ひとはモノ
「ずいぶん前から疲れていたのではなくて?」
俺はそう言われてふと思い出した。そうだ。俺は疲れていたのだ。なにもかも上手くいかないし、わざわざそれを俺にぶっかけてくる神様に嫌気が差したのだ。俺は叩いて映るテレビじゃない。だからもう休んでもいいのだ。
こうして静かな病室で一人横たわっていると平静でいられる。他人というものが俺にどれだけ重荷をおっかぶせていたのかを知る。そうだ。この暮らしの何もかもが間違っていない。俺は最初からこうして横たわっているべきだったのだし、今まで無理をしてきたのが歯車の狂いだったのだ。誰の声も聞きたくない。俺を不愉快にさせるだけ。
しずかな―――――
こうしていれば恐ろしい何かが襲ってくることはない。その何かというのは、思い出してみれば俺自身だったのだ。やさしさというものは純粋になればなるほど毒気を増す。酸素と一緒だ。高濃度の酸素の中では人は中毒になり燃焼は激しくなる。何もかも気がついてしまうから苦しむわけで、そのセンサーをカットしてやればいい。それだけで自由になれる。
結局のところ、やさしさというものはなんの役にも立たないし、俺は本当に誰かを好きになったことがないのだ。
俺には他人がモノに見える。