Neetel Inside 文芸新都
表紙

アサシーノス
ボーイ・ミーツ・ガール

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今日も相変わらずコルコバードのキリスト像はリオの町を見下ろしていた
だが、不思議なことに彼が見守る筈のこの街に平和は訪れていない

無能な神に見守られた老い先暗いリオ・デ・ジャネイロの朝がまたやってきていた
イパネマビーチの海岸も相変わらず朝から沢山の人々で賑わっていた
青空に熱く照り付ける太陽が砂浜をキラキラと照らし、大海原をサファイアの輝きへと染める
青空に広がる巨大な雲はまるで積み上げられた雪のように、白く聳え立ち
海岸にふきつけるそよ風と共に地上の民を涼ませていた

これこそ、夏真っ只中のイパネマ海岸の風流と言うものだろう

数多くの自然に見守られながら、健康的な小麦色の肌をマイクロビキニで覆い隠した美女たちが海岸ではしゃいでいた
それと同時にナニを膨らましてテントを張った健全な男たちが海岸で美女たちを狩ろうと砂浜を一瞥していた
いい美女を見つけた男はそのまま彼女と共に海岸を去っていき、家かホテルへ直行だ
砂浜の砂をシャワーで落とした後はベッドに入り、R-18を存分に楽しんで
心も身体もリフレッシュというわけだ

下品で下卑たものだと一蹴されてしまえばそれまでだが、これほどまでに健康的な青春を過ごしている若者たちなど此処ぐらいでしか見かけることは出来ないだろう
むしろ、その下品さが逆に清清しく思えてくる

金髪の少年はそんな砂浜をそよ風に吹かれながら、寂しげに眺めていた
水着ではしゃぐ若者たちとは対照的に
アメリカンストリート風の黒いシャツに、ダメージジーンズを履いたその姿は当然
砂浜で泳ごうとしている者の格好として全然適切ではない

だが、あえてそんな格好をしているのは自分が殺し屋であるが故に、闇の世界で生きることしか許されず、
海辺で青春を謳歌している若者たちのいる光の世界をただ眺めることしか出来ない寂しさを
誰かに理解してもらいたい
そんな気持ちの表れだったのかもしれない

生まれた時からもうそんなものとは無縁の孤独な世界で生きてきた彼にとって、
そんな光の世界をいつまでも見つめているのは毒でしかなかった
彼は目線を大海原へと映し、その地平線の彼方を見つめた

だが、立ち尽くしたまま見つめるには地平線の彼方はあまりにも壮大すぎて
彼は身体を支えきれなくなってきた 彼は"砂浜"を一瞥してそこら辺のビニールシートを適当に見つけると
そこに力尽きた身体を休めるかのように座り込んだ

少年は、再び地平線の彼方を見つめた
吹き付ける微風で、身体の疲れを癒していく
ごく微量に砂浜の砂が混じり、潮の香りを含んだ微風のお陰で
心地よく涼めそうだ

だが、何故だろうか?
美しく壮大で心を癒してくれる筈の大海原も地平線の彼方も微風も何処か重く感じられるのだ
そのためか、癒されてながらも、また疲れを感じるというワケの分からぬ循環に
彼は成す術も無く、地平線の彼方を見つめていた

「おにぃ~さんっ!」

彼は重い頭をゆっくりと彼は女の声のした方向へと向けた
声の主は15歳ぐらいの年頃の金髪の白い肌の美少女であった  
着用するピンク色のビキニと、両手にアイスクリームを持ったその姿がどこかお茶目で可愛らしかった

「ん?」

「あのさぁ~……そこ、私の場所なんだけど……」

少女は太陽に照らされてまるで光に包まれているかのように眩しかった
少年は彼女のあまりの眩しさに また自分が闇の世界で生きる人間であること、
やはり自分はこんな場所には場違いな人間なのだと思い知らされ、打ちのめされた

「……そっか……ごめん」

打ちのめされた少年はそのまま重い身体をゆっくりと起こした
少年の何処か疲れたような顔を見て、少女は立ち上がろうとした少年の右手首と優しくふわりと掴んだ

「あ~……やっぱりいいわ ここでゆっくりしてなよ」

そういうと、彼女は少年をビニールシートへと座らせようと彼の手首を下へと優しくおろさせた
少年も正直言って立ち上がるのは厳しかったため、少女の申し出をすんなりと受け入れ
彼は再びシートの上にお尻をおろした

「あ、ありがとう」

少女はお礼を言う少年の目の前にアイスクリームを掲げた

「ほい」

「え?」

意外だったのか少年は目の前に掲げられたアイスクリームを
ただ見つめていた

「暑いでしょ?食べなよ」

「た……食べていいの?」

「いいよ ほれ」

再度 目の前でアイスを掲げられ、少年はアイスに手を伸ばし
先ほどの少女の優しさに応えるかのように優しくアイスを掴み、自分の下へと寄せた

「おいしぃ?」

「……うん、なかなか」

口の周りにアイスがつかないようにちょびちょびとアイスを舐める少年の顔を見つめながら、
少女はまた彼を呼んだ

「おにいさん」

「ん?」

「今日も泳がないの?」

「うん……風に当たってるだけだし」

「そっか……」

「"今日も"? どうしてそれを知ってるの?」

「えへへ♪ 実はおにいさんのこと前から見てたの
 おにいさん いっつもビニールシートに
 こうやって座って海眺めてるでしょ?」

「……すっかりお見通しだな」

自分を知ってくれている人間に出会えた嬉しさからか
少年は少し笑みをこぼした
それを見逃さないように少女はすかさず指摘した

「あ、笑ったね!おにいさん!」

「……あ、ホントだね」

「少しは元気出た?」

「まあね」

アイスクリームを食べきった少年の顔には
先ほどまでの悲しげな顔はなく、何処か緩んだ優しげな微笑みが浮かんでいた……

「ねえ、やっぱり一緒に泳がない?」

「……いや やめとくよ」

「え~……泳ごうよぉ~~ せっかく二人なんだから~」

少年の顔が青ざめ、笑みを失った

「……泳げないんだ」

「……カナヅチ?」

「……いや、昔 溺れて……その……ごめん」

申し訳なさそうに謝る少年の顔からせっかく手に入れた笑みが消えていく
そんな時、少女は少年の肩を優しく叩いた

「うん!やっぱり、泳ごう!」

「ええ?!」

「せっかく海に来たんだし 水に顔つけるぐらいは出来るでしょ?」

「え……いや……それはちょっと……」

あまりにも弱気な少年の姿を見て、
少年の服に手をかけると、服を無理矢理脱がしていく

「なっ 何をするんだよ!!」

「あ~~~~もう~~ 心配しすぎ!!
 そのトラウマ 私がぶっ潰してあげる!」

すっかり服を脱がされ、トランクス姿になった少年の姿がそこにはあった

「まっ……待ってくれ!!」

少年は少女に手を引っ張られながら、盛り上がった岩の上を駆け上り、先端へと走っていった

「やっ……やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「ほぉらっ!いっくぞぉー!」

青ざめる少年を他所に少女は大はしゃぎで
岩の先端へと走ると、少年と共に海へと飛び込んだ

「うわあああぁぁあああああああああ!!!」」

「やほぉぉおおおおおおおおおおっ!!!!」

少年は叫び声を遮られるかのように少女と共に海へと着水させられ、
そのまま水面の下へと潜って行った
















       

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