Neetel Inside 文芸新都
表紙

アサシーノス
殺し(敵討ち)

見開き   最大化      

コパカバーナ
ここはリオ・デ・ジャネイロの中でも
一流の高級市街地として知られている
成功者達が暮らす高級住宅街や彼らが勤めるオフィス
そこからは曲線を描いた美しいコパカバーナビーチの
青い大海原を眺めることが出来る

昼間になれば、またいつものようにビーチは青く輝き、人で賑やかとなる…
そして、リオ・デ・ジャネイロの富を映し出すだろう
多くの弱者達を踏み台にして築き上げてきた富を

闇夜の中に海岸に沿って曲線に設置された街灯が
蛍たちのように白く輝き、砂浜を白く照らしていた
街灯に照らされた緑の木々が海水をほのかな抹茶色に染める

少女の足音に合わせてブーツが住宅街へと続くストリートのアスファルトを
コツコツと鳴らしていた 少女はゆっくりではあるが、着実に目的地まで
一歩一歩進んでいた…途中には売春婦たちが徘徊しており、
同業者だと思ったのかその内のアフロヘアーの黒人娼婦が声をかけてきた

「ちょっとアンタ! ここはアタシらのなわば」

黒人娼婦はその少女の眼光に凍りつき、言葉を失った
少女はそのまま一言も発する事無く、立ち去っていった

「ロザリタ!大丈夫か?」

「な……なんだ……あいつ?」

黒人娼婦の身を案じ、仲間の娼婦が彼女に声をかけた
暫く恐怖ですくんでいたせいか、黒人娼婦は返事をするのに
2~3秒かかったが、口から出てきた言葉はまさにその恐怖を
あらわすのに相応しいものであった

「関わらない方がいい!」

黒人娼婦が少女に抱いたのは
見た目こそ、娼婦の風貌ではあるものの中身は
まるで別世界の人間。
まるで何人もの人間を殺してきたような顔であることだった
仕事柄、そういう類の人間とも一夜を共にしたことがある
彼女だからこそ少女の顔の意味を瞬時に理解したのだった

少女が向かう先にあったのは一軒の夜のリオ・デ・ジャネイロの
夜空の下に白くジョゼ・ペレイラ邸である
地中海沿岸の石灰石の家屋のように白く輝くその邸宅は
およそ四方約30メートルほどの庭の奥にあり、
間にはおよそ四方10メートル、深さ1.6mほどのプールが存在していた
そのプールに当たった明かりが反射し、きらきらしたゆらいだ光が
邸宅を照らしている

ジョゼ・ペレイラはリオ州軍警察中尉である
警察退職者が多数在籍する警備会社とコネがあるのは
至極 当然のことであり、彼らを雇って24時間 邸宅周囲の警戒に当たらせていた

MP5、P-90サブマシンガンなど持っている銃は
殆どが軍警察の装備と何ら変わらないところから見ても、
その警備の厳重さが分かる

入浴を終え、襟元に黒いラインの入った白いメンズバスローブを羽織ったペレイラ中尉は映画鑑賞を楽しんでくつろいでいた
彼が見ていた映画はアーノルド・シュワルツェネッガーのアメリカ映画"バトルランナー"だった
彼は同映画のラストシーンで大爆笑した後、机の上に置かれた紅茶を飲み干した。
エンディングロールが流れたと同時にテレビの電源を切ると、
彼はクリスチアーノ警備隊長に異常が無いかどうかを確認する電話を入れ、安全を確認すると、そのまま二階の寝室へと上がっていった

寝室の扉を開けると彼は電気もつけず、寝室のベッドに直ぐに寝転がり、目を閉じた
有給はもう使い切ってしまったため、明日からもう休みは無い
明日からグロタ地区のギャング掃討作戦における指揮官のフェルナンデス中尉と交代せねばならず、
心身ともにキツイハードワークになりそうだ
だからこそ前夜にはアクション映画を見てスカッとストレスを解消し、一刻も早く眠りにつこうと考えていた

だが、どうも寝つきが悪い
ラストでシュワルツェネッガーが悪役の司会者を爆死させるシーンのあまりの爽快ぶりに胸が高鳴ってしまっている 

(やれやれ……やはり寝る前にアクション映画はまずかったか……)

己の映画の選択ミスを後悔しながらも、彼はどうすれば今の状況を抜け出せるか考えていた


(ホットミルクを飲んだら寝つきがいいって聞いたことがあるな 試してみるか)

一回の台所に向かおうと目蓋を開いた彼の目の前に飛び込んできた光景に
彼は戦慄した 目の前に突如 銃を突きつけた女がいたのだ

「うわ」

恐怖とショックのあまり、大声をあげようとしたペレイラの口を塞ぐかのように
少女の左手が振り下ろされた

「ぅご……!」

振り下ろされた掌で、顎を叩かれたせいかペレイラの脳が揺れる
彼は声をあげる間も無く、後頭部を枕に叩きつけられた
彼の視界は何かに押しつぶされたかのようにペシャンコになった
視覚的な表現をするのなら、テレビを叩いた時に画面にノイズや砂嵐が走ったりする時と似ている

「『どうやって入った?ここは武装した警備員で一杯なのに!?』って言いたいんでしょ?
 当たってる?」

視界を取り戻したペレイラが再び目を開けるとそこには不気味な笑みを浮かべた少女が
ガバメントの銃口を突きつけていた 月明かりでガバメントが金色に光り輝いたところから、
彼女の持っている銃が黄金であることが分かった

「ねぇ?当たってるよね?」

少女が喉元を抉るかのようにガバメントを突きつけてきた
笑みを浮かべ口調は優しい彼女ではあるが、質問に答えない自分に苛立っていることは嫌でも分かった
このままでは殺られることを瞬時に悟ったペレイラ中尉は口をふさがれたまま、何度も頷いた

「あいつらの死角を歩いてきたのよ」

質問に答えた後、彼女は嬉しそうに語りだした

「敵討ちに来たの ほら、覚えてるよね? あの教会の……」

ペレイラは彼女の問いを聞いた瞬間に青ざめた
それに対し、ペレイラは必死に弁解をしようと口を動かそうとするが、
少女はその口を鷲づかみにし、唇を抓り挙げるとそのまま彼の口に強く押し付けた…

「ごご……ぅ」

「言い訳とか聞きたくないからもう殺すね♪ おじさん」

「ごぅぅぅっ!!うぅぅううっ!!」

もうどうしようもない絶望的な状況だからこそ、ペレイラは必死にあがいた
しかし、少女はそんなペレイラの足掻きをまるで死にかけのゴキブリのそれを見つめるかのように
満面の笑みで見つめると、喉元に押し付けたガバメントの引き金を引いた

寝室から響いた2発の銃声に、クリスチアーノ警備隊長率いる警備員たちが
一斉に寝室へと走っていった

そこに残されたのは喉から血をポタポタと噴出して苦しみもがくペレイラ中尉の姿であった

「かぁ……ぁ……」

「少佐っ!!しっかりしてください!少佐ぁーーっ!!!」

そんな少佐と、クリスチアーノ警備隊長たちを嘲笑うかのように
開かれた寝室の窓の扉が、吹き込んだ風に揺らされカタカタと音を立てていた





       

表紙

バーボン 先生に励ましのお便りを送ろう!!

〒みんなの感想を読む

Tweet

Neetsha