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プレゼント

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 「…………」


 無言の帰宅。
 それでも達也は返してくる。


 「お帰り」
 「…………」


 アリスはそれも無視すると、椅子に座る。
 達也はそれとほとんど同時にあらかじめ入れておいた紅茶をポットに注ぐと、それをアリスの前にポンッと置く。カモミールティー。アリスはこの独特な香りが意外と気に入っている。香りを楽しみながら、それを一口飲む。
 その間に達也は夕食の準備を整えていく。


 「もうちょっとでできるから」
 「ん」
 「肉じゃがとみそ汁とかだけだけど平気だよね」
 「…………」


 同意を貰えるとは思ってないし、どうせアリスに決定権はない。
 ひたすら無言を貫く。
 そんな中、達也は「そういえば」と呟くと一旦鍋の前から移動するとシンクに置いてある小さな包みを手にする。キレイに包装されたそれを見てアリスは訝しげな顔をする。達也はそれを座っているアリスの前に置くとこういった。


 「はい。プレゼント」
 「え?」
 「本当はさ。誕生日に渡したかったんだけど、なんか不都合が起きたらしくって」
 「…………」
 「俺の技術が利用されて作られた新型。実質無料で譲ってもらった」
 「………何」
 「んー。自分で開けて見てよ」
 「…………」


 手を伸ばし、リボンや包装をビリビリと豪快に破いていく。
 すると小さな箱が出てきて、そこに小さく薄型な四角い機械が入っていた。ウォークマンだ。そもそもアリスはこういったものに疎いので、あまり詳しくはないのだが見たことのないタイプの物ではあった。さっそく電源を入れて起動してみる。するとすでに何曲か入っていることが分かった。
 何の曲か確認してみると、それはクラシックだった。
 アリスはロックやアニソンと言った激しい曲は苦手だが、くらっしくのような静かな曲は好きなのだ。最近は山本慎吾という名の天才少年ピアニストが奏でる曲を好んで聞いている。何となくだが非常に気に入っているのだ。
 達也もそれが分かっているので、わざわざ入れたのだ。
 早速イヤホンを取り出すと、耳に入れてみる。
 すると、クラシック特有のピアノの音が流れてくる。目を閉じてジッとそれに身を任せる。
 その顔は安らかで何とも心地よさそうだった。
 どうやらご満悦らしい。
 達也は安心して夕飯の準備を続ける。



 食べ終わった二人は特に面白くとも何ともないテレビをミュートにして眺めながら音楽を聴き続ける。アリスは終始目をつむったままなので、うっかりすると眠ってるようにも見える。だが、胸が上下している事からそうではないと確認することができた。
 お互い何も言おうとしない。
 この素晴らしい時間を崩したくないのだ。
 二人は非常に充実していた。



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