リザナ、(頭部6-左腕2-右腕1-右脚1)
慶、(胸部3-右脚5-右腕1)
「おいおいおいおい」リコーズはカウンターからテレビに向かって身を乗り出した。
「まさか、真嶋まで追加ドローか? いくらなんでも無茶苦茶だぞ、第一、……引けるのか?」
「引けば真嶋も切札を絞られる。だが……」とアッシュグレーのバラストグールは唇を舌で湿らせる。
「ここは引きたいだろうな。いま、リザナに圧倒的にカードが寄っている。その流れを潰すには真嶋も動くべきかもしれない。しかし、かえってそれでより強くリザナの流れが強くなる可能性もある」
「流れがあるとかないとか議論は抜きにしてだ」リコーズはドサッとスツールに腰を下ろす。
「実際、どうなんだ? こういう時、どうすりゃいいんだ? 教えてくれよ」
「知るか」
「えぇ?」
「知るもんか、見てみろ。わからんからああやって、死にそうな顔で迷ってるんだろ。どうすりゃいいかなんていくらでも思いつく。答えなんて後からいくらでも造れる。俺たちから見りゃそうだ。だが現実、あの場にいる真嶋はなんとしてでも、たとえ魂を悪魔に売り渡してでも、ここで正解を引かなきゃならない。もう後には引けねぇんだからな」
「そんな無茶な……」
「無茶でもやるしかない。……それより、そう言うアンタはどうなんだ」
「え?」
バラストグールはリコーズを睨んだ。
「賭けのこと、忘れてるんじゃないだろうな」
「ああ……どっちに賭けるか決めたのか?」
「決めろと言うならな」
「じゃ、まだいいよ。もう少し見てようぜ……それより、クソ、映りが悪いな。このオンボロ!」
リコーズがブラウン管をガンガン殴り、ノイズ混じりの画面が余計にひどくなった。
「ああ、くそ、見えない。真嶋は……引いたのか? よく見えない……」
「いや、見送ったな。引かなかった」とバラストグール。
「リザイングルナにディーラーがカードを配ったのが見えた」
「なにを引いたんだ」
「真嶋は、左――左脚引き。リザナは……胸部……? いや、頭部だ。頭部引き」
リザナ、(頭部7[NEW!]-左腕2-右腕1-右脚1)
慶、(胸部3-右脚5-右腕1-左脚1[NEW!])
「最悪だな」バラストグールは吐き捨てる。
「もう、ホットハンドじゃ勝てない。残り2ドロー……真嶋はレイズデッドを目指すしか、ない」
「……引くべき、だったのか」
「さあな。それこそ結果論……意味ねぇよ。それより、アツくなってないといいけどな」
「アツく?」
「だってほら……ああ、やっぱり、やったな」
テレビの中、真嶋慶がテーブルに開かれた自分の手札から3枚を破り捨てるのが見えた。ヤケクソのようにカードを引き千切り、背後に放り投げる。
「胸部、胸部、右脚の3枚を捨てたな。さすがに切札はまだ明かせないか……それとも、使いたくても、切札が場にないの、か」
「いまさらドローか……確かにホットハンドでもう勝てないなら、重なったカードは必要ないな」
リコーズが顎に手をやる。グールは首を振った。
「だが後手だ。相手の動きを見てから対応している。そんなんじゃ崩せない……いくら実力では勝っていても、相手は本気だ」
「わかるのか?」
「俺は真嶋慶より昔からこの船にいる。レイズデッドに挑んだのはアイツだけじゃない。最後まで辿り着いたのも。だが、リザイングルナはどんなギャンブルでも、一度も負けたことがない。実力だけで測れるようなものじゃない、土壇場の真剣勝負ってのはな……あ」
「どうした?」
「真嶋が引いた」
慶、追加ドロー、
『右脚』引き。
(胸部1-右脚5[NEW!]-右腕1-左脚1)
グールはテレビに向かってつぶやく。
「……さあ、どうする真嶋。ただいたずらにカードとカウントを消耗しただけだ。そして胸部と右脚をオープンカウントではなく破棄したことによって、おまえの切札も絞られた。たとえカモフラージュだったとしても、この一戦を捨ててさらに次戦を考えているとしても……そんなおまえに倒せるほどこの相手は甘くない」
残るドローは、あと2枚……
だが、テレビの中の画面は動かなかった。
カードを配ろうとしていたディーラーを、
リザイングルナが、片手で制した。
視線は、デッキを刺している。