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「90'S TOKYO BOYS」OKAMOTO'S

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動画はこちら
https://youtu.be/qNMTGTJ0ovA


 ミラーボールが腐っている。
 実際に腐っているのはミラーボールの回る場所に集う人達の内蔵やら脳髄やら吐瀉物やらで、ミラーボールには何の臭いもないのだけれど、あのキラキラした光と共に臭気を撒き散らしているように僕には思える。でもそれが嫌いではない。
「曲が書けるまで帰りたくない」というラインメッセージを受けて、既に眠くて倒れたくて休みたかったのだけれど、彼女を迎えに行き、夜の街に繰り出してレッチリの話などしながら最終的に彼女の部屋に着地する。

 セックスをしたのかしていないかよく覚えていない、二日酔いの酷い頭痛の中でまた酒を求め、ワインボトルをらっぱ飲みして彼女にも回す。気だるげな朝はまだまだ昨日の続きらしい。保安灯にしているLED電灯にもミラーボールの腐った臭いが付いて来ている。彼女とキスをすれば酔っ払いの味しかしない。「あなたもよ」ごめんなさい。

 彼女の乳房に触れながら眠ると悪夢を見ない。僕は無駄に握力が強いから、彼女を痛がらせないように、掴まないように手を置く。裸で寝ていない時は服に手を突っ込んで、ブラジャーを外さずにまどろんでいる彼女のブラジャーのホックを外して。彼女のいない日は僕の手は仕方なく自分の性器に向かうが当然のように悪夢がやって来る。眠れなくて夜の街に向かう。ラインメッセージ「曲が書けるまで帰りたくない」駅まで彼女を迎えに行く。誰が作ったか知らない眠らない街を、歌いながら躍りながら、終わりそうにない昨日の続きを歩いていく。
「さっきキスをしたっけ」
「忘れた。覚えてない。知らない」
 おぼろ気な記憶を固める為にキスをしてまた忘れてもう一度してみてまたあやふやの中に埋もれていく。いつだって初めてでいつだって熟練のキスの中でまた朝が来る。ブルーチーズしか食べる気になれなくて、するとワインにしか手を伸ばせなくなって二日酔いが悪化して終わりが見えない。唾液とワインの混ざった物を唇で交換して「酔っ払いの味しかしない」「あなたもよ」彼女の取って置きのそこそこ高いワインと398円の安ワインをごちゃ混ぜにして飲んでしまうがどうせ初めから味なんてよく分かっていない。

 あなたを抱きたい。ゆっくりお風呂に浸かりたい。二、三日中眠り続けたい。歌い続けたい躍り続けたい。迎えに行き続けて遊び続けて、なおかつ眠りたい。欲望は終わりがない。昨日の続きを終わらせたくても終わりはやってこない。
 もっといい一日を。もっと素敵なキスを。もっと、もっと、と求め続けてまた酔っ払って、だから酔っ払い味のキスをして。「あなたもよ」ごめんなさい。

 何度目か、何千回目か、彼女に呼び出されてレッチリの話などしながらキスをして彼女の部屋に着地する。部屋に着いてからキスだっけ。それとも最初から最後までレッチリの話しかしていない僕の妄想だっけ。「違うよ」と彼女がキスをしてくれる。やっぱり酒臭い。彼女はブルーチーズに手を伸ばし、僕は彼女の乳房に触れる。まどろみの中でまたセックスしたかどうかあやふやな朝を迎える。
「曲は書けたの?」
「いつだって書き続けてる。でも終わってくれない」
 また夜が来て、僕らは腐った臭いのするミラーボールめがけて夜の街に繰り出す。いつまでも続きそうだけどやがて終わりはやって来る。その事には目をつぶって時間をつぶし続ける。いつ切り上げるからは彼女の気まぐれ次第にかかっている。
「ここでタイトルコール」と彼女が呟く。
「何だって?」僕の眼前に反転したアルファベットの文字列が浮かび上がる。「90'S TOKYO BOYS」と読める。それから長いギターソロが鳴り始めて、僕らはまたまどろむ。ミラーボールが、街が、彼女が、腐り落ちていく。僕もその中に混ざっている。それでもまだレッチリの話を続けていく。


(了)
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