それぞれの朝 その②
アリスたちの住むアパートの二階
そこで詩音とアリヤは同居している。
必ずと言っていいほど先に起きるのは詩音だ。
「うー!!!」
彼女は起きた真っ先に大きく背伸びをすると、すぐさまベッドから飛び降りる。その音でか、はたまた詩音の背伸びか。どちらかは定かでないが、アリヤも目覚めるとすぐ隣に立つ詩音の姿を確認する。
が、まだ少し寝ぼけているのか、焦点のあってない目をボーッと向けているだけだ。
詩音はそんな彼女の眼前で手を振りながら、挨拶する。
「おっはー」
「………おはよう」
「朝作るけど、何食べたい?」
「…………詩音の作ったのなら……何でもいいよ」
「嬉しいこと言ってくれね」
「…………ほら……恋人だし」
「もー!! アーリーヤー」
「……しーおーんー」
朝っぱらからイチャつき始める二人。
完全にバカップルだ。
だが、そんな事ばかりしていると時間が無くなってしまう。
いい加減にして台所に向かうと、昨日の夕飯に食べて残ったカレーを温めなおす。二日目のカレーほど美味しいものはない。アリヤは詩音の作った物なら何でもいいので何も言わずに待つことにする。
十数分後。
二人は手早く朝食を済ませると、それぞれシャワーを浴びたり歯を磨いたりと学校へ行く準備を始める。そして、一通りそれを終えた彼女たちは制服に着替えて学校のバックを背負い、靴を履き、二人そろって並び立つ。
「じゃ行こうぜ」
「…………そうね」
ニッと笑顔を見せる詩音。
アリヤもそれに合わせてほんの少しだけ笑みを浮かべると、ドアノブへと手を伸ばした。
「ほら、起きテ」
「ううー………ちょっと待ってよ」
「待たなイ。起きるノ」
「うぅー……分かったよー」
そう言ってしょうがなしにマリアは体をもぞもぞと動かすと布団から半身を乗り出す。そして寝ぼけ眼をこすりながらなんとか地に足をつけようとする。しかし全く持って覚醒していない頭はこれっぽちも言うことを聞かず、なかなかうまいこと行かない。
そんな彼女の姿を呆れ顔で眺めるのはデルタだ。この間まで表情を出すことができなかった彼女だが、達也に改造してもらって脳波を感知して表情を浮かべる機能を付け加えたのだ。おかげで普通に笑ったり怒ったりできるようになったのだ。
中々覚醒しないマリアを見て、もどかしい気持ちを抱くデルタ。
それとは対照的にリビングの椅子で一人くつろぐ奴がいた。
「どうせそいつ起きるまであともう少しかかるぜ、ほっといていいと思うぜ」
「そういうユウキも起きるの遅かっタ」
「それはそれ、これはこれだろ」
「あー!! ユウキ!!」
ユウキの声を聴いた瞬間にマリアは飛び起きると、その顔を指さしながら叫んだ。
「なんでここにいるの!?」
「なんでって朝飯食べに来たんだよ。いつもの事だろ」
「そういえばそうだった」
「まだ寝ぼけてんのか? さっさと起きろ馬鹿」
「馬鹿って言うなよー」
いつも通り喧嘩を始める二人。
デルタは小さくため息を吐きながら台所へと戻っていく。
いつもデルタが早く起きて、その日の気分によってユウキかマリアを起こしに行く。そして、次に寝ている方の部屋で朝食を作るのだ。ここ数日はユウキの部屋が続いていたので、少しボケてしまった。これでは馬鹿と言われても仕方がない。
マリアは寝間着姿のままユウキの隣の席に座り込む。
「はいはい、分かったよ」
「アリヤ先輩たちも出たみたイ」
三人は急いで階段の方へ向かって行った。
この後、七人で合流すると真っ直ぐ柳葉中学校へと向かって行くのだった。
「水頂戴」
「お前の分はない」
「酷い」
「自分で取れよな」
「うー」
いろいろと物申したいが我慢することにする。
そんなに頭が回ってないので、いつもの調子が出ないのだ。
「デルター、水―」
「ちょっと待っテ、もうすぐ終わるかラ」
「分かったー」
大人しく待つことにする。
数分後、ユウキはサイコキネシスで出来上がった料理をリビングの机へと運びこむ。デルタはいつもみそ汁と白飯に卵焼きか焼き魚をつける。メニューは変わり映えしないが、味付けはいつでも変わるので飽きないのがすごいと思う。
だが、いささか量が多い。
マリアはゆっくりと箸の先で魚をほぐしつつ、呟く。
「えーと、今日って一時間目何だっけ?」
「国語」
「あれ? 体育じゃね?」
「それはユウキの好きな科目でしょ」
「うるせぇ、お前もそうだろ」
「うっざー」
「黙って食べル」
もう完全にお母さんポジションについているデルタ。
ユウキとマリアはリアルアイアンクローが怖いので黙って食べ続けることにした。その後は誰も話を始めることなく、淡々と食べ続けるだけの時間が十数分続いた。
ちなみにデルタは食べない。というか食べれない。
そして、全員食べ終えて一度部屋に戻ってから準備を整えてちょうど中心にあるマリアの部屋の玄関前に集まる。
「じャ、行こうカ」
「そうだね!! 行こう!!」
「お、マリア、先輩たちが行ってるぞ」
「え? お姉ちゃんも?」
廊下から身を乗り出してみる。
すると達也と二人並んで歩くアリスの後ろ姿が確認できた。マリアはそちらの方を指さしながら、二人に向かって笑顔で話しかけた。
「急ごう!!」