Neetel Inside 文芸新都
表紙

自らの性癖を暴露するアンソロジー
それがいい/下水道みみず

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 高校の夏服を着た彼女が地面にしゃがみこんでいた。いわゆる、うんこ座り。正面から見ると、パンツが丸見えだった。
 彼女の股の内側はむちっとしていて、指でなぞって感触を確かめてみたい衝動に駆られた。淡いブルーのパンツの生地が食い込んで、はっきり形は分からないが、微妙な起伏が興奮を誘う。見えそうで見えない、っていうのがいわゆるチラリズム。それなら形が分かりそうで分からない、っていうのもチラリズムじゃないか? 丸見えなデルタ地帯を眺めながら、俺はそう考えた。いや、待て。その理論じゃスケブラとかもチラリズムになっちまう。やっぱりちょっと違うのかもしれない。何て呼べばいいのだろう。スケリズム? 安直でセンスのないネーミングしか思いつかなかった。 
 彼女は視力が弱いけれど、メガネをかけるのは授業中だけだ。だから今は視界のぼやけた裸眼の状態で、俺に股間部分をガン見されていることにも気づかない。さらに戦闘モードの俺はズボンの中がはちきれそうで、ちょうど彼女の顔の正面あたりにそれがあるわけだ。
 チャック下ろしてみようかと一瞬考えたが、小心者なので止めた。
 
 彼女がうんこ座りしているのは、俺の家で飼っているチワワを撫でているからだった。
 一時期○イフルのCMに影響されてた妹が親父に頼み込んで飼ったやつだが、飽きっぽい妹に『ちゃんと面倒を見てやる』なんてのは無理な話だった。おかげで今では猫派の俺がすっかり散歩係で定着している。それが彼女のパンツを拝むための壮大な伏線だったとは、さすがに予測不可能だった。
「名前、何て言うの?」
 俺のチワワを撫でながら、彼女が眩しい笑顔でそう尋ねた。俺は一瞬自分の名前を訊かれたのかと思ってドキッとしたが、さすがにそのまま勘違いに突っ走るほど迂闊ではなかった(ところで『俺の~を撫でながら』って表現は卑猥な気がする)。
「○○っていうの。妹がつけたやつだけど」
 俺はなんでもない風を装って愛犬の名前を教えた。
 自分の名前を訊かれた、なんて発想に至る。それはつまり、自分が彼女に名前すら覚えられていないという想定を、ごく自然なものだと受け入れてしまっているということだ。
 もちろん彼女はそんな薄情な人間ではない。どんな地味なやつでも、彼女なら半年間クラスメートだった相手のことは少しは気にかけてくれている。しかし、頭で分かっていても心は脊髄反射を起こす。他人を前にすると自分を卑下してしまう癖が俺にはあった。
「かわいいなぁ~。犬、私も好きなんだけど、マンションだからだめなんだよね」
「……ああ、そう」
 愛想笑いすら返せない俺に、彼女は嫌な顔一つ見せない。無頓着なのか、気遣いなのか。俺はそんな彼女に少し感謝すると共に、腹の底から情けなくなった。
 もちろん、そんな感傷に浸っている間もパンツはしっかり目に焼き付けている。勃起も止まらない。
 こればかりは男だからしょうがない。
 
「学校、まだ来る気にはならない?」 
「……あっ、うん……まだ、ちょっと」
 どもっちまった。気持ち悪い。俺はたった一言喋るだけでも、自分を嫌いになるリスクと戦わないといけない人間だった。
 俺と彼女とチワワの○○。二人と一匹で川沿いの遊歩道を散歩しているときに、彼女が俺に質問をした。俺の不登校がいつ終わるのかという質問だ。
 本当に、答えにくい質問だった。あるいは彼女にとっては世間話レベルの話題だったのかもしれない。
 俺は世間話が怖い。上手くなんて答えられないから。
 元々すすだらけの俺の表情がさらに曇ったのを、彼女は見逃さなかったらしい。彼女は俺に気遣いの言葉をかけた。こんな偏屈をフォローしようなんて無謀な試みなのに。
「ああ、ごめんね。えーっと、強要するつもりはないよ? ××くんの来たいときに来ればいいと思うし。ただ、皆も心配してたから」
 皆っていうのは、どこのどいつだ。社交辞令だと分かりきっていたので、あえて訊くことはしなかった。彼女からすれば、反射的に出た悪意のない台詞だろう。
 でも、そういうの、けっこうくるんだよ。こういう感覚、君には理解できないだろけど。
 年を食って人生経験を積めば。頭で理解するぐらいはできることかもしれない。でも今の俺たちは十代で、どれだけ優しいとかは無関係に、狭い視野でしか他人を見れない。それは変えようのない事実だ。
 彼女の言葉が俺の救いになってくれる、なんてことはない。
 俺は押しつぶされてしまいそうな焦燥を感じた。じめっとした真夏の夜にどこか似ている。眠ることができれば楽になのに、意識ははっききりしている。
「ああ、ダメだ。この言い方もプレッシャーかけてるよね? ごめん」
「……いや、別に……」
「うーん、何か、互いに気を使いすぎなのかな。いや、私が一方的にやってるだけか。正直、迷惑でしょ? こんなお節介ばっかりかけられるのも。って直接訊くのも、それはそれでアレだよね。反応に困るし」
 彼女はいつもとは少し様子が違った。今までは俺を刺激する言葉を避けていた(俺はそのことに気がついていた)が、今日は少し投げやりな本音が漏れ出ている。刺さる言葉だった。きっと彼女は俺にうんざりし始めている。こんなのが相手なら当然だ。
 そう考えていたから、次の彼女の言葉は少し意外だった。
「……なんだろ。誤解、されるかもしれないこと言うけど、私は××くんって真面目すぎるんだと思う。勉強をできるとかじゃなくて、人間関係とか生き方の部分でさ、えーっと、上手く言葉に出来ないけど」
 俺は彼女の横顔を見ていた。整った目鼻立ち。スベスベしてそうな頬っぺた。細い首筋。見ていて飽きない。
「私なんかに何が分かるの? って話だけどさ。××くんが学校来ないのも、周りに合わせて無理にでも楽しくしてなきゃ、みたいな空気が嫌だったからじゃないかな、って私は思う。皆のこと悪く言うつもりはないけど、そういうのが暗黙の了解みたいになっててさ。疑問を持たずにやれたら、それはそれで楽しいけど」
 諦めて達観しようとして、それでも何かに振り回されている。彼女はそんな疲れた人間の表情をしていた。気のせいだったかもしれない。
「何か、変なこと話しちゃった。見当はずれだったよね」
 彼女は笑いながらそう言った。無理をして作っているような、乾いた笑顔。俺は質問に答えない。認める勇気も、強がる気力もなかった。 
「……最後にさ、もう一個だけ変なこと言っていい?」
 彼女は俺の目をまっすぐに見ていた。喉が渇いて声が出なかったので、俺は無言で首を縦に振った。
「自分で自分を肯定できなきゃ、幸せにはなれないって思うの」
 知ってる。
「私の人生観みたいな? この齢で人生観なんて笑っちゃうって感じだけど、まぁ、昔に色々あってさ。そのとき最終的にそう思って、何とかやってみようって気になれたの。だから、××くんも一歩を踏み出したほうがいい。強要してるわけじゃなくて、あくまでアドバイス……けどさ、学校、来なよ。逃げてたら、自分が嫌になるだけだと思うから」
 恐らく、彼女が『普通の友達』相手にこんなことを話すことはないだろう。親友でも恋人でもなく、一方的な同情と優しさで繋がっているだけの関係だけど、他のクラスメイトたちにはない共感を、彼女は俺の中に見ているのかもしれない。
 それで何かが変わるわけじゃない。
「あーあ、結局、説教臭くなっちゃった。どうしたもんかな。上から目線だし。何様だよね、本当に」
 彼女は少しだけ気だるそうに笑った。自嘲だということがはっきり分かる表情。笑えるだけマシだ。
 しばらく歩いてから彼女と別れた。
「じゃあね」と言われたが、俺は挨拶を返さない。
 死ねよ。
 
 休み時間の教室で俺は彼女のことを見ている。誰にもバレないように、チラチラと。挙動不審にならなくたっていい。誰も俺のことなんか気にかけていない。
 教室の真ん中辺りに何人かのクラスメートが集まった男女混合のグループがあって、彼女はその中にいる。
 男子の一人が彼女に向かって何か話しかけている。彼女はそいつの言葉を聞いて楽しそうに笑っている。
 別にいい雰囲気とかじゃない。他愛ない雑談。くだらない言葉だ。くだらない。笑う価値なんてない。
 その男子の名前を俺は覚えていない。クラスの中でも目立たない、どうでもいい相手。彼女の人生にとっても、取るに足らない登場人物のはずだ。
 彼女はそいつの言葉で笑う。
 くだらない冗談なんかで。
 俺はそんなもの吐かない。
  
 人と話すのが苦手だから黙ってた。
 誰かに話しかけられても黙ってから、皆に後ろ指をさされた。
 人が嫌いになった。自分も嫌いになった。
 無駄なおしゃべりしているやつらは頭が悪いんだ。人を見下して自分を保った。あいつらはクズ。自分以外はクズ。俺は賢い人間。あいつらとは違う。
 あるとき、彼女に話しかけられた。 
 ちょっと微笑んでくれて、その表情に俺は恋をした。愛想笑いでもいい。 
 俺は彼女の言葉に答えようとした。気の利いた一言を探す。
 黙って俯くことしかできなくて、自分が異常なことに気がついた。

 犬の散歩から帰ると、俺は自分の部屋にこもって、さっき見た彼女のパンチラを鮮明に思い出そうとした。
 俺は妄想の中で、ウンコ座りをしている彼女の前に再び立った。 
 チャックを下ろして、犬を撫でている彼女の顔の前に自分の陰茎を露出させる。ギンギンに勃起したものはもう少し彼女のおでこに触れそうだったが、視力が悪く犬に夢中になっている彼女は気がつかない。俺は右手でピストン運動を開始する。彼女は気がつかない。
 リビドー。
 無防備さに俺は興奮する。自分が肉欲の対象として見られていることを意識していない、そんな状態がエロいんだ。絡みつく視線に気がつかない。視姦されているのに。
 白いシャツが汗ばんで、水色のブラが透けて見えた。パンツとおそろいの色で、男の幻想を壊さない『女の子』をそこに感じた。シャツには汗で二つのふくらみに張り付いている。水色に比べると分かりにくいが、目をこらせば肌色も見える。
 彼女の胸はそこそこ大きい。巨乳と言うほどではないが、夏服だとボディラインの起伏が分かる。まだ学校に行っていたころ、俺はよく彼女のことを見ていた。体ばかりを、ずっと。
 メスの体だ。
 彼女が意識しなくても、彼女の肉体はいやらしく成長する。本人の意思とは無関係に、周りの男に対して「この体を孕ませてください」っていうサインを発信している。背中に透けたブラのホックだったり、しゃがんで見えたパンツだったり、屈んだときに見えた胸の谷間だったり。そういうものばかり晒して、男たちに「犯したい」と思わせる。もちろん彼女はそんなことを意識していない。普通に振舞っているだけ。真面目に授業を受けているときも、誰かにマンコの締りぐあいを想像されている。家でシャワーを浴びているときも、輪姦されて中出しされまくる妄想の中にいる。
 明るく、誰にでも優しい彼女。
 でも、同時にクラスの男子の頭の中で犯される彼女。
 俺も彼女を犯している。そのことを教えたら彼女はどんな反応をする? 耳元で囁いてやりたい。
 自分の息づかいが荒くなり、小さな喘ぎ声が口から漏れるのが聞こえた。傍から見ればかなりの気持ち悪さ。
 気持ち悪い自分が、綺麗で無防備な彼女を汚すというシチュエーションがいい。俺は貧相であまり風呂に入っていない陰茎を彼女に向けている。皮余りで、カスだらけで臭い。オナニーばっかりしているから、放置された精液の臭いが濃縮されている。彼女は意識していないが、臭いの粒子は確実に彼女の鼻腔に吸い込まれ、嗅細胞を犯している。
 快感が強まっていく。
「●●!」
 俺は彼女の下の名前を呼んだ。急に名前を呼ばれた彼女は驚いて上を向く。俺は自分のモノを前に突き出す。
 彼女が俺の亀頭にキスをする形になった。ファーストキスだったらいいと思った。
 やわらかい唇の感触が先に触れている。その感覚が俺の海綿体をさらに硬直させ、血流で僅かに大きくなった紫の亀頭がプ二っとした唇に埋まる。
 俺は絶頂に達した。
 唇の間から、コキすぎで薄まった俺の精液が彼女の口の中に侵入する。
 薄さはともかく射精感は長く続いた。俺は何が起こったか理解できず呆然としている彼女の頭を掴んで、自分のほうに引き寄せた。
 彼女の前歯が亀頭に当たって、二度目の絶頂。
 ドクドクと脈打って、彼女の口内をドロドロに強姦する。俺の体液は彼女の舌に届いただろうか。こんなに気持ち悪い俺の汁の味を、彼女は味わっただろうか。「犯したい」って気持ちが濃縮された汁。
 俺は彼女の口からチンコを離して、さらに頭を引き寄せる。ムレた玉袋に彼女の唇が触れている。チリチリの陰毛を彼女は唇で感じとっている。裏スジが彼女のおでこに当たった。男性器の付け根の臭いを彼女は嗅いでいるはずだ。
 彼女の口から出た息がタマに当たる。鼻息はチンコの付け根に。
 状況が理解できたのか、あるいはパニックを起こしただけなのか、彼女はジタバタと抵抗を始める。俺は性器を彼女の顔面に押し付けるのを止めない。抵抗する動きが俺の敏感な部分を刺激する。俺は腰を振っていた。
 やっとの思いで彼女は俺の臭いの中から脱出する。
 彼女はぐしゃぐしゃに泣きじゃくっていて、先ほどまで俺と話していたときの憂いを帯びた表情とのギャップがヤバかった。真っ赤に腫らした両目には俺への軽蔑が見てとれる。最高に興奮する。
 俺は彼女の額に亀頭を当てがった。残り汁と新たに垂れた我慢汁とでヌルヌルの亀頭だ。腰をスイングさせて、筆の先で彼女のかわいいおでこにペイントする。
 海綿体が硬くなり、俺は彼女の顔に三度目の精射をした。
 彼女の涙と俺の精液が混じる。
 クラスの男子がキスしたり、ほっぺを指でつついたり、そんなことを妄想していた彼女の顔を強姦してやった。優越感。ぶっかけてやった。
 彼女の両目は俺を汚物を見るような視線で刺している。
 それがたまらない。もっと嫌ってくれ。
 みんな俺を気持ち悪いって言ってる。
 それ以外の接しかたをされると、痒くなるんだ。
 俺なんかに優しくして。
 やめてくれ。
 
 目が覚めると、窓の外が暗かった。オナニーをして、そのまま眠ってしまったらしい。
 空腹を感じたが、家族のいるリビングを通って台所に食べ物を取りにいく気にはなれなかった。
 この時間、彼女は何をしているだろうか。夕食時は過ぎている。
 シャワーを浴びた彼女は、パジャマ姿で濡れた髪を乾かしている。そんな妄想をした。ブラジャーはつけていない。乳首がツンと立っているのが薄い布地の上から分かる。
 俺は場所すら知らない彼女の家に忍び込んで、彼女をレイプする計画を立てた。
 実行する度胸のない犯罪計画をシュミレーションしながら、ベッドにうつ伏せになってフニャフニャなモノを押し付ける。何百回目のシュミレーションかは覚えていない。
 妄想の中の彼女はいつも処女で、泣きわめきながら俺を拒絶する。
 淡い恋心は汚いもので塗りつぶして、すでに見えなくなっていた。不安も感傷もない。
 気持ち悪いって思われても、それを興奮に変えられるなら平気だ。
 自分から嫌われることを望むようになる。
 それがいい。
   
 俺は学校に行かなかった。
 彼女の隣に嫌われ者の自分の居場所があるなんて思えない。
 彼女だけは、俺を人間扱いしてくれる。
 嫌われたくはなかった。 
 

       

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Neetsha