ただその余りにも衝撃的な光景に興奮冷めやらず、誰かれ教えたくて仕方が無かったという事はここで明言しておきます)、何せ小学生ですから皆その手のスキャンダルは大好物で、ましてやクラス委員長まで勤める優等生が失禁をしたとあって、瞬く間に噂は広がり、それまでの人生で最高の大恥をかかされたくりちゃんは次第に塞ぎこむようになり、真面目である事も素直である事もやめて、周りの人間を敵視しながら成長し、格闘技を覚え、髪も染めたのです。
 自分が自らの性癖に目覚めたのはくりちゃんがきっかけですが、くりちゃんが孤立化したのは自分が原因だったという訳です。ははは。
 春木氏の能力によって、ピュアな心に戻ったくりちゃんは、自らがどのような事態になっているのか理解できず、しかしかろうじて幼馴染が中学生に成長した姿は分かったようで(「も、もとくん……?」と昔の呼び名で自分を呼ぶ、あのくりちゃんのかわいらしい事)、自分はHVDOや変態達といった様々な事情はとっさに隠し、ただ春木氏こと「悪い奴」が中学生になったくりちゃんを子供に戻してしまったのだよと教え、なんとか納得してもらったのです。
 そして、当然の事ながら、記憶を失ったくりちゃんを子供の姿のまま木下家に帰らせる事は出来ませんので、誰がその身元を預かるかで三枝委員長と音羽君と何故か等々力氏と議論になり、じゃんけんの結果、自分が預かる事と相成った訳です。
 やさぐれる前のくりちゃんは聞き分けが良く、賢い子だったので、今自らが置かれている状況をきちんと理解して、飲み込んでくれました。自分の家で暮らす事にも同意してくれて、自宅に電話もかけました(直接こんな姿を見せる事は出来ませんが、小学生と中学生では大して声も変わっておらず、しばらく五十妻家で暮らす旨を告げると、あの超楽観主義のくり母は、「お父さんには私の方から上手く言っておくから、女になってきなさいな」と謎のアドバイスをくりちゃんに与えていました)。
 当分学校には通えず、しかし何の役にも立てないのも嫌だとの事で、これは好機と自分はくりちゃんに料理を教えました。繰り返しになりますが、おもらしをする前のくりちゃんは思わずなでなでしたくなるような、本当に良い子だったのです。
 今日で学校は終わり、冬休みに入ります。
 くりちゃんは表面上は元気にしていますが、きっとこれからの事が不安で仕方が無いはずで、今の自分に出来る事は、なるべく一緒にいてあげて、その不安を少しでも取り払ってやる事だけだと思うのです。
 春木氏は別れ際、自分にこう言っていました。
「……きっと、君と僕とはもう1度戦う事になるだろうね」
 くりちゃんの記憶を取り戻したければ、復活して挑んで来いという挑発にも受け取れますが、今現在この暮らしを堪能するに、「もうくりちゃんこのままの方が幸せなんじゃないかな」「記憶が戻って、これまでに受けてきた数々の恥辱を思い出したら死んじゃうんじゃないかな」と自分が思っている事は否定出来ません。
 それでも、残酷に時間は経過していき、冬休みなどあっという間に終わります。
 あ。
 そういえば、我々中学3年生の目の前には、「高校受験」という大きな関門が待ち構えていたのでした。

       

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