Neetel Inside ニートノベル
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 くりちゃん。
 そう呼んで怒られる事も、今となっては懐かしい事で、よくよく考えてみれば、糞生意気なわがまま暴力女であるくりちゃんが、慈愛の大天使幼女くりちゃんとなってから、1ヶ月という時間が流れていた事を思い出し、「くりちゃんはやはり一生幼女のままの方が良かったのではないか」というやたら正論っぽい思想に至ってしまうほど。自分は情けないほどにうろたえて、かけるべき質問の「優先順位」を間違えました。
「な、何故こんな所に……?」
「あん?」と、非常にタチ悪い感じで、「いやあんたが目覚めたらここに来るようにって書き置きを残したんでしょうが。来てくれたらもう一生例の妙な能力を使わないって約束するって書いてあったから、ちょっと悩んだけど来たんだし」と答えました。
 当然、そんな書き置きを残した覚えはありませんので、これはつまりトムの策による物という事になります。自分をこの場所に呼び出した後、くりちゃんが寝ている間に家に侵入し、書き置きをして、目覚ましか何かをセットしておいたのでしょう。
「つか、あんたさぁ……ちんこ切られる覚悟出来てるよね?」
 冷静かつ高圧的に、くりちゃんは自分にそう尋ねましたが、それは質問というより脅しと捉えるのが正常な判断と言えます。がしかし、脅しといえども決して嘘ではありません。くりちゃんはやると言ったらやる女です。
 自分は色々な思いを頭の中で巡らせました。幼女化したくりちゃんと同棲している時、すこぶる健康な生活と偽って散々にしてきた、様々ないやらしい所業の数々は、どれ1つをとってみても、くりちゃんにとっては男の魂をちょん切る十分な理由のように思えましたので、まずはどれから謝っていいのか、いっそのこと自分も女になってしまって、つい先ほど知った濃密たる百合の世界へとダイブするのも悪くはないかもしれないなどととち狂い始めた矢先に、くりちゃんは頭を手のひらで押さえてこう言いました。
「頭いてー……つーか私どんだけ寝てたんだ? しかも何であんたの家で寝てたんだ? すんごい長くて、すんごい嫌な夢を見ていた気がするんだけど……」
 自分は息の止まるような思いで尋ねます。
「あの、ひょっとして、覚えていないのですか?」
 そう、自分は優先順位を間違えていたのです。「何故こんな所に」よりも先に、幼女になっていた時の事を覚えているかどうか、を聞き正すべきだったのです。まずは自らの身の安全。それこそがこの混沌の時代において、最も重要な情報なのです。
「……何がだよ?」
 怪訝そうに睨むくりちゃん。おそるおそる質問を重ねます。
「つかぬ事をお伺いしますが、寝る前、自分が何をしていたか覚えていますか?」
「寝る前?」
 くりちゃんは視線を左上に泳がせて、何度か瞬きしたあと、それでも思い出せないらしく、腕を組み、首を捻り、やがてハッと気づいたように、手をポンと昭和風に叩きました。
「そうだ! 私は確か春木にはめられて……それで小学生になって……あれ? それから……どうしたっけ? 身体は……ちゃんと戻ってるな。ん? どういう事だ?」
 日本語覚えたてのチンパンジーのようなこの愛らしい仕草に、自分は少しほっこりとしてしまいましたが、それを堪能している時ではありません。
「くりちゃん、明日からは……?」
「え? 冬休みだろ?」
 よし、覚えてない! セーフ!


 などと喜んでいる場合ではありません。
 これから一生かけて、くりちゃんだけに現実の日付を隠し通すなんて到底不可能な事ですし、時間が経過してしまっている事がバレてしまえば当然、その間何をしていたんだ、という話になります。覚えていないとはいえ、夢のような形で意識の中にはあるようですので、自分のした悪行を1つ1つ思い出す度にちんこを切られていては、つまりちんこがいくらあっても足りません。
 やむを得ません。ここは多少の被害を覚悟で、本当の事を伝え(ただし、その過程で自分のした行為は出来るだけ隠せるように工作し)、現在の状況を理解してもらうのが先です。つまり真の「優先順位」はこうです。
「これから自分が説明する事に対して、どれだけ怒りが湧いても乱暴な事はしないでください。約束できますね?」
 くりちゃんの性格からして、素直に「はい、約束します」などと言わない事は分かりきっていましたが、無言で頭をぶん殴られるとまでは思ってもいませんでした。あの天使が、たったの数年でこんな事に……。気を取り直して、再度告げます。
「くりちゃんが幼女になったのは、あくまで春木氏の能力のせいです。そこは勘違いしないでください。幼女化による被害の一切は、春木氏に対して損害賠償を請求してください。そんなにちんこを切りたいというのなら、自分のではなく春木氏のを。いいですね?」
「だから、何が言いたいんだよ?」
 自分は冗談に聞こえないように気をつけながら、慎重に慎重に言葉を紡ぎます。
「冬休みは終わりました。年も変わっています。それどころか、我々はもうすぐ受験です」
「あ? 何言ってんだ? 頭打っておかしくなったか?」
 どちらかというと、おかしくなってしまったのは、あなたの方なのですよくりちゃん。
「春木氏のHVDO能力によって、くりちゃんは身体だけではなく頭の中まで幼女に戻っていたんです。それをつい先ほど、三枝委員長が春木氏を罠にかけて、くりちゃんの幼女化を解いて、元に戻したという訳です」
「え? え? ちょっと待て……ん?」
 それから自分は同じ内容を3度ほど繰り返して話し、ようやくくりちゃんは頭では理解したようでしたが、まだ納得まではしていませんでした。というより、信じたくなかったのでしょう。ずっと小学生のまま過ごしていたという事も、高校浪人寸前だという事も。
 哀れみに満ちてくりちゃんをぼんやり眺めていると、自分も少しばかりの客観性を取り戻してきました。
 ここはどこだったか? 三枝委員長の用意した野外ストリップ会場です。
 さっきまで何を見ていたか? 三枝委員長が全裸になって公開オナニーを始めた所です。
 あ! と気づいた時には遅かったのです。
 「優先順位」が、今やっと分かりました。
 くりちゃんに対して問うのではなく、自分に対して問うべきだった問い。
 それは、「今、自分は何をすべきか?」という生き方を改めさせられかねない問いなのでした。


 突然のくりちゃん登場に、自分は平常心を失って三枝委員長のオナニーを見る事をすっかり忘れていたのです。これは猛省すべき事であり、もう1度柚之原さんの拷問を受けたとしても仕方のない罪ですが、もし本当にそうなったら超軽めの5分コースでお願いします。
 自分がこのおもらし女の相手をしている内に、三枝委員長のオナニーは佳境を迎えていました。処女膜が破れそうな勢いで指を突っ込んで、18禁ゲームみたいにあへあへ言いながら、がに股で立ち、快楽に全てを任せながら腰を振っている三枝委員長。それはそれは無様な姿でしたが、見ごたえは確かにありました。自分とくりちゃんの会話に、周囲の誰も興味を持たず、何の介入も無かったのも、ステージの上がこんな大変な事になっていたと分かれば納得出来ます。歓声さえあがらなかったのは、皆が皆一心不乱に、ズボンの中で一物をしごいていたからでしょう。
 三枝委員長一世一代の、我が身を捨てた大暴走を、少しでも見逃してしまっていたという狼藉。これは一生をかけても到底償いきれない失敗です。
「ちょ……あれ委員長!? な、な、な、何やってんだオイ?」
 こんな貧乳おもらし女の為に割いている時間などもうありません。自分は無視しますが、「無視すんな変態!」と脇腹に良い1発が入ったので、仕方なく早口で説明します。
「三枝委員長が露出プレイをする為にここの皆を集めたんですよ。見りゃ分かるでしょ」
 生意気言うなと言わんばかりに、がしがし、ともう2、3発入りましたが、すかさず拳を手で受け止めて能力を発動させると「もう変な能力は使わないって言っただろ!」とキレたので、もっともっと早口で「それは別のHVDO能力者の罠です。また騙されてるんですよくりちゃんは」と言った後に再度発動させると、やっと大人しくなってくれました。この貧乳おもらし記憶喪失女が。と心の中で毒づきます。
「委員長って本当の本当に変態だったんだな……ていうかさ、春木とかいうあの変態は一体どうなったんだよ?」
 うるせえなぁと思いつつも、確かにそれは気になる所です。等々力氏以降、ちんこの爆発は起きた様子はありませんから、まだ負けてはいないはず。性的にどんどんエキサイトしていく三枝委員長も横目で見つつ、春木氏の姿を探しますと、若干手間取ったものの後姿を見つける事が出来ました。
 春木氏は、至近距離で行われている三枝委員長のアヘ顔シングルピース(もう1つの手はもちろん股間)を、それはもう平然と眺めていたのです。
 やはり春木氏は本物の変態のようです。幼女力が無ければ、倒す事は叶わないというのでしょうか。
 自分のちんこももう限界になり、観客席のイカくささも最高潮まで達し、隣のくりちゃんが同級生の性癖にドン引きしたのと同時、三枝委員長がついに絶頂に達しました。
 瞬間、凄まじい事が起きました。
 それは自分が、HVDOに関わりを持ち始めて、いえ、持つ前から思い返してみても、まるで見た事の無い状況であり、味わった事の無い衝撃でした。くりちゃんもそれは同じようで、「ひぃぃぃ」と情けない声を出して自分の身体にしがみついてきました(尿の貯蔵量から考えて、若干自然に失禁した可能性があります)。
 観客席前方、つまり三枝委員長の真ん前、春木氏の並びから順番に、その後方、つまり自分とくりちゃんが今いる方向に向かって、連鎖的爆発が起こりました。1つ1つは聞き覚えのある爆発音でしたが、流石にこの数が連続にとなると、最早それは別物でした。
 それら連鎖している爆発は全て、男たちの股間から起きています。殺傷能力は十分にありそうな規模ですが、不思議と肉体に被害はなく、しかし痛みは伴うので呻く。それは自分が過去味わった敗北と同じ性質をもっていて、つい先程等々力氏の身に起きたそれと全く同じでした。
 会場に集まった、100名を超える男の陰茎が、一斉に爆発する。
 こんな珍事、どこの新聞にも載っていませんし、ファンタジーでも滅多にある事ではありません。

       

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