Neetel Inside 文芸新都
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Android‐アンドロイド‐
6話【守りたいもの】

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6話【守りたいもの】
 太陽光が容赦なく頭上からふりそそぎ、少々眩しさを感じる頃である。
 花見スポットを求めて嬉々と校内を歩き回る生徒が溢れる真昼であるのだが、そんな外の状況とは対照的に薄暗い第一体育館では戸宮凛子がたたずんでいた。
 彼女の手には携帯が握られている。
 彼女はつい先程送られてきた文章に再び目を通した。

『from:メガネ
 sub:がんばれー
 
 2011年4月14日。
 第一体育館にて人型のエネミーが現れるそうだ。でも例のごとく君が圧倒的に強いと思うけど油断大敵だよ。敵は徐々に強くなってるからね。敵の数は二桁と推測できるから連携攻撃には一応注意しておくんだよ。まあ仮に君が負傷しても僕が絶対に治して見せるから安心してくれても良い。病は気からという格言があるけどね、そうだね……まあ、精神的な作用も大きいから僕の愛があれば神からの試練も乗り越えられると思ってる。うんまあ、とにかく勝ってね。信じてるよ』

 凜子は最後まで読み終えると、携帯を静かに閉じ、胸ポケットにしまい込んだ。明かりも音も感じにくい空間。凜子は赤外線センサーを稼働させた。ついでに透視モードを作動させる。徐々に焦点を、体育館の中に合わせていく。
 物陰に身を潜める敵は15体。倒すべきアンドロイドは体内から電磁波を消して、身を潜めている。確かに気配は完全に消し去っているのだが、凜子には通用しない。気配だけでなく位置まで把握されているからだ。
 彼女は足音を消しながら、わざと気配を放ち体育館中央に歩み寄った。相手を誘導するのには体内から微弱な電磁波をだす必要性があるのだ。
 歩を進めるごとに敵の気配が強くなり始める。アンドロイドから放たれる微弱な電磁波が体育館に満ち始めると、凛子は右腕を戦闘モードに切り替えた。見た目にはとりたてて言える変化は無い。だが、人間の手のように脆く柔らかいものを握ると、いくら加減しても骨を砕いてしまうのだ。人間を豆腐のように扱うのが如何に難しいか理解できるならば、戦闘モードの危険性がわかるはずである。半狂戦士状態であると言ってもいい。
 彼女がちょうど体育館中央にたどり着くと、強くなりつつあった電磁波が爆発的連鎖的助長的に強くなりピークに達したところで、彼女は後ろにバックステップ、その彼女の残像を追うように空中が爆ぜた。音はない。凜子が重力を操作し、爆発した周辺を真空にしたからである。周りに一般の生徒がうろついているのだから静かにしなければ面倒なことになる。
 
 凜子はすぐさま15体のアンドロイドの位置情報を補足。最寄りのアンドロイドを特定する。腕の先端を、そのエネミーに向け電磁波砲を放つ。コンクリートの壁を通り抜け、跳び箱を通過し、アンドロイドの機能が麻痺。ロックオンがハズレ、腕がだらりと下がったのを確認した。
 ステージ裏から3体のアンドロイドが勢い良く飛び出してきた。凜子は視えていないものの、攻撃を回避。流れるような動作で回し蹴りを放ち2体同時に機能を停止させた。その際、2体は吹っ飛ばされそうになるのだが、重力によってからめとられ、静かに崩れ落ちた。
 残りの一体は演算によって勝てないと判断したのか、自爆装置を起動させた。そして凜子の背後から抱きつこうと飛び掛かるのである。だが凜子は背後に重力で壁をつくり、反発作用で吹き飛ばした。後ろに吹き飛ばされたアンドロイドは空中で音もなく爆発した。
 6体のアンドロイドが上方向から飛び込んできた。360度囲うような攻撃陣。徐々に狭まる6つの影が一つなった時にすでに凜子はそこにはいなかった。勢いにまかせて突っ込んできた6体はしばらく反動で動けなくなる。
 凛子はというと天井近くに浮遊していた。そのまま彼女は黒い塊に向かって落下。おそろしい威力で6体を吹き飛ばし一瞬にして機能を停止させた。吹き飛ばされた6体は重力にからめとられ蜘蛛の巣にかかった虫のように空中に固定されていた。まるで糸を切られたマリオネットである。力なく腕をだらりとぶら下げている。
 ゆっくりと音もなく床に下ろされた。

 15-(1+3+6)=5。
 
 残り5体。この5体だけは少々型が違うようで、単調ではない電磁波が放たれていることを確認していた。感情を含んだような電磁波。彼女がアンドロイドを破壊するたびに電磁波の起伏が激しくなるのだ。それは怖がる子供の感情をみているような感覚。
 彼女はただ立ち尽くした。いっこうに出てくる気配が無いからである。思わず問い掛ける。
「なぜ、出てこないのかしら」
 その問い掛けは静かに響き、吸収されていく。
「…………」
 ただただ無音。遠くから和気あいあいとした声が微かに聞こえてくるぐらいだ。
 凛子は既にアンドロイドたちの位置は把握している。いますぐにでも電磁波砲を放ち機能停止させることも難しくはない。だが凛子は戦闘に喜びを感じるような戦闘狂の感覚は持ち合わせていなかったので、どうにでもなれと思う。逃げるなら見逃すし、向かってくるなら破壊する。
 すると1体のアンドロイドが気配を強くした。大きなアクションの前触れ。この後に必ず攻撃がくる。
 正面からものすごい勢いでアンドロイドが飛んできていた。脚を突き出し、凛子を貫こうという勢いである。
 凛子は静かに右手を突き出した。何気ない動作。空中のほこりをつかむかのような動作で差し出された右手には、すでにアンドロイドの脚がつかまれていた。そのまま凛子は右足を握りつぶした。脚をつぶされたアンドロイドは床に向かって落下するのだが、床に落ちる直前に凛子が顔を握り、そのまま潰した。
 美しいまでに圧倒的実力を見せた凛子は、神経を残りのアンドロイドに向ける。すると既に三体は消えていた。しかし、一体は動けないのか残留していた。
「あなたはどうするの?」
 静かに問いかける。
「…………」
 答えはない。
「逃げない理由でもあるの?」
「あります」
 入り口付近から弱々しい少女の声が聞こえてくる。それは衝撃的なぐらいに凛子の記憶を揺さぶり、動揺をさそうには十分であった。
「え?」
「あなたを倒さないと大切な人が殺されるから。あなたにダメージを与えないと皆が殺されるから」
 それは夏川怜奈の声あった。一瞬、谷川が修理を終わらせたのかと思ったが、これまでの経験上から判断するに、大事な事は必ずメールで送られてくるはずだ。それに記憶操作のミスをするわけがないではないか。彼女が牙を向く動機となる記憶が消されていない。凛子はすぐさま別の可能性を模索するが、おもいあたらず混乱した。
 凜子の頭上でうずまく疑問符は晴れる事なく加速していく。
「あなたが何故ここにいるの?」
「なんでって……あなたを殺すためです」
「一つ進言しておく。あなたに私は倒せない」
「……」
「あなたには無理」
「いやだ。絶対嫌なんです。私の世界を壊されたくないんです。殺されてしまうなんて絶対に嫌だ」
「ごめんなさい。無理だと思う。あなたも感じたでしょ絶対的な実力差ってやつ」
 凜子は諭すような口調で、背後の怜奈に話し掛けた。できれば戦闘は避けたい。昨日の怜奈の涙が思い出され、そう願う。 
「凜ちゃんには死んでも守りたい何かっていうのがありますか?」
「死んでも守りたい何か?」
「壊れても守りたいものと言い変えた方が良いかもしれないけど、自分の一部のような存在とか」
 凜子は一考する。
 -私と親しくしている人物といえば眼鏡の変人ぐらいだ。だけど機能の継続と谷川を天秤に掛けたら優先するのはどちらか? 私にとって何が大事?
「わからない」
 凜子は最終的にそう結論づけた。
「じゃあ、あなたには分からないはずです。私の気持ちを理解できるはずがない」
「…………」
「正攻法で戦おうなんて思いません。私は卑怯な手を使っても守ります」
 そう宣言すると、彼女は腕を振り上げ、手に収まっていたバスケットボールを放り投げた。そのバスケットボールは当然のように凜子に受け止められるのだが、直後膨張を始め、空中で爆ぜた。
 音は無い。凜子は瞬時にバックステップして回避したのだが、二次攻撃を警戒して防御体制に入ったために、怜奈の気配から意識が離れてしまう。
 気がつけば怜奈の気配ははるか遠くへ。驚くほどのスピードで駆けている。
 そして、凜子は怜奈の行方を予測して、いちばん恐れていたケースになりつつあるのを察した。怜奈が向かう先には桜の近くをうろつく生徒群がいるのである。
 凜子は全力で駆け出した。

 ○

 桜がひらひらと舞う、風情な中庭にて。
「おい大葉君よ。あんまり落ち込むな」
「でも心配なんだよね。まあ、怜奈ちゃんが着信拒否したのなら生きてるのかもしれないけどさ。さっきメール送ってみたし」
「おお、それは積極的だな大葉君よ。ラブラブフラグ到来したんじゃないか。女の子は弱ってる時に優しくされると惚れるからな。お前さんが計算でメール送ったなら末恐ろしい男だぜ。まあ、お前らが校内一番のラブラブカップルになったら焼きそばパンを奢ってやろう」
「それ以前に貸してるお金を返してよ。600円って大金だからね。それに恋とかじゃないからね…………たぶん」
「たぶんだろ?」
「そう。ただちょっと気になるというか、でも告白とか考えられないし……」
「俺は怜奈は脈ありだと思うぜ。俺は女の子の心理が読めるんだ。手に取ったようにな。テレビに出演してる占い師より当たるって評判だぜ」
「信用できない」
「じゃあ、予言してやろう。怜奈は寂しさのあまりにお前にメールを寄越すと思う。そうだな、時間は三時間以内にしておこうか。内容はたぶん『寂しい。また話したいな。実は好きなんです』みたいな告白メールだな。良かったな。おめでとう。ああ、青春良いなー。リア充爆発しろ。飛び散ればいいのに」
「言いすぎ楽雄。しかも、周りをよくみると結構な確立でカップルいるからね」
「ああ宣戦布告と行こうじゃないか。俺は柔道三段、ボクシング五段だぜ」
「ボクシングに段が上がっていく制度ないよ」
「俺流ボクシングだよ」
「周り見て、訝しい目で見られてるからね」
「どれどれ……ん? なんだあの子?」
「どうしたの?」
「いや、覆面かぶった女の子がこっちに向かってきてるんだが、しかもすごい勢いで」
「ん、あの子は?」
「智樹。これはピンチな気がするんだが。あいつ手になんか持ってるぞ」
「……」
「おい、ここから移動するぞ」
「ごめん楽雄。足がすくんで動けない」
 そして、気が付けば智樹の首には刃物が突きつけられていた。もちろん楽雄は阻止しようとするフリをした。素人以下の動きで加えられた攻撃は、アンドロイドの前ではとうぜん無力。怜奈はすべての攻撃を無効化し智樹の背後をとったのである。
「あんたは誰だ?」
 楽雄が冷静に尋ねる。

「動かないで」
 静かな声で呟かれる。 
 気が付けば桜を中心に人垣が円となり三人を囲んでいた。

 ○

 凛子は不自然に広がる人垣をみつけ、事態をのみこんだ。
 知能指数の高いアンドロイドが一般人をまきこんだのである。初めての事態に凛子は不安を覚えながら。人垣のなかに紛れ込む。
 ―面倒なことになった。
 円の中心では三人の人間がいる。しかも、意図的なのか人質は大葉智樹である。智樹は分かりやすく恐怖を滲(にじ)ませながらナイフの切っ先を見つめている。
「お前誰だ? 普通の輩じゃねーよな」
 冷静な声で青年が問いかける。
「動かないで」
 静かに覆面の女が応える。
「目的は何だ?」
「……」
「へえ、だんまりを決め込むとは困っちゃうな。俺はどのように対応すれば良いんですかね?」
「……」
「なるほど、俺は邪魔者ですか。ここにいて欲しくないと。でも俺は引けない。友人が危険な目に合ってるからな」
「……」
「智樹の代わりに俺を人質にとれ。それで良いんじゃないか?」
 そこには正真正銘のヒーローがいる。友人思いのお調子者が自分を犠牲にしようとしている。
 人垣にいる傍観者は例外なく騙され、そこに身勝手なドラマをつくりあげる。人物関係しかり、彼の過去しかり。
 凛子だって例外ではなかった。仮に、彼のデーターを見ながら、そのセリフを聞いていたならば、あまりの安定した精神状態に疑いを持っただろう。だが、そこまで気を回していなかったのである。
「あなたじゃだめ」
 つぶやくように答える。
「…………そうかい」
 楽雄はそうつぶやくと、ふとしゃがんだ。まるで上履きを履き直そうとするような何気ない動作。
 怜奈は瞬時に警戒する。意図が読めなかったから。
 次の瞬間、砂が巻き上げられた。怜奈の眼球に飛び込んでくる。だが、ガラスに覆われたカメラにダメージも痛覚も与えず、視界も瞬時に回復。
 迫り来る蹴りを片手で受け止め、はねとばした。
 一メートルほど先に転がる楽雄。人垣の視線は彼に集中する。
「うそだろ?」
 華奢な女性の細い腕に弾き飛ばされたのだ。この感想に裏はない。楽雄はほんとうに信じられない気持ちで満たされ、ほおけた顔になっていた。
 その隙を見て怜奈は智樹の手を優しく握り、駆け出した。智樹は抵抗することなくその導きに従いはじめた。
 凛子を背後に従えて、二人は敷地を後にするのである。

       

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Neetsha