Neetel Inside ニートノベル
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HVDO〜変態少女開発機構〜
第三部 第二話「言葉に君の横顔」

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 彼女の口から出る言葉が、俺は好きだ。
「五十妻の性癖は分かったのか?」
「ああ。『おもらし』だそうだ。裏はとれてる」
「そうか」
 手で髪をとかし、桜を眺める。それだけで絵になる。
「必ず『3人』でかかれ。服従するかしないかは訊かなくていい」
「ん、何故だ? 服従すると言うなら放っておいていいだろう」
 彼女はため息をつく。俺は不安になる。
「燕の巣に触れたんだ」
「五十妻が?」
 訊ねてはみたものの、その言葉に直接の意味がない事は分かっていた。
「とにかく再起不能にしろ。誰がとどめを刺してもいい」
「……分かった」
「それと、木下くりには退学してもらう」
 木下くり。数日前、部長である彼女がわざわざ直接茶道部の勧誘をしに行って、断られた女だ。表面上、彼女は平気な顔をしていた。内心は狂っていた。
「……少し厳しすぎるんじゃないか?」
「私の手は2つしかない」
 問答無用。俺には選択肢が1つもなくなる。
「まあ、ちょうどいいだろう。五十妻と木下は幼馴染だ。まとめてやっつける。やり方は任せてもらっていいんだな?」
「好きにしろ」
 部室を後にする。入れ替わりに、茶道部の部員達がやってくる。俺は礼だけして挨拶をかわさない。
 背後からは彼女を慕う黄色い声。
 耳障りだ。女に言葉はいらない。
 そう考えているからこそ、俺の性癖がある。
 だが、想いは時に性癖を超える。
 彼女の口から出る言葉が、俺は好きだ。
 だから彼女には何もしない。


第三部 第二話「言葉に君の横顔」


 1、2、3、5、6、7、8、9、10、11、12。
 まるで最初から無かったかのように、部活動ゲリラ説明会以降の4月は平穏に過ぎていきました。
 とはいえいつも冷静沈着で頼りになるグレゴリオ暦さんが、月を丸ごと無かった事にするような間違いを犯すはずも無く、自分がうっかりぼんやりと過ごしていた4月の間に、それぞれの人にそれぞれの新生活は与えられていたのです。
 体育館にて、醜態を暴かれ、非難の弾丸を雨あられと浴びた桐谷生徒会長、いえ、「元」生徒会長は、その後辞職し、今はその席に女子で茶道部に所属する元副会長がついています。これにより、更に茶道部の支配領域は広がり(元々莫大な敷地を誇っていたようですが)、この学校で茶道部に逆らうという事は即ち社会的な死、スクールヒエラルキーにおける最底辺への転落を意味する事になりました。
 一方でその桐谷元生徒会長の野望を木っ端微塵に打ち砕き、奈落へと叩き落した望月先輩本人はというと、茶道部と共にますますにその名声を轟かせ、そろそろ校庭に銅像の1つや2つ建つのではないか、と噂されるまでに栄華の極みへと到達していました。その姿からは自分と同類の変態的要素は微塵も見当たらず、茶道部に目をつけられない程度に彼女の噂を個人で調べてみましたが、ほんの少しのエロ要素も無い、計算されつくしたように完璧な学園生活を送っているようなのです。三枝生徒会長からの事前情報は誤りではないか、と思えてきたくらいです。
 その三枝生徒会長とは、あまり連絡をとっていません。一応、例の写真によって桐谷元生徒会長が失脚した事を知らせておいた方が良いと思い、電話で報告したのですが、くやしがるでも強がりを言うでもなく、「そう」と答えて、会話はそこで終わってしまいました。その時、「ところで桐谷元生徒会長と性的関係を持ったのですか?」と尋問したい衝動に駆られましたが、それはいかにも無粋と思われ、やめました。性奴隷の貞操管理は主人としては重要な任務ですが、今回は学校同士の合併交渉という、いち高校生にはいささかスケールの大きすぎる話が絡んでいるので、あまり首を突っ込んでも何も出来ない無力さをここぞとばかりに知らしめられるだけなように思われたのです。
 しかし自分は、三枝生徒会長がまだ委員長だった頃、夜の公園で全裸散歩した時に言ってくれたあの台詞を覚えており、同時に信じてもいます。今はそれで良しとしましょう。
 等々力氏はというと、入学初日に性癖を曝け出し、気持ち悪がられていたあの雰囲気はどこへやらといった感じで、持ち前の人付き合いの良さというか、コミュニケーション能力の高さを生かして、男子は特に、なんと女子にもクラスメイトとしてそこそこの付き合いをしてもらっているようなのです。おっぱいにしか興味が無いというのが逆に良かったのか、貧乳だらけの我が1-Aでは、裏を返せばそれは絶対安全であるという事になるようなのです。それと、茶道部には女子のみならずたった「3人だけ」男子部員も所属しているという話を聞いてからというもの、なんとか入部出来ないかと努力しているらしく、人生の充実具合はなかなかに良さげです。
 ですが、もっと意外だったのは、あの孤高の存在、別名「友達いないいない病」を長年患っていたくりちゃんに、なんとその友達が出来たようなのです。
 昼休みになると、さながら嘆きの壁に集うユダヤ人のごとく(文字通り、くりちゃんの胸は嘆きの壁です)人が群がり、部活の話やスイーツの話なんてしながら笑ってお弁当を食べています。小学校の頃におもらしして以降、人を信じられなくなったくりちゃんが、このように沢山の人に慕われている所を見る事が出来るとは夢にも思っていませんでした。不思議な感動さえあります。
 一方で自分はというと、天性の仏頂面と、等々力氏にバラされた性癖と、ハル先輩と付き合っているという噂により、クラスの中で最も浮いた存在になってしまいました。
 つまりくりちゃんは「友達いないいない病」をただ完治させるだけではなく、自分に移していきやがったのです。それにより、自分は女子に「三度触れる事」自体が難しくなり、HVDO能力「黄命」の発動が非常に困難になりました。また、2つ目の能力「W.C.ロック」で施錠出来る鍵は1つだけなので、複数の個室がある学校の女子トイレでの効果は期待出来ません。くりちゃんのせいで、クラス女子のおもらしを見る事が出来ないのです。これは紛れもなく復讐必須事項です。


 くりちゃんに友達が出来たのは、何も世界でもトップクラスの貧乳に皆が同情したからというだけではないようで、つい1週間ほど前、くりちゃんが1-Aのちょっとした英雄になる事件があったのです。自分はその場に居合わせた訳ではないので、等々力氏から聞いた話なのですが(情報源が等々力氏のみというのがなんだかとても泣けてきます)、体育の授業でクラスの皆が校庭に集まっている時、たまたま忘れ物をしてクラスに戻ったくりちゃんが、その時ちょうど犯行に及んでいた「制服泥棒」を捕まえたようなのです。
 語弊があったかもしません。「捕まえた」というよりは「半殺しにした」の方が正しいでしょう。
 自分をサンドバック代わりにして培ってきた、格闘センス溢れる数多の鬼畜技の全てを、くりちゃんはその時遺憾なく発揮し、2年生の、確か「毛利」という名前だったはずの制服泥棒に全治1ヶ月の重傷を与え、学校に救急車とパトカーと霊柩車が同時に来ました。
 これは別に弁護する訳ではないのですが、くりちゃんは自分に対して行うのと同程度の暴力をその制服泥棒にしてしまったのではないでしょうか。自分がこれまで何年にも渡って毎朝受けてきた拷問は、確実に自分の身体を強くしていますし、その制服泥棒がどんな人物かは知りませんが、常人では耐えられない程の攻撃力を身に着けたくりちゃんに、全身全霊をかけてボコられれば、その結果は火を見るよりも明らかという訳です。
 半殺しの後、制服泥棒の自宅からは清陽高校に通う女子の制服、体操着、下着などが複数見つかり、多数の余罪が発覚した事によって、くりちゃんは女子達を代表する英雄となり、無事、正当防衛も成立したそうです。はいはいめでたしめでたし。
 それにしてもこの孤独です。等々力氏も何だかんだ言ってクラスに受け入れられ、ついにくりちゃんにも友達が出来て、三枝生徒会長は別の学校にいる。となると、体育の時、自分は一体誰とペアを組めばいいのか。教科書を忘れた時、昼休みの購買戦争に負けそうな時、まだ早いですが、修学旅行の班決めの時、自分は一体どうすれば。
 友達のいない学園生活は、地獄の釜の底より真っ黒です。
 深呼吸。
 しかしそれでも良いのだと、自分は思います。
 自分には、ハル先輩との同棲生活がある。一緒に登校し、一緒にお昼を食べ、一緒に下校する。家に帰れば一緒にテレビを見て、一緒にゲームをして、一緒に勉強をして、一緒に寝る。そして「一緒」がゲシュタルト崩壊しない程度に、間々に百合のお手入れが挟まる。実にパーフェクト。
 同棲が始まった当初、自分は心のどこかで「男女の共同生活なんぞそう長くは続かないのではないか」「その内ハル先輩のビッチが発動して他の男を見つけるんじゃないか」と不安な部分もありましたが、約1ヶ月、振り返ってみれば驚愕するくらい無事に暮らしていたのです。
 相変わらずの異常性器ですが、やはり「快感」という餌は極上なようで、飽きが来るどころかむしろ日増しに、ハル先輩の喘ぎは激しくなっており、10回に1回はアヘ顔ダブルピースが飛び出し、そのアヘ顔ダブルピースの内、5回に1回はアヘ顔ダブルヴァルカン・サリュート(長寿と健康を祈るヴァルカン人式挨拶)に発展するくらいに感度良好ビンビン物語なのです。自分も、足繁く園芸板に通うくらい百合に詳しくなってきました。


 人生、すべてが上手くいく事の方が稀です。
 友達がいない事。これが今の自分の不幸。
 ハル先輩がエロい事。これが自分の幸運。
 これらに分類出来ない事として、「期待はずれだった事」という項目に2つばかり紹介しなければならない事があります。語りが長すぎるぞ馬鹿! と思われるかもしれませんが、これだけはなんとしても聞いていただきたいのです。
 まずは1つ目。淫乱女教師がいない。
 初日から嫌な予感はしていたのですが、この学校には、フェロモンが漂っていないのです。「淫乱女教師ある所、国栄える」とは昔の人も良く言ったもので、淫乱女教師の存在が歴史のターニングポイントとなっている事は社会の教科書が教えてくれる唯一の真実であり、それが無い清陽高校に未来はにい! と声を大にして申し上げたい。
 ハゲ3デブ2チビ1の配牌から、そこにチビがもう1人、あばた面2人、なまり2人、ガリ2人、ワキガ1人が来たので、そこからハゲを1人切ってコンプレックス七対子のワキガ待ち、デブがドラなので1発でツモればハネ満というこの状況。良くわからないかもしれませんが要約するとつまり最悪です。
 女性教師自体は家庭科と理科総合にいたのですが、前者は控えめに言ってもババアの既婚者、後者はビン底眼鏡の、ぼそぼそと喋る、何故教師という道を選んだのか不思議な研究職系地味子さんで、これはゴルゴでも射程外と判断せざるを得ません。よって「授業中に生徒の前で教師がおもらし」というマイティーグッドシチュエーションに1年生のうちにお目にかかるのはおそらく不可能かと思われます。誰かこの中に淫乱女教師の収穫出来る畑をご存知の方はいませんか!?
 それから2つ目。HVDO能力者がいない。
 入学さえすれば、単純に500名ばかりの新しい人間と出会う機会が生まれる訳ですから、中には超能力に目覚めうるような変態が何十人いたって全くおかしくはなく、その方たちを糧にして、いよいよ自分も春木氏に匹敵するHVDO能力を得る事が出来るのではないか、という妥当な期待も、確かに自分は抱いていたのです。
 望月先輩は先にも述べた通り調査不足。あるいは誤情報。等々力氏を相手に戦って勝利しても、自分には新しい能力は得られない(リベンジが成立しなければ、1度勝利した相手を再度倒しても意味がないという三枝生徒会長から聞いた「再戦ルール」)という事もあって、少なくとも自分から仕掛ける意味はありませんし、等々力氏の方も、まだ自分に対して勝てる自信が持てないのか知りませんが、勝負を挑んですらきません。
 そして新たに近づいてくる変態もいない、となれば必然、新しい能力を得る事も無ければ、EDになる心配もないという、非常に「ぬるい」状態が続いているのです。
 ちなみに、先ほど少しだけ触れましたが、くりちゃんが撃退した制服泥棒。彼の話を聞いた時、真っ先に制服フェチのHVDO能力者ではないか、という疑惑が生まれましたが、もしもそうだとしたら、当然その能力も制服に特化したものになるはずで、制服1着盗みに入ったくらいで下手をこく訳がないですし、そもそも学年も違う上、今は入院中なので確認のしようがありません。
 このままでは自分は、ただの超能力を持った変態でしかありません。
 ああ、退屈で仕方がない!


 そんなある朝、新たな展開は、騒々しく運ばれてきました。
「もっくん! もっくん起きてです!」
 耳たぶを押さえつけられながら頭をがんがんに揺さぶられて起きた自分は、いつもと違うハル先輩の様子に、「まったくこのエロ娘が……昨晩5回も手入れしてあげたのにまだ……」と思いましたが、どうやらそういう用事ではなかったようなのです。
「隣の木下さんが! なんだかよくわかりませんですが!」
 階段を駆け上る音にも個性があるもので、それがくりちゃんの物だと気づくのにそう時間はかかりませんでした。そしてこのリズムから察するに、相当に怒っている。同時に焦っている。
 自分が欠伸をしながら身体を起こすと同時、ドアを開けて飛び込んできたくりちゃんは、開口一番、まっすぐ自分を見て、こう叫びました。
「あなたのちんぽであたしのまんこをずぽずぽして欲しいの!!!」

       

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Neetsha