Neetel Inside 文芸新都
表紙

アサシーノス
嵐(コロシ)の去った後

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それから数時間後
ホベルトが居た部屋の状態は嵐に襲われたかのように乱雑としていた
床には薬莢、紙切れ、札束、麻薬袋、ガラスの破片が規則無く
大量に散らばり、足の踏み場すら見当たらない
裸足で歩こうものなら足がズタズタになり、破片が傷口に食い込んで取り出すのに苦労するだろう

加えて事切れた死体の数々
血に塗れた死体から臭う血臭が火薬臭と混じり合い、死臭を漂わせていた

足場を踏み分け、鑑識(Policia Cientifica)のロゴ入りチョッキを着た
警官たちが遺留品探しに躍起になっている中、外では遺体が並べられていた

「全く……こんなに殺しやがって」

くすんだ茶髪の白人男性警察官のジョアン・ナシメント警部は
うんざりした様子で遺体をを見渡しながらつぶやいた
彼は一つの遺体の近くにしゃがみこむと
遺体にかけられた布を取り、死人のホベルトの顔を睨んだ

「被害者はホベルト・サントス
 コマンド・ベルメーリョの幹部の一人です」

ナシメント警部の部下である黒髪の白人女性警察官の
ジョアンナ・マチアス警部補がメモ帳を片手につぶやいた

「コマンド・ベルメーリョねぇ」

コマンド・ベルメーリョ…リオで暮らす者ならば
誰もがその名を聞いたことがあるだろう
テルセイロ・コマンドーやアミーゴ・ドス・アミーゴスと
肩を並べる三大麻薬組織の一つだ

「ま、殺されて当然の野郎だ」

麻薬組織の幹部が殺されるなど警察官をやっていればよくある話だ
ましてや、彼らのようなクズの死に同情の余地は無い
ナシメント警部は布をホベルトの顔に叩きつけるように被せた
続いて、ナシメント警部とマチアス警部補が民間人の遺体が寝かされている場所まで歩いていく

「民間人です 一緒にドラッグパーティーに興じていたところを襲撃されたようですね」

現場入りする遺族が直ぐに身元を確認できるように、民間人の遺体の顔には布がかけられていなかった


ナシメント警部がポケットからタバコを取り出した
マチアス警部補はそれが彼なりの感情表現の一つであることを知っている

「…馬鹿な奴等だ……自分から危ない橋 渡るからこんな目に遭うんだろーが」

ナシメント警部の顔には怒りと失望に近いような悲しみが滲んでいた
麻薬に溺れ、人生を失った者達の末路を嫌というほど見せられてきた彼だからこそ、
今回のように麻薬に関するゴタゴタに巻き込まれて、命を失った被害者たちの死に顔を見るのは辛いのだろう


「おとうさんっ!」

「あっ……あなた!!」

「マリア!! そ……そんな!!」

「うわぁぁぁああああっ……!!嫌だっ!!兄貴ぃ……兄貴ぃぃぃいいいいいいいっ!!」

現場入りした遺族の反応は様々であった
父の亡骸を前に顔を真っ赤にして泣く子供や、恋人の泣き顔を前にショックで青ざめて力なく目から涙を流す若者や、
尊敬していた兄の死にただ泣き叫ぶ弟、亡骸になった息子の手にすがりついて涙する両親と
遠くから、その遺族たちの姿を眺めるナシメント警部の顔は、彼らの悲しみを癒せそうにない自分の無力さと、
彼らを悲しませる原因を作ったギャングたちとドラッグパーティーに興じ今は亡き人となった民間人たちに向けられていた

「まっとうに生きようとしてる連中まで悲しませやがって 馬鹿共が」

そういうと、ナシメント警部は地面にタバコを落とし、右足でガッと踏み付けると
グリグリとタバコの火を地面に押し付けた…
まるで、自分の怒りの炎を踏み堪え、抑えようとするかのように…

「……センパイ」

マチアス警部補はナシメント警部のそうやって怒りを溜め込もうとするところを心配していた
しかし、ナシメント警部の目には自分を心配してくれる彼女の顔など目に入ってはおらず、
まだ見ぬ犯人への怒睨(どげい)の感情に満ちていた

「絶対に犯人を挙げてやる」

タバコの火を消し終えたナシメント警部はそう言うと、パトカーへと歩を進めていった












       

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