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魔法少女達 その①

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 「ケヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!!!」


 不気味な笑い声をあげながら爆発するアメ玉と、手裏剣のように宙を切るビラを撒くボウシに体の生えた何か。そいつは何十人もで一列に並び、道なき道を進みながら三人組の小さな人形群を次々と吹き飛ばしていく。敵も味方も関係ない、破壊の化身のよう。
 その大群に、対するは一人の少女。
 青紫色でどことなく陰鬱な雰囲気を放つドレスを身にまとい、身長は少し高めであまり手入れのしていないことが分かる髪の毛を後ろで適当にまとめていた。男前な表情をしており、一本の大斧を肩にひっかけている。
 きちっと引き締まった眼を向けながら、ゆっくりと斧を動かすと、その先を地面にドサリと付けた。
 そして一言。


 「早く終わらせてやるよ………」


 言葉が虚空へ切る前に両手で斧を握りなおし、野球のバッターのように構える。
 そして、


 「ぶった斬れなぁ!!!!」


 そう叫び、動くとブンッと、宙を切る音を高らかに鳴らして横に大振りした。
 すると
 その刃が振るわれた直線状にいたすべてのボウシが、真っ二つに切り裂かれた。まるで斬撃が飛び、見えない何かに裂かれたように。その切り跡は実に美しいもので、何の迷いもないことがよく分かった。
 殺されたボウシ達は、少しの間宙を待った後、ポンッという軽い音をたてて跡形も無くはじけ飛んだ。


 「他愛もないな」


 だがまだ敵はいる。
 少女――青木蓮華――は気を取り直すと、別方向で固まっている敵の方を向くと狙いをつけた。




 次の敵は手足の生えた大量のカラフルな箱だった。箱の色は一つ一つ違っているので、簡単に区別がつくと思いきや、色がめちゃくちゃに混ざり合っているせいで、訳の分からないことになっている。まさに混沌だ。
 蓮華はもう一度斧を引っ提げ、そちらの方をジロリと見つける。
 どんな攻撃を仕掛けられるか分からない。遠距離で爆弾でも投げつけてくるかもしれない。
 何かされる前に、もう一度能力を使って殲滅しようと思った時。

 彼女の後ろからまた別の少女が飛び出してきた。


 「蓮華、私がやっていい!!」
 「ん、任せていい?」
 「よし、じゃ、行くよ!!」


 その少女は美しい空の色をしたミニスカートの、あまり派手ではない服を身にまとっている。その胸の中心部には太陽のごとき美しい宝石が張り付いていた。トパーズのようにも見えるが、違う。およそこの世に現存するものとは思えない色合いをしていた。
 彼女は大きくてゴテゴテとした銃を握っていた。ショットガンによく似ていた形状をしていた。
 蓮華の言葉を受けてからその少女は両手でしっかりと銃を握りなおすと、地面を蹴って飛び出した。


 「さてと、撃つよ!!!」


 足を止めず、走りながら銃口をその箱たちに向けると、引き金を連続で引く。
 すると、ガンッガンッガンッという激しい音がして、光輝く弾丸が吐き出される。高速で飛ぶそれらは、見事歩く箱に命中していく。
 するとドゴンッ!! ドゴンッ!! と轟音を響かせて次から次へと爆発が起き、箱たちが跡形もなく吹き飛んでいく。爆煙がいくつも発生すると、視界がどんどん悪くなっていく。だが、少女は魔力視を用いて煙の裏に隠れている箱たちを次から次へと正確に撃ち殺していく。
 順調そうに見えたが、ミスをした。
 距離を詰めた割に、敵を殲滅し損ねたのだ。
 一番奥の方に隠れていた箱が、パカッと開くと、中からびっくり箱のようにバネ仕掛けの巨大な顔面が飛び出してきた。どうやらこれはびっくり箱らしかった。出てきたピエロの顔は、ギザギザの口を大きく開けながら少女へと向かって行く。
 どうやらその裂けた口で食べてしまうつもりらしい。
 だが、


 「遅い!!」


 少女はいきなり足を止めると、右手で銃を持ちなおすと、腕を上げてパックリと開いた口に銃口を向けた。


 「死ね!!」
 

 無慈悲な銃口から、明るい光の弾が一つ放たれると、その大口に吸い込まれていく。
 直後
 顔の中で大爆発が起きると、ピエロの顔面が無残に飛び散った。


 「フーーーッ!! やっぱいいねぇ!!! すっきりする!!」


 少女――青葉照――はニッといい笑顔を浮かべると朗らかにそう言い放った。



4, 3

  


 ズン、ズンと重厚な足音が響く。
 不気味な色合いをして、サーカス用に色とりどりに飾り付けられた巨ゾウが人形やピエロを踏み潰しながら真っ直ぐ進む。十mをように超え、見上げなければその愛くるしい顔を確認できないほどにゾウはでかい。鼻には金色の鼻輪が通されていて、それだけがキラキラと輝いていた。長い鼻の下に隠された口を大きく開くと、ゾウは吠える。


 「ぱおーん!!」


 可愛らしい声
 これっぽちも害があるように見えなかったが、サイズの問題で存在だけで害悪と言えた。
 そんな巨ゾウの前に一人の少女がいた。
 白色か灰色か、不気味に透き通るそれは、あまり派手ではないウエディングドレスのよう。女性の憧れともいえるそれを華麗に着こなすその少女は、向かって来るゾウを前にしても驚くことなくその顔を眺め続けている。
 何も考えていないようなその顔。
 それに眠そうな目をしていた。


 ゾウは目の前にいるその小さな女の子をチラリとみると、それがおそらくだが自分の敵であることを察した。
 敵なら排除しよう。
 本能のまま動くと、前足を大きく上げてその少女を踏み潰そうとする。
 一気に周りがフッと暗くなり、少女の暗い顔がより一層恐ろしいことになる。


 迫りくる脅威を前にして
 少女は唇の端から小さな言葉をこぼした。


 「遥香に勝とうなんて百年早いんだよ」


 次の瞬間。
 まるで勝利の宣告でもするかのように腕をバッと上げると、指の先をこすり合わせる。
 そして
 パチンッという指の鳴る音。

 それと同時に、ゾウの前足がゴッソリと、丸くきれいに削り取られた。それでバランスを崩したのか、ゾウの体はゆっくりと傾くと、遥香の上に落ちていく。このままでは潰されてしまう。だが彼女は少しもあせらない。
 腕を上げたまま、もう一度指を鳴らすと、今度はゾウの体の中心に穴が開く。
 遥香の体はその穴を通り抜け、潰されることなく済んだ。
 一方で、ゾウはその一撃で絶命したのか、轟音を立てながら地面に倒れ込み、ボンッと音が鳴ってはじけ飛んだ。
 その中で。
 やはり表情一つ変えず、遥香は立ち尽くしていた。



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