Neetel Inside ニートノベル
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 知るために、白井の使用人、白井真由美はそこにいた。彼女は独自に捜査するなかで、この殺人は一纏まりになっていることを知ったのだ。
 実際には、殺害されたとする21人以外に、さらにホームレス、行方不明とされている人も合わせて40名もの人が死んでいる。そして、その死者の職業や日常を1つ1つ照らし合わせると、ある1つの点が地図上に浮かび上がった。彼女は、最後の確認のためにそこにいるのだ。
 そこは、工場の跡。何年か前に廃れたまま、解体されずに放っておかれている場所だった。
 その工場の中に単身、銃を片手に潜入する白井真由美の動きには、無駄がなく洗練されていた。日が沈みかけた赤く薄い闇に紛れて、一挙一投足に細心の注意を払って歩いていた。
 人はいないはずだったが、30人程がその工場の中にいた。どうやら会合の最中のようだ。その中で、リーダー格の男が静かに言った。
「あと2日。あと2日で、計画は達成する。それまで、知られてはいけないよ。今まで通りだ」
 計画……。
 やはり無差別殺人ではなかった。何か意図がある。と白井真由美は確信した。当然だが、計画については触れられない。どういう計画なのか、確かめたい思いが彼女のなかにあった。
「それと、1つ言っておきたい事がある……」
 その時、後ろに気配があった。振り向くのが間に合わないと感じ、すぐに気配から逃れようと飛び退いた。
「バレバレっすよ、お嬢さん」
 銀髪の青年が視界に現れたかと思えば、瞬時に回りを囲まれた。
 明らかに不利だ。
 だが、戦わなくてはいけない。
 白井真由美が銃を振り上げると、次の瞬間には天井の鉄骨が崩れ落ちる。それはピンポイントで敵の頭上に落下した。青年は身軽な動きで落下点から逃れ、落ちてきた鉄骨を殴り飛ばしてきた。
 飛んでくるそれを踏み台にして高く飛び上がった彼女は、続けざまに3発の銃を放つ。すると、青年の回りは、爆風で舞い上がった砂塵で何も見えなくなる。
「全く、どんな銃を使ってんだ……しかーし」
 青年が腕を振るうと、その腕の先に白井真由美がいた。彼女は壁に激突し、その勢いで鉄筋コンクリートの壁が凹む。
「丸見えだっつーの」
 白井真由美の眼前に、フリスビー大の円盤があった。恐らく、これで回りの状況を読んでいたのだろうか。
「びっくりしたか? サテライトって言うんだぜ、それ」
 サテライトは、工場内に幾つも張り巡らされている。これだけあれば、死角はないに等しい。
「さぁて、反撃だ」
 瓦礫が立て続けに幾つも投げられる。その内2つは銃で砕いたが、それ以降は間に合わない。そこで、目の前に落ちている鉄筋を撃ち、浮かせると、一瞬だが盾代わりになった。その束になった瓦礫を掻い潜るように青年に向かっていく。
「ぬん!」
 青年が足で地面を思い切り踏み付けると、地面が砕け、中の水道管から水が噴き出す。水圧に押し出される様に一歩下がった所に、青年の無機質な腕が伸びた。
 銃を叩き落とされ、首根っこを掴まれる。
「……何で人が何の外傷もなく死んでるか分かるか?」
 青年の腕に力が入る。白井真由美は息が出来なくなり、声にならない声を上げた。
「人間の神経を一時的に停止させる機械が、俺の腕に仕込まれてんだ。腕とかに作用すればちょっとの間動きが止まるが、脳に作用させるとどういう訳か丁度脳死状態になるんだよ」
 青年のもう一本の手が、彼女の頭にかざされた。
「脳死状態になれば、心肺機能は停止するって話……さあ、デッドエンドだ」
 その時、砕けていた地面が盛り上がった。何が起きたのか青年が察知する前に、中から鉄の塊が飛び出してきた。その膝蹴りが、白井真由美の首を掴んでいた腕をへし折った。手から解放された白井真由美が、地面に突っ伏して咳き込んだ。
「いてっ……」
 出てきたのはヒューマノイド、つまりは人形ロボットだった。徐にカンフーの構えを取り、青年を威嚇している。
「ヒーロー参上、てね。何とか間に合った」
 鈴木はパソコン片手に工場の窓に腰掛けていた。
「おー? コイツの仲間か? しまったなぁ、さっさと殺しときゃ良かった……」
 今度は銃声。
 猛烈な威力を持った弾丸は、青年の腕を弾き飛ばした。
 白井が現れると、青年の顔が歪んだ。どうやら、3対1は彼にとってあまり好ましくないようだ。
「……大分騒ぎたてたな。警察来ちまってるし、今日だけは生かす……近い内、まとめて殺ってやっから、お楽しみにってことで!」
 青年は飛ぶように去っていった。白井達も、もうすぐそこまで迫っているパトカーのサイレンに、急いで工場を後にした。

 サテライトについて聞かされた白井達は、家に帰る代わりにジェイの潜伏している廃ビルにやって来た。外見とは裏腹に、中身はそれほど古びた感覚ではなく、むしろ綺麗な印象を受けた。
「大分派手にやらかしたね……結局、計画も分からないまま……」
 ジェイが白井真由美に応急措置を施し、暫く安静にと言い聞かせ、彼が白井に向き直る。
「で、白井は、何か分かったって顔してるね。聞かせて欲しいな」
「……近い内に、この街が消えるって」
 白井は黒柳の遺した紙を、ジェイに手渡した。
「へぇ……もう僕達の居場所を突き止めてるんだ。この一件で、サテライトが君達を監視し出すのも時間の問題だね」
「え……?」
「もしかして、考えて無かったのかい? 多分サテライトで君達の顔がばれてるから、これ以降君達と接触した人は疑わしいとして殺されるはずさ。友達との接触は避けるべきだね」
 白井は、友達の姿を浮かべた。多分、もう話せなくなると思うと、息が詰まる思いだった。
「まあ……何かあったら言ってよ。作戦決行まで、しばらく遊んでくるから」
 そう言ってジェイは建物の外に向かって歩いていった。
 時刻は、もうすぐ8時を回る。すっかり黒ずんだ空には月が出ていた。ただ1つ大きく、太陽の光を受けて妖しく輝く白い光は、不吉とも吉ともとれた。白井は月から目を離し、目を瞑った。とにかく、今は眠りたかった。

       

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