新都社作家の後ろで爆発が起こった企画
爆発/ポンズ
爆発
突然、背中に何かが触れた。
僕が振り向こうとすると、小さな声が聞こえた。
「こっち見ちゃ、だめ……」
彼女の小さな声が聞こえた。僕の背中で彼女は泣いていた。
弱々しく細い声――でも、激しく爆発するような悲しみがそこにあった。
僕が立ち止まると、彼女は細い腕で強く僕を押した。
「行って、お願い」
「……」
「今日は、泣かないって、決めたんだもん」
「……泣いてるじゃん」
「見られなきゃセーフだよ」
「聞こえてるのでアウトだと思うんだけど」
しゃくる声に笑い声が挟まる。普段涙とは縁遠い彼女が泣いている。それだけで僕は悲しくて仕方が無かった。
「すぐ、帰って来るよ」
「……死なないで」
「お前がいるのに死ねるわけ無いだろ」
「……お願い」
「大丈夫。生きて帰って来るから」
「……」
次々と死亡フラグを立てる僕を、彼女はまた黙って前に押し出した。僕は少しよろけながら汽車の中へ入った。カビ臭い空気が鼻の奥にはいってきてつんとする。背中から彼女の体温が消え、彼女が僕の背中から離れたことが分かった。
本当は、彼女も僕もよく分かっていた。僕が送り出される場所がどんな場所で、そこへ行くと言うことは何を意味するのかも。それでも希望の言葉を口にするしかなかった。結末が分かっていても、それでも僕は目の前で彼女を傷つけることが出来るほど強くはなかった。
行きたくなかった。
生きたかった。
彼女の側で、生きたかった。
――でも、僕は足を前に進めた。
「いってきます」
僕がゆっくりと振り返ると、彼女は笑っていた。
涙にぐしゃぐしゃになった顔で、鼻水をたらしながら。
それでも、笑っていた。
「いってらっしゃい」
彼女は笑っていた。
爆発するように、美しく。