ラノベ習作
その8
宙木雲雀はボトラーではないし霞を食って生きる仙人でもない。
だからコンビニへいくことだってたまにある。
そこが狙い目だ。
玄関前で三人仲良く張り込みをして、宙木家の引き戸が開いた時、ばっと天堂帝梨が白衣をはためかせて飛び出した。
「おうおうおう!」
宙木の顔が寝る直前に壁を這うゴキブリを見つけたような表情になった。
そんなことはお構いなしに天堂帝梨はまくし立てる。
「兄ちゃんよお、あたい金がなくて困ってるんだけどよぉ」
「俺も」
そのまま通り過ぎようとする宙木を天堂帝梨が頭突きで止めた。
「ぐっ!!」
「あんこら。なめんじゃねーぞこら。やんのかこら。財布出せこら。こらぁおらぁ」
「あ、あんたな……」
詰め寄ろうとする宙木を隠れていた晩が羽交い絞めにした。
「なっ……」
「姉貴ィ、このダボいてこましてやってくだせぇ」
おう任せとけ、としゅんしゅんシャドーを始める天堂帝梨。宙木がげんなりした様子でうしろへ首を向けた。
「おいあんた。名前なんだっけ」
「……。千代崎」
「あんた」
聞いたくせに宙木はそう呼ばなかった。
「空しくないか?」
「べつに。これでもおまえを社会復帰さしてやろうと思ってんでね」
「…………」
予想していた返事と違っていたのか宙木は黙り込んだ。
そして油断していたのがよくなかった。天堂帝梨の闇雲なシャドーがうっかり腹部に突き刺さり宙木は苦悶に呻いた。
「がっふぁ! こ、この野郎マジで……!」
ふいに。
背後から羽交い絞めにされていた力が失せた。宙木が振り返ると晩が足元に伸びていた。
「だ、だいじょうぶか」
特攻服にオレンジ色の髪留めが結ったポンポン。
渦見美鳥先輩である。
釘バットをホームラン予告のように天堂帝梨へ突きつける。
「おいてめーこのやろーよわいものいじめはやめろー」
演技指導をボコ殴りにしたくなる棒読みである。
天堂帝梨は興が乗ってきたのかあくどい笑顔を頭三個分したから頭上へ振りまいてまたあんこらあんこら言い出した。しばらく棒読みとヘビロテの応酬があった。すっかり宙木は自由の身になっていたがこのまま放置してコンビニへ雑誌を買いにいったところで戻ってきてもこの光景が続いていそうでそれはそれで怖い。
「そろそろ一発やれ、ガツンとやれ」
天堂帝梨が囁くと美鳥の目がぎらりと光った。釘バットを振りかぶり、
「ふぇ?」
右側頭部から腰の入ったいいスイングが天堂帝梨の頭を千切れんばかりに打ち据えたのにはさすがに宙木も度肝を抜かれた。
天堂帝梨は吹っ飛んで塀に大の字に激突し、そのままずるずると崩れ落ちた。小さな子どもや良識ある主婦の皆様がお茶の間にいる間は絶対に放送してはいけない衝撃映像だった。
「お、おい、これやばいんじゃ……」
「宙木雲雀くん」
ぶっこみのJKが言った。
「怪我はないか」
「俺はないけど……」
「…………」
特攻服はしばらく黙っていたが、やがて意を決したようにまっすぐ宙木を見つめて言った。
「か」
「……か?」
「かわいい顔、してやがる……」
「…………」
「…………」
「かわいい顔してんのはどっちだよ」
宙木さらっと言った。
美鳥のスイッチが吹っ飛んだ。
特攻服の左アッパーが引きこもりを宙へふっ飛ばし、地面に伸びながらそれを見上げる晩は思った。
これで恋に落ちたら頭がおかしい。
(解説)
特攻服美少女っていいですよね。
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