Neetel Inside ニートノベル
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「望月ソフィアに挑む前に、2つか3つ質問していいかな?」
 階段の1歩目を踏んだ瞬間、春木氏が言いました。その後ろに自分が続き、しんがりを春木氏の召喚した偽くりちゃんが勤める隊列。相談もなく決まりましたが、別に不満はありません。
「今更何ですか?」
 と、自分。春木氏は肩をすくめて「そう邪険に扱わないでくれよ」とかわします。
「五十妻君は望月ソフィアについてどれだけ知っているんだい?」
 質問は漠然としていましたが、それに返せる答えは明確でした。
「茶道部の部長で絶対権力者。百合のHVDO能力者で、凄まじい美人という事くらいですね」
「確かに正しいけど、重要な事が1つ抜けてるね」
「……何ですか? もったいぶらずに言って下さい。時間が無いと三枝生徒会長が言っていましたよ」
「それもそうだね。なら単刀直入に、望月ソフィアはHVDOの幹部だ」
 可能性については、自分も考えていました。樫原先輩を筆頭とした3人組を顎で使い、そして100人の女子を従えるという派手な行為に及ぶ大胆さを持ちつつ、少なくともハル先輩に百合が咲いてからの1年間はただの1度も敗北をしていないというのですから、もちろん実力もあるでしょうが、何らかの多大な力が働いているのではないだろうか、という懸念。HVDOという組織に「幹部」といった役職があると知れば、そこに望月先輩が収まるのはむしろ当然の事のように思えました。
「HVDOの幹部は、僕が知る限りでは3人いる。1人は君も会った事がある腐女子のHVDO能力者トム。もう1人はとある場所で闘技場の管理をしている男。そして最後の1人が、望月ソフィアという訳だ」
 闘技場、とやらも気になりましたが、尋ねさせてもらえず、春木氏は続けて自分の興味を強制的にひき出します。
「ところで、入城を許可された1人の人間というのは誰だと思う?」
 自分は先ほどの三枝生徒会長とのやりとりを思い出しました。これを言われた時、自分は恥ずかしながら、それが自分の事であると、自意識過剰も甚だしい勘違いをしてしまいましたが、肝心のでは一体誰なのか、という問題については触れられませんでした。
「……知っているんですか?」
「少なくとも、君よりはね」
 人の神経を逆撫でする事に定評のある春木氏。自分は別に知りたくも無いといった振りを見せて、先に進もうとしました。
「あくまでも僕の予想だけど……それはきっと、HVDOのボス、崇拝者と呼ばれている人物だろうね」
「ボス? ……根拠と証拠はあるんですか?」
「あるけど、教えられない。というより、少し考えてみれば分かる事なんじゃないかな?」
 このまま話を続けるとストレスで禿げそうだと判断した自分は、無視する事にしました。


 いよいよ辿り着いた敵の本拠地、天守閣。内装は、下の階や外見と同様に木造の純和風で、まさしく殿様の首を取りにここまで追いかけて来た侍の気分になりましたが、室内の中心部分に、窓から僅かに射す月明かりに照らされてかろうじて確認出来る、時代劇をするにはあまりにも不釣合いな物が確認出来ました。
 まず目に入ったのは、2人の人影。1人は立っていますが、もう1人は椅子に座らせているようで、しかもそれはただの椅子ではなく、いわゆる「拘束椅子」と呼ばれる器具のようでした。そしてそのニトリでもイケアでも買えないタイプの椅子に座らされていたのが、「大股開き」という女子にとっては土下座の次に屈辱的なポーズを取らされ、バンザイした両手を椅子の背もたれに固定され、一切身動きが取れない、煮るなり焼くなり犯すなりどうぞという状態で、当然のように全裸のくりちゃんでした。
「なんでこうなるんだ……ちくしょう……」
 それは普段自分に対してするような「キレ」というよりは、すすり泣きながら自らの運命を呪う本域の怒りでした。くりちゃんは放っておいてもこんな状態になってしまうのですから、これまでの事も全て、「自分がくりちゃんに酷い事をしてきた」というよりは、「くりちゃんが自分に酷い目に会わされに来ていた」と表現する方が今になっては正しく思え、百合城から無事に脱出した暁には、差額分だけ更なる陵辱を加える事に自分は決めました。
 それにはまず、目の前の障害を取り除かなければなりません。
 素晴らしく悲惨な有様のくりちゃんの前に立っていた、もう1人の人影は、やはり望月先輩でした。
 普段、学校で見る凛々しい横顔はそのままでしたが、Yシャツ姿に下は双頭ディルド1丁というやる気満々の姿は、卑猥というよりはむしろ神々しく、慄然とした存在感をもってくりちゃんを無言で見つめていました。
「やあ、望月さん。久しぶりだね」
 今は春木氏の空気の読まなさ加減が救いではありました。なんと声をかけていいやら迷う自分を差し置いて、軽々しくかけるこの言葉。それに反応した望月先輩はこちらに振り向き、一瞬驚いたような表情を見せたかと思うと、すぐにまたいつもの戒律じみた表情を取り戻していました。
「君達を呼んだ覚えは無いんだがな」
 先制の1発。春木氏はそれを軽くいなします。
「面白そうな事をやっているみたいだから、勝手に来させてもらったよ」
 言いつつも、無防備に近づいていく春木氏の後を、自分は追い、後ろにずっと無言の偽くりちゃんがついてきます。くやしいですが、この変態2人の間に割りこんでイニシアチブを取りに行く勇気を自分は持ち合わせておりません。しかしこの人物は別でした。
「み、見るなぁーーーっ!」
 叫びつつ、暴れるくりちゃん。これが拘束椅子の面白い所で、座らされた人間が無理に動こうとすると、必然的に腰が浮く形になり、腰が浮けば当然股間が強調され、丸出しになった性器はふりふりと、まるで男を誘うように動くのです。そんな簡単な事にも気づかないくりちゃんは暴れに暴れて、自分と春木氏に確実にダメージを与えてきました。


「くりちゃん、お願いなんだけど、しばらく黙っていてくれないかな?」
 幼稚園児に語りかける保父さんの姿を春木氏の後ろ姿に見ました。こんな言い方では、逆上して更にうるさくなるだろう、という自分の予想は簡単に外れ、暴れれば暴れるほど恥ずかしい事になるとようやく気づいたのか、それとも春木氏に懐いたのかは分かりませんが、くりちゃんは目に大きな貯水池を作りながら、食いしばるように沈黙しました。
「さっきの衝撃は君達だったか」望月先輩は、喜怒哀楽の両端を取り除いた表情を見せて、「崇拝者がここに直接来たら私に負けるという事か、それとも君達だけで十分に私は再起不能にさせられるというのか……判断に困る所だな」
「そういえば、望月さんは崇拝者の能力を知っているんだったね。僕に教えてくれないか?」
「そんな事をして私に何の得がある」
「今、見逃してあげようじゃないか」
 望月先輩は迷いの無い嘲笑を浮かべ、
「論外だな。第一、私はお前が大嫌いだ」
「それは残念だね。僕は洋ロリも全然いける口なんだけど」
 自分、くりちゃん、偽くりちゃん(この人は含まれるか微妙ですが)を完全に置き去りにしたトークは進み、ますます自分は口を開くタイミングを失っていきました。先ほどからちょくちょく会話に出てきている「崇拝者」とやらも、HVDOのボスらしいという情報以外は全く無いので、雰囲気はよろしくないという事くらいしか察する事が出来ませんでした。
 距離が縮まるにつれ、望月先輩とくりちゃんを取り囲む「壁」の存在に自分は気づきました。半透明のそれは、光の加減によっては完全に見えなくなりましたが、確かにそこにあるようで、直径5mほどの円を描いているようでした。
「まあ、いいだろう。崇拝者が来ないというのなら、私は木下の処女を散らすだけだ」
 達観したような口調で言った望月先輩は、股間についた女子には本来与えられない物ををくりちゃんの秘所へとあてがいました。目を凝らして見ると、それは黒くテカり、いぼいぼ、というよりとげとげのついた、野球のバットとしても使えない事は無いくらいの大きさの、禍々しいアーティファクトでした。こんな物に貫かれてしまったら、どんなに濡れていても激痛に見まわれる事は間違いなく、ましてや処女、身体の小さめなくりちゃんには、おそらく拷問のような体験になるはずです。
「無理無理無理! 無理だってそんなの!!!」
 再び暴れ始めたくりちゃん。今度は見た目など気にしている余裕はないらしく、前から見えるお尻の肉をぷるんぷるんさせながら、腰を浮かして鬼の金棒から逃げようと抗います。
「助けろお前ら! 何にやにや見てんだふざけんなーーー!!」
 にやにや見ていたつもりは無かったのですが、そのあまりにも無様な様子に、笑顔が零れていなかったかといえばそれは嘘になります。
「やめてくれ……頼むから、もうあたしに酷い事するのはやめてくれ……!」
 心の叫びも望月先輩の耳には届かなかったらしく、いよいよ標準が定まり、後は思いっきり腰を前に突き出すだけで、くりちゃんが女になるのを通り越してガバマンになる所まできました。
 やれやれ。


「ちょっと待ってください」
 せっかくここまで来たのですから、というのがあります。別にくりちゃんを助けてあげたいとか、そういったヒロイズムでは無いのですが、将来的に奴隷にするにあたって、ゆるゆるのまんこは個人的に嫌なので、仕方ないので助けてやろうという仏心が、自分の中に生まれました。
「望月先輩、勝負しましょう。逃げますか? あなたは樫原先輩に逃げるなと指示したのですから、あなたがここで逃げる事は許されるはずがありませんよね?」
 挑発を多分に含んだ自分の台詞に、望月先輩はこう反応しました。
「勝負したければ、勝手にすればいい。下にいた部員を見てきたのなら分かると思うが、見ての通り、木下は私の支配下に置いていない。つまりお前の能力が有効だという事だ」
 敵に言われて気づくのも間抜けな話ですが、確かに、どうやらくりちゃんは望月先輩に支配されていないようです。
「仰る通りですね」
 自分はこの階に来てから初めて春木氏より前に出て、望月先輩へと近づきました。そして例の半透明の壁は、ガラスやプラスチックなどとは違い、「見えてはいるが無い物」、つまり頭上に浮かぶ勃起率表示などに近い存在感でした。
 自分の指が、壁に触れる刹那、後ろから声がしました。
「僕ならその壁には触らない」
 自分は手を止め、後ろを振り向きました。
「五十妻君らしくないな。くりちゃんの事だからって、冷静さを失いすぎだよ。これはどう見ても罠さ」
 指摘されてから初めて、自分の表情がいつもよりも険しくなっている事に気づきました。内心では冷静沈着な鬼畜を装いつつも、自分でも認識できない心の底の怒りに、春木氏にはとっくに気づいていたのです。
 かといって、それを収める術も、ここで引き下がるつもりもありませんでした。自分は懐から尿の瓶を取り出し、「柚乃原」とラベルの貼られた方を選びました。ラベルの貼っていない方は、三枝生徒会長の絞りたてですから、一応取っておきます。
 そして尿を一気に飲み干し、呼吸を落ち着かせました。
「こうしておけば大丈夫のはずです」
 しかし春木氏は全てを知ってるような笑顔のままで、「僕ならそれでも触れないけどね」と言いました。
 こういう場合、忠告を無視した人物が大変な目にあうのはいわゆる「お約束」というものですが、しかし円が完全に望月先輩とくりちゃんを取り囲んでいる以上、「黄命」を発動するには近づくしかありません。とりあえず、ピーフェクトタイムの発動によって、接触、即勃起、死。という最悪のパターンはありえません。
「くりちゃん、助けて欲しいですか?」
 と、自分が尋ねると、くりちゃんは「当たり前だ!」と睨んできました。
「自分も危険だとは思います。これは確実に罠ですし、正直、ビビっています。何か御褒美が無いと、くりちゃんを助ける気が起きないのですが」
 自分の毅然とした態度に、くりちゃんはくやしそうに顔を歪め、しかしその様子だと、「何を言うべきか」分かっている様子でした。しばしの沈黙の後、くりちゃんは目を瞑って、肩を震わせつつ、こう言います。
「これから毎朝……お、おしっこをかけて起こしてやるから、あたしを助けてくれ!」
「約束ですよ」
 自分は春木氏にも負けない笑顔で答え、壁に触れました。

       

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