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リーシャのこと

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 朝日が俺の顔にさあっと差し込んできた。猫の匂いがする。俺はむにゃむにゃとあくびをしてから目を開けた。そこには金髪碧眼の美少女の笑顔が待っていた。
「おはようございます、ご主人様。今日もいいお天気ですよ」
「ああ・・・・リーシャ。おはよう」
「はい。朝食はお召し上がりになりますか?」
「うん」
 俺はリーシャが差し出してくれたサンドイッチをベッドの上でもぐもぐと食べる。今年十九歳になったリーシャの作ってくれる朝食は、毎日どんどんおいしくなる気がした。
「今日はどんな一日になるんでしょうね、ご主人様」
「わからない・・・でも優しくしてくれ」
 リーシャはにっこり笑った。



 外は見渡す限りの焼け野原だ。ビルが倒壊し、ガスが充満している。俺はそんな世界に嫌気が差して顔を背けた。疲れたのだ。
「ご主人様、いいんですよ。この光景はあなたのせいではないのですから」
「そうだよな・・・」
 俺の選択が世界の運命をあのとき捻じ曲げたのは確かだが、だからといってそれが俺のせいにされるいわれはない。俺は流木にすがる溺衰者のようにリーシャの白い細腕にしがみついた。
「俺は悪くない。俺は悪くなよな? リーシャ」
「ええ、その通りです」
 リーシャがかたづけてくれたから、外の道路に転がっている死体はだいぶ少なくなった。




 真の王を決めるあの戦いで俺はずるをした。そのせいで、死ぬはずだった俺は生き延び、続くはずだったこの世界が終わった。
 だからなんだっていうんだろう?
 べつに俺の暮らしは変わらないし、それどころかよくなった。
 リーシャ毎日ごはんを作ってくれるし、あったかい布団だってある。ほかになにがいる?
 あの日、大勢が死んだ。
 その亡骸も蹴り転がせばすぐになくなる。
 そんなもの最初からないのと同じだ。
 俺はそんなものより今のほうが大事だ。リーシャがいてくれる毎日。友も敵もいない時間。
 それを俺は望んだのだ。

「はい、ご主人様。あーん」
「あーん」

 俺はリーシャに夕飯を食べさせてもらう。こぼれたソースを拭ってもらう。
 ほかになにがいる?





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