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第6ドロー

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 テレビの画面に、リザナが合計9枚目の頭部を引いた場面が映っている。
 慶の手札に頭部はない――レイズデッドするためには、その数少ない頭部を引き当てなければならない。
 果たしてそんなことができるのか。
 興味津々で訳知り顔をしているリコーズに、バラストグールは顔をしかめた。

「おい、いいのか」
「え、なにが?」
「どっちに乗るか、もう決めても遅い頃だぞ」
「へえ、じゃあアンタには、どっちが勝つのかわかるのか?」
「見てわからねぇのか。――この流れは止まらない。リザナはこのまま、首を引き抜き続ける。最後までな」
「そいつァわからないぜ。まだ2枚もドローは……」

 とリコーズが答えようとした時、ディーラー二人からそれぞれのプレイヤーに6枚目のカードが配られた。

 リザナ、頭部引き (頭部7)
   慶、右脚引き (胸部1-右脚6[NEW!]-右腕1-左脚1)

「……残ってるしな」
「ここまで来て、レイズデッドの有効札を引けなかった。真嶋慶に勝ち目はない」
「そんなことないさ。次に頭部か左腕を引いて、そこから右脚を5枚破棄。そしてどれかわからないが、慶の切札からオープンカウントから1消費、それで追加ドロー。最後の部位札を引けば……レイズ・デッド、だ」
「俺もそう思ったさ。だが、その展開には無理が一つだけある」

 リコーズは首を傾げた。

「無理……?」
「真嶋の切札が、『最後まで引けなかった』部位だったら……オープンカウントを消費もクソもない。
 あいつの手札から、カウントは出せないんだからな」
「……まさか。もうすでに引いてるさ」
「そうか? 胸部や右脚はすでに一度破棄したが、オープンカウントならそんなことするかな?」
「……電気椅子戦になった時の、カモフラージュ、とか」
「そうかもな。だが俺には真嶋慶が『次戦』を考えているようには見えない。この一戦をしのぎ切る、たしかにそれは合理的な戦術だ。もうこんな後半にもなってホットハンドで勝ててないんだからな。電気椅子さえ凌げば、どれだけポーカーで稼ごうが無意味……それは正しい、合ってるよ。
 だが、もうこの流れはそんな搦手で捌けるようなヤワなカゼじゃない。
 いまこの一瞬でリザイングルナの首狩りを止められなければ、真嶋は負ける。
 切札がバレずに終わっても、リザイングルナは運否天賦で撃ってくる。それの直撃を喰らえば、マックスベットの電流を耐えられる魂なんてありえない。
 真嶋は間違いなく、消滅する。
 俺にはあいつが、そんな危ない橋を渡るとは思えんな」
「じゃあ、真嶋の切札は……」
「まだ引けていない、頭部か、左腕……その可能性が濃厚。だから次のドローは、頭部か左腕のどちらか、さらに自分の『切札』を引いて、ファイナルドローに繋げなければならない」

 バラストグールが、リコーズを見た。

「そんな危なっかしい場面で、そいつに乗ろうとするやつの気が、俺には知れんね」
「……そうか?」

 リコーズは微笑んだ。不思議なことに、焦るどころか、どこか照れくさそうに手の中のグラスと氷を揺らす。

「俺には知り合いがいる。真嶋慶によく似てる。
 あんたの言うことはよくわかるよ。でも、俺には関係ないな」
「関係ない……?」
「まだ真嶋には勝ち筋がある」
「どんな」

 カラリ、
 氷が鳴って、

「……イカサマさ」
「何を言うかと思えば。おい、この船で抜きはご法度だ。この船そのものが乗客に不正を赦さない。ポーカーなら、不正したカードは燃えてしまう。そんなこと、あんただってわかってるだろ」
「わかってるよ。わかってるさ。でも、あいつなら……」

 門倉いづるにどこか似ている、真嶋慶なら、

「俺には想像もできん勝ち筋を見ているのかもしれん。手品なんてタネが割れればカンタンだが、そうカンタンには割れないから手品なんだ。そうだろ?」
「無理だ。たとえこの船が沈むとしても、もう動力が止まってるとしても、関係ない。最後の最後まで、この船でイカサマは不可能だ」
「勝負の質が変わったな」リコーズが笑って、
「……勝負は、真嶋慶が、なにがなんでも勝つかどうか。いや……あいつを信じるかどうか、だな。
 どうする、兄さん。俺は構わない。
 この世でもあの世でも、心から信じられるものは少ないし、ましてや信じてみたくなるやつなんて、そういない。
 俺は、俺にそんな気持ちを抱かせてくれたあいつに賭けてみたい。こんなチャンスを見逃して、みすみすあと何十年も、『次』を待つなんて、退屈すぎる。
 あんたはどうする? あんたが勝てば、正真正銘……
 あんたが最後の、バラストグールだ」

 バラストグールは、胸を撃たれた男のように、戸惑った顔のまま凍りついていた。
 が、やがて、言った。



「俺は…………」


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