第7ドロー
エンプティがリザナにカードを差し出す。彼女はそれを受け取り開く。
当然のように、
『頭部』。
結局、彼女は渡り切った。このあまりにも細い綱を。
怒涛の連続頭部引き――
11枚目の頭部まで引き当てられ、つまりもう、山札に同じカードは2枚しかない。
このゲームを終わらせるためには、慶はここで引くしかない。
2種の内、どちらか。頭部か、左腕か。
慶は呼吸を一つ吐く。三人が、それぞれの思いをこめて自分を見つめているのがわかる。
指を動かす。油の中にいるように重い。
熱い空気の層をかき分けて、山札に手を伸ばす。もうヴェムコットも手を出そうとはしない。
これは、正真正銘の一枚。
真嶋慶がここまで積み上げてきた、勝負の一瞬。
引けるか――それは、わからない。
心臓に血流が奔るのがわかる。吐く息が熱い。鼓膜が脈動し、汗が頬を伝う。
視線が逸らせない。
カードから……
たかが絵柄合わせに、俺はなぜ、こんなにも執着してきたのだろう。不要とあらば、必要となれば、破り捨てることさえ辞さない紙切れに、どうして俺とあいつの結末が懸っているんだろう?
わからない。
わからない――それでも、
ゲームは、続く。
思えば。
ありもしない展開の連続だった、ここに至るまで。
だったら、最後まで、
曲げずに引くだけだ。
真嶋慶、として。
そして、慶はその一枚を抜き取り、テーブルの中央にそれを剣のように振り下ろした。
カードが跳ね、そして、沈む、
その一枚は――
「……頭部」
リザナは微笑む。
「引けるような、流れではなかったのに……ね」
慶、頭部引き (頭部1-胸部1-右脚6-右腕1-左脚1)
引いた。
引いて、みせた。
あとは、右脚を5枚破棄し、さらに場に出ている切札からオープンカウントを拾ってカウント6を達成し、ファイナルドローするだけ。
だが、
慶は動かない。
リザナが眉をひそめる。問いたげに唇が開く。
「どうしたんですか。さあ、最後のドローを……」
「無理だ」
答えたのは、慶ではなく。
その男は、まるで自分の身が切り裂かれているように顔を歪め、罰を乞うように項垂れている。
「真嶋慶の切札は……ここにはない」
「え……?」
「ファイナルドローなんて、ないんだ」
だとすれば、
だとすれば、
この勝負は……
リザナの、
――だが、
慶が言う。
「そうだ、俺にはファイナルドローなんてない。
そんな必要、
ない」
慶は、いつも着ている血まみれのように赤いシャツのポケットに指を差し込んだ。
何か抜き取り、それを引き出す。
リザナの双眸が驚愕に見開かれ、
エンプティが息を呑み、
慶は言う。
「俺の切札は、ここにある」
そっと。
何か大切なものを置くように、
何か壊したくないものに触れるように、
慶は、そのカードを開けた。
『左腕』、
それは、
頭部、胸部、右腕、右脚、左脚、
それに欠けていた最後の部位(パーツ)。
今ここに六種すべてのカードが揃った。
エンプティが耐え切れずに、囁く。
レイズ――
「レイズ・デッド……!」
沈黙が、場に重たく広がって、
リザナはようやく、すべてを察し、
隣に立ち尽くすその男を見上げた。
「ヴェムコット……」