学校 その②
「ヘ―イ!! アリヤに詩音じゃないですカー」
「お、レイはいつも早いなー」
「…………おはよう」
「フレイヤと一緒だといつもこんなものですヨー」
「そうか、そう言えばそうだな」
「…………詩音……レイ」
「何?」
「ホワイ?」
「………今日の……宿題は?」
「「あ!!」」
案の定忘れていたらしい。
と言っても予期していたことなので、アリヤは自分のカバンから宿題のプリントを取り出すと机の上に広げる。それを見て二人は自分の席の椅子を引っ張ってきて、必死にそれを写しはじめる。ちゃんとやっていればこんな苦労しない上に成績も上がるのにな、と思いつつも昨日の晩は詩音とイチャコラして時間をとっていたので何も言い出せない。
ちなみにそんなアリヤは授業中にやっていたので、決して優等生とは言えない。
レイは知らない。
たぶん、いつも通りさぼっていたのだろう。フレイヤは基本的に厳しい代わりにレイには甘い、甘すぎる。
そこに、阿保みたいに元気のいい声が飛び込んでくる。
「おはよー!!!」
「ヘイ!! 瑠花じゃないですカー」
「お、今日も元気だな」
「そうですよ!! 瑠花ちゃんは今日も元気ですよ」
正直うるさいが、それが瑠花の取り柄なのでしょうがない。
彼女は手を振り振り教室内を進んで行き、自分の席にドカッと座り込む。そして急いで宿題を写すレイたちの姿を見てにやにやと笑いながら話しかけてきた。
「いやー、大変ですねー」
「うっざー、そういうお前はどうなんだよ」
「私―? 私は優等生だから」
「嘘こけ、どうせ久美さんと一緒にやったんだろ?」
「あ、ばれた」
「ばれるわ、アホ」
「そういうあんたは馬鹿」
「あぁん!?」
「うん? やる?」
「…………二人とも……静かに」
「「すいません」」
大人しく謝る二人。
この後は雑談を交えつつ、宿題を攻略していく。幸いなことに二人とも写すのは早い。
ものの十分かそこらで宿題を終えると、大きく伸びをして息を吐いた。
「終わったぜ」
「そうですネー」
「………良かったね」
アリヤがそそくさと宿題をしまっている間に、またほかのクラスメイトがやってくる。
今度は息のぴったり合った二人組だった。
「みんなー!!」
「おはよー!!」
「世界と」
「言葉が」
「「やってきましたよー」」
うるさい。
びっくりするほど息がぴったりのこの二人。才能ではなく能力というあたりが少々悲しいが、それでもこれは尊敬に値する。
「ヘ―イ!! 世界と言葉じゃないですカー!! ハグしましょう!! ハグ!!」
「イエーイ!!」
「ハグハグ!!」
そう言って三人は団子になって抱き着く。
それを呆れた目で見るアリヤ。詩音は笑いながらアリヤの方を見ると、話しかける。
「どうする? 私たちもハグするか?」
「…………する?」
「え? マジで?」
「……ん」
アリヤは席を立つと、無い胸を張りながら両手を大きく広げる。
詩音は顔を少し赤くして、躊躇している。やる分には抵抗はないのだが、教室でやるのはさすがに恥ずかしい。
一方のアリヤはそうではないらしい。
それどころかいつまでたってもこちらに来ない詩音のことを見てキョトンとした顔をしている。
「え、マジでいいの?」
「…………いいよ」
「じゃ、じゃあ遠慮なく」
ごくりと息をのみ、詩音は一歩前に進むとアリヤの胸に飛び込んだ。
そしてギュッと抱き合う。
「…………」
「おぉ、なかなかいいな、これ」
「…………」
「ん? どうした? アリヤ」
「…………」
アリヤはゆっくりと腕をほどくと、一歩後ろに下がる。
そして、ゆっくりと首を曲げると視線を下げて自分の胸をジッと見る。なんというかすごい劣等感を感じた。すごく柔らかくて暖かいものが思いっきり押し付けられた。感触がいまだに残っている。
一方の詩音はそんな事これっぽちも気になっていないようで、さっきまで渋っていたのが嘘のよう。なんだか名残惜しそうな目でこちらを見ている。
「…………詩音」
「何?」
「……揉ませろ」
「え?」
「………悔しい」
「ちょっ!! まッ!!」
詩音に飛びつくアリヤ。
いきなりのことに反応が遅れた詩音はそのままアリヤに押し倒されてしまう。
世界と言葉、瑠花は反応が遅れてしまい彼女を止めることができなかった。レイはニコニコ笑顔で「外国人は情熱的ですネー」などと自分のことを棚に上げて呟いている。しかし、今は突っ込み役が不在なので誰も何も言わない。
この後、教室に彩芽と宴の二人組がやってきて、これで魔法少女組は集合したこととなる。
二年二組、彼女たちは今日も元気だった。