「童貞のマゾ豚君はこうされるのが好きなんだよねー」
今日も今日とて僕は踏まれていた。
「ほらー何とか言ってみなよー」
ぐいぐいと上履きのままで僕の頭を地面にめり込ませようとする糞女<クソアマ>。
凛とした声、眼鏡、ポニーテール、規則通りの制服。清々するくらいの分かりやすい記号化されたステータスで優等生を武装したこの上履きの主は、我らが風紀委員長だ。
誰もが尊敬してやまないクラスの人気者。話しかければ気さくに返し、成績もすばらしくいい。眉目秀麗、才色兼備。男女わけ隔てなく人気が高く、好意を通り越し崇拝の域に達している生徒は少なくない。
だがその実、とんでもない糞女だ。
「何とか言えっつってんだよ!」
「ぐっ」
実は格闘技有段者であるらしい糞女の鋭い蹴りが、ちょうど犬のように四つんばいになっていた僕のやわいボディに突き刺さる。
途端、胃の中で慌しく朝食と昼食がシェイクされる。こんな事なら昼食を抜くべきだった。
「あん? 何だぁ? その反抗的な目は」
やめてくれと目で慈悲を乞うたのだが、何を履き違えたかおおよそ優等生とはかけ離れた巻き舌で激しく僕を威嚇しながら、糞女は頭を踏みつける足に力をこめる。
美しく整った眉間には深いしわが刻まれ、頬は少しばかり上気していた。完全に出来上がってしまっている。
どうしてこうなったのか。
始まりは偶然、僕が糞女の喫煙シーンを目撃しまった事だった。
僕は、やっぱり完璧な人間などいないんだな。とむしろ喫煙中の姿を見て好感を持ったのだが、相手さんはそうでは無かったようで、僕の事を即排除にかかった。
しかし、自分がどんな事をしてもチクらないと知るやいなや、それをいいことに調子付いて日々のストレスを僕で発散するようになった。
これではいけないと気がついたときにはもう遅かった。
なにせ、何とか告発しようとしても喫煙の証拠はなく、発言の信憑性だってこいつが目を潤ませてそんな事をしていないといえば間違いなく僕はハジかれる。それどころか、呼び出しに応じなければもっとひどい目に合わされる。
まとめると、僕は完璧にカモにされていた。
「ご、ごめんなさい」
「ごめんですんだら警察はいらねぇんだよ!」
また鋭い蹴りが腹部に刺さる。わざとつま先を立て、人体の急所を狙う。それも服に隠れて見えにくい場所ばかりというあたり、この糞女は外道だ。おかげで僕は脱いだらちょっとすごい事になっている。
無言のまま僕を蹴るこの糞女は、僕をサンドバックか何かと勘違いしているのではないだろうか。いや、もしかしたら僕はサンドバックで、自分を人間だと勘違いしているだけかもしれない。
いっそ、その方が楽かもしれないなと今日の分が終わるのをじっと耐える。
「ふぅ」
やはり頬を上気させ、肩で息をする糞女を床からただぼんやりと見上げる。その表情は実に加虐的でゾクゾクする。背筋が凍るようだ。
しかし、今日の分はこれで終わったみたいで、糞女は満足そうに額ににじんだ汗を拭い、懐からタバコを取り出す。
やった。今日も生き残れた。
実は、日々エスカレートしていく糞女の行為に最近では死の恐怖を感じている。
「さっさとうせろよゴミ」
終わったらすぐに消える。
それが僕らのルールだ。なのにその日は少し違った。
少々ばかりハッスルしすぎた糞女のおかげで立つ事もできないくらい衰弱していたのだ。
「失せろって言ってんだよ!」
糞女は僕がいなくならないのにイラついたのか、ライターにかけた手を引っ込めてまた鋭いけりを放つ。
鈍い痛みが体を震わせ、意識を手放しそうになったのだが、限界を超えた痛みが僕の中にあった何かを壊してしまった。
ぱきん。
頭の奥でおかしな音が鳴ったと思うと、極彩色の世界は一変、写りの悪いモノクロトーンへと退化した。まるで、何かがあふれ出たかのように脳がドクドクと五月蝿いくらいに激しく、そして大きく脈打つ。
立てないはずの地面にうまれたて子鹿みたいに震える足で立つ。
ノルアドレナリン、エンドルフィン、ドーパミン。脳内麻薬って奴だ。
少し驚いたような糞女の顔を見ていると、蹴られていたときとは別のゾクゾクとした妙な感じが背筋を蛇のように這い回る。
「五十嵐ぃ<いがらし>」
壊したい。そう思ったのはなぜだったか、気がつけばその日初めて糞女の名前を口にしていた。煙草をくわえたままこっちの事を舐めきった態度で笑う五十嵐の顔が、振りぬいた俺の拳で醜くゆがむ。
それと同時に小気味のいい高い粉砕音が耳に残り、拳には鈍い痛みだけが残った。
どさりと音がするほうを見れば口の中を切ったのか口角からは赤い血が垂れ流す五十嵐が地面に横たわっていた。なぜか奇跡的に眼鏡だけは無傷だった。
そう、眼鏡は外れていなかった。
「い、五十嵐さん?」
あわてて拳と五十嵐を交互に見る。頭に血が上ったとはいえ、やってしまった。
途端に色々な考えが交錯したが、結論はどれも同じ逃避だった。
「て、てめぇ……何しやがる」
つい先ほどまで伸されていたはずなのに五十嵐はプルプルと震える体で起き上がろうとしていた。やはりろくすっぽ運動もしない僕の拳では威力が足りなかったのだろう。
鬼のような形相で立ち上がろうとする五十嵐の目には、闘志というより殺気をはらんだ怒気が写りこみ、僕は背筋に氷の柱でも突き刺されたみたいに一瞬固まる。
「ごはっ」
空気を吐き出すような鈍い音。そうだ。次の瞬間に僕は蹴っていた。本能がそうさせたのだろう。
「て、てめぇ」
五十嵐が何かを言っていたが、蹴った。蹴ったにもかかわらず五十嵐の目は死んでいなかった。むしろ憎悪の色が濃くなっていく。だからもう一度蹴った。何度も蹴った。気がつけば蹴るのに夢中になっていた。
もはや、五十嵐を黙らすために蹴ったのか、蹴っていたら五十嵐が黙ったのか、分からなくなるくらいまで蹴り倒すと、すっかり土ぼこりまみれになった五十嵐はビクビクと痙攣しながら白目をむいていた。
「ど、どうしよ」
恐怖に震える手で脈を取れば、幸い死んでいないようなので少し安心するが、このまま目を覚まされるとどんな報復手段に出られるか分からない。
もしかしたら、殺されるかもしれない。
じゃあ、やられる前に殺すか?
「ひっ」
自分でも驚くくらいの短絡的思考に声が漏れた。
そういえば今までのどんな全力での運動ですら感じた事がないくらいに心臓が高鳴っているし、いつも以上の高揚感に包まれている事は確かだ。
しかし、しかしだ、殺してしまえだなんて僕はなんて恐ろしい事を考えたんだとわが身を抱いて身震いをする。
だが、殺さないとしてもこのまま置いておく訳にも行かない。なので、取りあえずは運ぶ事にする。なにせ、手当てするにも何かするにも今のままでは場所が悪すぎる。
幸い、自宅はすぐ近くだし僕は一人暮らしだ。考えるのは運んでからでも遅くないはずだ。
善は急げ。というやつだとぼろ雑巾のようになった五十嵐を担ぎ、僕は自宅へと戻った。
「はぁはぁ……」
結論から言うと五十嵐はそこそこ重かった。
それに、五十嵐はとんでもない糞女だったが、困った事に悔しい位の女の子で、甘いシャンプーの香りがしたし、忘れられないくらい柔らかかった。その他諸々の女の子要素が僕の男の子要素を刺激して軽い生き地獄を味わった。しかし、こういうのを役得というのだろうかとぼんやりと考えたが、それで無視できるほど人を担いで歩くのは甘くなかった。もうひざがガクガクと笑っていた。
肩で息をしながらなんとか家につけたことに安堵する。ついでに誰にも見られなかったことにほっと胸をなでおろす。
まぁ、肝心の五十嵐はリビングにでも転がしておこう。
よいしょとおろした拍子に床にぶつかり、小さくうめく五十嵐を眺めながら、自分が後戻りできない状況にあると把握してしまう。あそこで謝っておけば体を少しだけ折りたたまれたくらいだったはずなのに、これは色々と言い逃れができない。
考えたとたんに震えがきた。暴行だけにとどまらず、拉致監禁まで犯しているのだ。何とかしなくてはいけない。
とりあえず逃げられないように戸締りをきちんとする。そして僕は急いで押入れをあさり、エロ本のおまけについてきた手錠を五十嵐の両手に嵌める。もちろん動きにくいよう後ろ手にだ。こんなところで役に立つなら恥ずかしがらずにもっと色々買っておくべきだった。
乱暴に放り投げたせいか眼鏡がフローリングに転がっていたので、僕は慌てて眼鏡をかけさせた。
拘束したはいいものの、これからどうしようかとせわしなくリビングを歩き回る事数分、ぐにゃりと伸びたままの五十嵐の頬を軽く叩いたり、小声で悪口を言ってみたりしたが、一向に目覚める気配はなかった。息をしているので死んだという事はないのだろうが、ここまで来ると心配になってくる。
意を決し、肩を揺らして意識の覚醒を促す。
「い、五十嵐さん? あの、五十嵐様?」
「ん……あ……」
揺さぶる事数分、やっと五十嵐は意識を取り戻したようで僕は慌てて距離をとった。
「っててて……」
苦悶の表情を浮かべる五十嵐に僕の胸は大きく脈打った。
「って何だこれは?!」
手錠に気がついたらしく、ガチャガチャと大きな音を立てながら上体を起こし、血走った目で辺りを見回す五十嵐。日本人形のようにきれいに整えられた髪は乱れ、陶器のようだった肌も傷だらけだ。そこに優等生の面影は微塵も感じられない。
「てめぇか」
低く唸るような声に、僕は蛇に睨まれたかのようにその場で動けなくなってしまう。
「どういうことだぁ? おい!」
殺意の死神が鎌首をもたげて僕の首を狙っていた。
「何とか言――」
五十嵐が言い切る前に全力でその頭を蹴飛ばしていた。それも顔面を前蹴りでだ。
言葉もなくその場にべチャリと崩れる五十嵐。おかしな音がしたがとりあえず黙らせる事ができたのでふうと息をつく。
芋虫のように蠢きながら呻く五十嵐を見下ろしながら、俺はこれまでに無いほど興奮していた。そうだ、楽しさを感じていた。
いつも自分をサンドバックのように扱い、見下し、つばを吐きかけてきたこの糞女をここまでにしてやった。そう思うと愉快で仕方がなかったのだ。
そしてそれ以上に、苦しそうな五十嵐の顔を見ているとどうしてもその先を見たくなってしまう。
「て、てめぇ」
また何かを喋ろうとしたので蹴った。ものすごい音がした。
始めは小さな種だった。
「調子に――」
次には芽が出た。
「このっやめ――」
やがて芽は伸び立派な茎に。
「ちょ、こ、これ以上は洒落に――」
蕾になり。
「ゆ、許し――」
大輪を咲かせる。
「ごほっごほっ」
また口の中が切れたのか、それとも鼻血なのか、五十嵐の口元は真っ赤に染まっていた。にもかかわらず眼鏡は外れていなかった。絵画のように美しく整っていた顔はもはや傷だらけで見るも無残。非常に醜い。見ていられない。だがしかし、それをとても美しく、そして愛おしく感じてしまうのはなぜか。稲妻のように心を打つこのときめきはなんなのだろうか。
もっと、もっと先を。
「な、なぁ。わ、私が悪かった。な? もうしないよ」
息も絶え絶えといった感じに潤んだ瞳で謝罪する五十嵐を見て、鼓動は16ビートを刻マン勢いで跳ね、手に滲む<にじむ>ねっとりとした汗は体温がいつもより高いことを教えてくれる。
「黙れよ」
だというのに出た言葉は恐ろしく冷たく、氷でも吐き出したのではないかと思った。
「わ、私が悪かった。悪かったから」
「黙れって言ってんだよ!!」
頭を下げていた五十嵐の頭を踏みつけ、フローリングを揺らす。
「俺が黙れって言ってんだから黙れよ屑が!」
「わ、悪かった」
「黙れって言ってるだろ!」
ぐりぐりとねじる様にして美しかった黒髪を蹂躙する。あぁ、なんてすばらしい光景なんだんだろうか。
「ったく、これだから屑は」
それからも一言二言しゃべろうとするたび、思い切りフローリングにキスさせた。
「とりあえずお前さ、正座しろよ」
寝転んだままの体勢だったので話がしやすいように座らせる。五十嵐は怒りなのか恐怖なのかどっちか分からない感じで肩を震わせていた。が、そんな事は俺に関係ない。今は座らせる事が重要なのだ。
「いい格好だな」
髪は乱れ放題。制服もところどころ破けてしまっている。いつも俺を見下していた糞女が今では、俺に頭をたれて子犬のようにプルプルと震えていやがる。実に傑作。実に愉快。当然、沸いて出た笑いを堪えきれず、声を大にして笑い声を上げる。
「ざけやがって」
「あん?」
小さな呟きだった。
が、聞き逃さなかった。
「ぁんだって?」
後頭部の毛をがっつりとつかみ、地面と向き合い続けていた目線を自分に合わせてやる。やはり髪質は極上のようで、しっかり持っていないとさらさらと指の間から滑りぬけて。
「ぐっ」
力を入れたからか五十嵐の表情が苦痛でゆがむ。
それに合わせて心が躍る。
「てめぇはまだ自分の立場が分かっていないのかぁ?」
いつもならそらす目をじっと見つめてそういってやった。するとどうだろう。目を背けたのは五十嵐のほうだった。
「ご、ごめんなさい」
「あんだって?」
「すいませんでした!!」
「おいおい聞いたか? あの五十嵐様がゴミ屑の俺にすいませんでしただとよ! 録音でもしときゃよかったかこりゃ!」
げらげらと腹を抱えて笑う俺に、下唇を力いっぱいかみ締めたまま五十嵐は震えていた。
「な、なぁ」
「あん?」
「いままで悪かった。土下座でも何でもするよ」
「へぇ」
「だから水に流してくれよ。な? このことは誰にも言わないし、心の中にだけしまっておくからさ」
「うーん」
腕を組み、少し考える振りをしてみる。
だってそうだろう。
「なぁ五十嵐」
「な、なんだ?」
「い、今やめれば本当に許してくれるのか?」
「あ、ああ。もちろんだ。許してやる! もうお前に手を出したりもしない」
「そっか! そっかー……」
五十嵐は俺が提案を受けたようにとったのか心底ほっとしたような表情を浮かべている。正直、ぞくぞくする。今からこの表情を絶望色に塗りつぶしてやれると思うと自然と息子もいきり立つ。
「なぁ五十嵐」
「なんだ?」
「なんでお前はまだ上から目線で俺に許してやるとか思っちゃってんのかな。っと!」
腹を蹴ってやった。とたんに無様な芋虫に成り代わる。
「だめだめだめだめだめだーめ。ぜんぜんなってない。分かってない分かってない。ぜーんぜん分かってない。俺は今、その気になればお前をぽっきりやっちゃう事もできる。お前はぽっきりされても抵抗できない。この状況でどうしてまだ強者のつもりでいられるんだ。今お前はゴミ、屑、カス。むしろそれ以下の存在で、俺のお情けで生かしていただいているってのをよぉく噛締めて理解してくんなきゃ困るわけよ。大体何? 水に流してやる。だぁ? それはこっちの台詞なんだよ。てめぇのおかげでプッツンしちゃったわけですし? 許すのはこっちの方だっていうのを? まだまだ理解されていないようで?」
痛みに悶絶する芋虫に、早口で一気にまくし立てた。
「ほら、さっさと正座しろよ」
髪をつかみ、無理やり座らせるも苦しそうにフローリングに頭をこすり付ける五十嵐。と、その情景を見ていいことを思いついた。
突き出された尻。反省しない悪い子。と、なれば答えはひとつしかない。
「はーい。五十嵐さん。貴方は悪い子なので罰を与えなければいけないようですねー」
言いながらスカート越しに五十嵐の尻をなでる。とたんに五十嵐は状態を起こそうとするが無論空いた手で押さえつける。
「ほーら。悪い子はなんていうのかなー」
ペロンとスカートをめくってやると、黒のタイツが顔を出す。もっと言えばその奥には真っ白は下着が見て取れる。あぁ、これが男子が望んでやまない幻想卿という奴なんだなとしみじみ考えながら、滑らかなナイロン地の肌触りから手を離す。
ペチン
「ひっ!」
小気味のいい音が部屋に響いた。
「さーて、なんていえばいいのかなー」
パチン
「いたっ」
次はもっと強く。
「ふ、ふざけるな――ひッ!」
バチン
「す、すまなかった」
ベチン
「ひゃぅ」
もっと、もっと強く。
「す、すまなかった!」
バチン
もっと、もっと、もっと。
「ごめんなさいだろうが!!!」
バチン
もはやフルスイングに近い勢いで弾力性のある柔らかな五十嵐の尻を叩く。
「ご、ごめんなさい」
バチン
「もっと大きな声で!」
「ごめんなさい!」
「もっと!」
バチン
「ごめんなさい!」
叩くのに慣れると今度は手首のスナップを使い始める。
それに慣れると勢いをつけて派手な音を立て始める。
それに飽きると今度はわざと芯をはずして擦らせてみる。
それでもやっぱり最後は力いっぱい叩く。
「はぁはぁはぁ……」
どれくらい時間がたったのか、五十嵐は蚊の鳴くような声でごめんなさいごめんなさいと繰り返していた。しかも、小さな子供のように泣きじゃくりながらだ。
叩き続けたせいかタイツは無残にも破け、下着からはみ出た肌は浅黒く変色してしまっていた。ふと自分の手を見ると真っ赤にはれており、感覚もない。
ためしに、空いた手で腫れ上がった五十嵐の尻を軽くなでてやる。
「ひゃうん」
それだけで五十嵐は大きく震え、おびえた表情でこちらを見る。
「おらっ! くらえっ!」
そう言って大きく手を振りかぶると、ついにはちょろちょろと音を立ててお漏らしまで始める始末だ。
「こりゃぁいいや! 優等生の五十嵐さんはトイレもきちんとできない駄犬だったなんてな」
今まで死人のように土気色だった顔が熟れた林檎のように羞恥で染まる。
その風景があまりにもおかしかったので何度かなでたり軽くはたいたりして見たが、何も言わずぐっと唇を噛んだまま、震えるだけだった。
「なぁ五十嵐」
髪をつかんで表を向かせる。涙と何かでぐしゃぐしゃにりながらも、その瞳に闘志を燃やす姿は、実にそそる。
「地獄に落ちろ!」
べちゃりと頬に血液交じりの唾を吐きかけられたが、そんな所もたまらなくキュートだ。
「あのさぁ、本当に、立場。分かってる? 俺がその気になれば殺せちゃうんだよ?」
「いいよ! さっさと殺せよ糞が!」
「へーさっきまで従順だったのに、そんなにお漏らししたのが恥ずかしかったの?」
「う、うるさい! さっさと殺せ!」
どうやら図星らしく、目に涙をためて震えている。
「ま、いっか。もうつまんなくなったし。そろそろやっちゃおう」
その言葉に、五十嵐がゴクリとのどを鳴らした。口では強気で言ってみたものの本当に死ぬとなれば誰だって恐怖を感じるだろう。
「うーん。はさみとかでいいかな」
幼稚園から使っている工作用のはさみだった。少し小さめだったが、人一人の首を切るくらいなら分けないだろう。
「じゃ、さよなら五十嵐さん」
シャリンシャリンと耳元ではさみを鳴らしてやると、五十嵐はぎゅっと目を硬く閉じ、拘束されたままの両手を力いっぱい握り締めて身構える。
ざりっ
「へ?」
何事だとあわてて五十嵐が目を開ける。そこに、ほらといって一房の髪を見せてやる。
五十嵐の髪は上質な絹のように滑らかで、すぐ俺の指先を滑り落ちて行った。
「なに? 本当に殺すと思ったの?」
「あ、あ……あぁ……」
安堵からか、ふにゃりと五十嵐が崩れ落ちる。気が緩んでしまったのか、ちょろちょろと本日二度目の放尿まで始めてしまう。
「くっ。っははは! はははは!」
その様子に、つい笑いが零れる。
「ゆ、許してください」
「あん?」
「私が悪かったです。も、もう許してください。だから、殺さないでください」
そういうと五十嵐は地面に頭をこすりつけ、声をしゃくりあげた。
「どうしようかなー」
はさみで五十嵐の頬をぺちぺち叩きながらあふれる笑いが堪えきれない。
「もう生意気な口も聞かないし反抗的な態度もとらない。だから、だから……殺さないでください」
「死にたくない?」
「し、死にたくない。です」
それほどに先ほどの脅しが効いたのか、五十嵐にはもう抵抗の意思は見受けられなかった。
謝れ、反省しろ、誠意をしめせと要求し続け、ついにそれが叶ったわけだが、ここで思い出さなくてはいけない。どうして俺がこんなになるまで五十嵐を痛めつけたのかを。
日々の行いを悔い、贖罪を求める五十嵐が見たかったのか。
否。
それならば単に暴行の瞬間を撮影でも何でもして脅してやればよかったのだ。
ではなぜか。
それは、眉目秀麗、才色兼備の優等生。いわばその芸術品といってもいい一人の人間を、滅茶苦茶にしたかったのではないか。
そうだ。俺はただ、壊したかったのだ。
と、なればここでやめる事はない。
「どうしようかなー」
「な、なんでもします。なんでもしますからどうか命だけは」
「なんでも?」
「なんでもです!」
そういわれてふと思い出す。そういえばまだやっていないことがあった。
「じゃ、お言葉に甘えて」
「きゃっ」
頭を垂れたままの五十嵐は、自然とヒップを突き出す形になっており、俺はそこに手を伸ばした。
「おや? なんだぁ?」
尿でぐしょぐしょになった下着に触れると、なにやらぬめり気のある液体が指に絡みつく。
「この粘り気。おいおい、お前まさか――」
「そ、そんなはずないじゃない!」
何を言わんとしたのかを察したのか、俺の言葉をさえぎるようにして五十嵐がものすごい勢いで体を起こす。しかし、その反応こそがそうだったと決定付ける証拠となりえる。
こりゃ傑作だ。かれた声で謝罪し、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら尻を嬲られ、こいつは感じてやがったわけだ。常日頃俺にマゾ豚だのなんだの言ってた割りにとんでもねぇ淫乱ビッチだ。
「ち、ちが――」
「何が違うんだよ。このマゾ豚が!」
「ひうっ」
また尻を叩いてやると先ほどより、よりいっそう体をびくりと痙攣させる。それがたまらなく楽しく、俺はまた何度か尻を嬲ってやった。するとどうだろう。下着をずらされあらわになったままの秘部からはだらしない犬の口元のようにだらだらだらだらと愛液が流れ出た。
「なじられて感じる真性マゾが!」
「ち、ちがっ……ひゃうんっ」
言葉では言うものの、五十嵐の声は明らかに始めのころより艶っぽかった。それに、息も荒くなっている。
「さて! 十分濡れてるし、もういいよな?!」
チャックを下ろし、痛いほどに反り返った自分の物を五十嵐に向ける。
「や、やめて。そ、それだけは」
音に気がついたのか、顔を真っ赤にした五十嵐が声を荒げる。
「何でも。するんだろ?」
「そ、そうだけど私はじ――」
「答えは聞いてねぇんだよ!」
「ひっぐぅっ!」
その瞳を恐怖で染めた五十嵐を、背中から覆いかぶさるようにして一欠の優しさも労わりも慈しみもなく一気に貫いた。
ミチミチと肉を掻き分けていく感触の途中、掻き分けるのではなく肉の塊を裂いたような妙な引っ掛かりを感じる。
「かはっ! ギッ……ぐぅ……」
呼吸もろくにできず体を大きく弓なりに硬直させたままの五十嵐の結合部を見れば、うっすらと血がにじんでいた。
「はっ! 人のことを童貞だの何だの言ってたてめぇも処女<初めて>かよ」
言いながらも、ギチギチと自分のナニを噛み切ろうとせん勢いで締め付ける膣内<なか>はいままで経験したどの自慰行為よりすばらしかった。油断すればすぐに達してしまいそうな勢いだった。
「て、てめぇ……殺してやるっ」
まだ反抗するのかと、つい深々と突き刺したままのペニスで膣内をぐりっとかき混ぜる。
「ぎぅっっっっっっっ」
初めての痛みなのかそれとも恥辱に耐えているのか五十嵐は歯をがちがちと鳴らしていた。
「ははっ。いい気味だな!」
グジュリと中を潰すようにかき混ぜてやると、愛液に混じって鮮血があふれ出す。
初めて男のモノを受け入れたというのに五十嵐の膣内は、俺のモノに食らいついてはなさない。
「ははっ。いいぞ。そのまま俺の形を覚えてしまえ!」
「く、くそが。このまま、お前のナニを引きちぎってやろうか」
「できるものならぜひやってほしいっ! なっ!」
ズドンと一発深くペニスを打ち込む。
「こふっっっ……あぎひぐぅ!」
それだけで五十嵐は体を弓なりにそらし、星を飛ばす。
ゆっくりと引き抜いてやる。
「ぎぃゅっっっ!」
もう一度、杭を打ち込むように深く腰を叩きつけると、五十嵐はかえるがつぶれたような声を上げた。
「ほらほら、こんなもんじゃないんだぜ?」
「がぁぁぁぁぁぁぁあッ」
腰を打ち付けるたびに体を痙攣させ、あまつさえ口からはよだれまでたらし始める。
「おいおいどうしたんだよ。俺のものを引きちぎるんじゃなかったのか?」
言いながら先ほどまでとは違いゆっくりと中を嬲るようにして腰で弧を描くと、五十嵐は歯を食いしばり、呼吸を荒くする。なんとか耐えようというのだろう。
「なぁ何とか言ってくれよ」
「う、五月蝿い。この粗チンが」
地面に押し付けられたままの五十嵐は、顔に脂汗を滲ませながらもそういった。
何度か中をまさぐっていると、同じようなところで唇を強く噛む。それこそ、血が出るほどにだ。
「ふーっ! ふーっ」
「おやおや、随分と息が荒いなぁ五十嵐ぃ?」
「だ、黙れ外道が」
「まだ抵抗するとは感心だよっ!」
「うるさっ……あっあッ! あぐぇえ!」
ふたたびズドンと五十嵐の一番奥へと掻き分け進み、子宮口をコンコンとノックしてやる。
「くっ……はっ……はっ」
もはや呼吸する事すら必死なのか肩を細かく震わせながら小さく震える。
「なあ五十嵐」
「な、なんだよ」
「俺、実はそんなにお前の事嫌いじゃなかったんだぜ? 煙草吸ってるところを見ても幻滅しなかったし、むしろラッキーだと思ったくらいだ。今思えば好きだったのかもな。お前の事」
「そっそうかよっ……ぎッ!」
「だからさ……顔、見せてよ」
「なっ! やめっ! うはっ!」
ズルンと抜け落ちた俺のペニスは五十嵐の血液と愛液でどろろどに染まっていた。
「ほら、その顔、よく見せてくれよ」
「やだ! やめろ! やめろ変態!」
嫌々と体をくねらせるが、両手を拘束されたままなので簡単にひっくり返され、背中を自らの尿で汚したフローリングにつける。
「キレイだよ」
「死にさら――ひゅぃぃぃっ!」
羞恥と怒りで真っ赤に染まった表情を見ながら、何の前触れもなく再び俺はモノを五十嵐の膣内へと挿入した。
「そらっこれならどうだ!」
「あぐっっっっっっ! いぎっっっっ!」
当然、俺の視線から逃れようと五十嵐はそっぽを向いたが、横顔だけでも十分とそそる。
「いいよ五十嵐。キレイだ!」
「だっだまっぐぅっひゃめろぉおぉぉっ!」
「五十嵐っもう限界だっ!」
あまりにも情けないが初めてにこの快感は荷が重すぎた。
それでも体はなお快楽を求め五十嵐の腰をがっちりつかみ、自らの腰を軽やかに送り出していく。
「出るぞっ」
あっけなく限界を迎えた俺は腰の速度をいっそうはやめ、ラストに向けて上っていく。
「いぐっ!? ちょっと。まさ――ぎゃうん!」
睾丸から熱いものがこみ上げてくる。
「膣内はだめ! それだけはやめて!」
痛みも忘れ、必死に懇願する五十嵐の顔も、今はただただ愛おしい。
「うっ」
ドクンドクンと心臓が脈を打つように俺の肉棒が五十嵐の膣内で跳ねた。
「う、嘘……でしょ?」
無論現実だ。自分でも驚くくらいに出続ける精子は確実に五十嵐の子宮を犯している。当の五十嵐はというと、まだ信じられないといった表情で俺の顔を見ていた。あぁ、やめろ。そんな顔で見たら。
「え? また大きく」
「あんまり五十嵐がかわいいものだからついね」
「死ね! 死ね糞ったれ!」
声を荒げ、俺を罵倒する姿はたまらなくけなげでキュートだ。髪の毛で隠れてしまった表情を見ようと手を伸ばしたら、そのまま噛み付かれてしまった。
そのまま指を食いちぎってやるといわんばかりに食い込む歯は、脳内麻薬でどうにかなっている俺でもそうとう痛い。なんとか振りほどこうとするもがっちり食いついて離れない。
何かないかと辺りを見回せば、ちょうど目の前には赤く充血した五十嵐のクリトリスがむき出しになっているではないか。
俺はためらう事もせず一気にそれを、摘み潰した。
「んぎぃぃぃぃぃ?!」
突然の痛みに、体を弓なりにして五十嵐は震えた。もちろん噛んでいた指など簡単に離してくれた。
「おもしろいな」
潰すたび電流を流すかえるの足みたいにビクビク痙攣する五十嵐は、やはりソウキュート。完璧だった。
「も、もうやめてください。死んでしまいます」
本当に死にそうな声で五十嵐は俺に訴えかけてきた。ためしに、髪のベールで覆われていた
顔をのぞくと本当に死にそうな目をしていた。具体的に言うと焦点が合っていないのだ。どこか遠くを見ているようなその瞳は、ぜひくりぬいて保存したいくらいだ。
「じゃ、俺の奴隷になれよ」
ズブリと再び五十嵐の膣内に挿入した。潰したりつねったりするのも楽しいが、やはりこっちのほうが気持ちいい。
「ギッぅっ!? なります。貴方の奴隷になります。だからもうやめッ! くふぅぅぅっっっッ!!」
五十嵐はというとおおよそ人間とは思えない声を上げたが、俺には関係ない。
「奴隷なら奴隷らしい態度があるんじゃないの?」
「も、申し訳ありませんご主人様。ど、どうかこの卑しい私を高貴な貴方様の奴隷にしていただけませんでしょうか」
膣内に俺のモノをおさめたまま、五十嵐は声を震わせて俺に願う。
「いいね。奴隷。五十嵐はこれから俺の奴隷。いい感じだ」
「あ、ありがとうございます」
「奴隷には奴隷らしい教育が必要だよね」
そう言って腰をゆっくり引き抜くと、さーっと五十嵐の血の気が引く。
「そらっ! おちろっっっ!」
「うひゃぁっっっっ! も、もうゆるしれぇぇぇぇ!」
ゴリゴリと膣内を削ってやると、きゅっきゅっと締め付けを強くする。
「奴隷は奴隷らしくすればいいんだよ!」
「ふはぁぁあぁッ! んほぉぉぉッ! これ以上はッ!」
「これ以上やったらどうなるんだい?」
「らめっらめになっちゃうぅぅぅぅ!」
「なれっ! なっちまえ! 奴隷にはそっちのほうがお似合いだよ!」
そう言って五十嵐の弱い部分を攻めてやる。
「らめっもうらめなのぉぉぉぉ!」
そういうと今まで出一番大きく体を弓なりにそらせ、体を震わせる。
「そうだ。おっぱいはどうなってるのかなー」
五十嵐はどちらかといえば無い。なにがって胸がだ。だがしかし、そこにこそ見る価値があるのではないだろうか。いやきっとあるに違いない。
と、言う事でガツンガツンと子宮をノックしながら俺は五十嵐の制服に手をかけ、制服を引き裂いた。
キャァアアという声はもはやない。五十嵐はすでににごった瞳でこちらを見ているのか見ていないのか分からない。
パンティーと同じく白で統一された清潔感あふれるブラを、何のためらいも無く引きちぎる。そうしてあらわになった五十嵐の乳房は、やはり控えめで手のひらにすっぽりと収まった。
つかむ突起としても使えそうに無い貧相な胸なのだが、俺はそこに無常の愛を注ぐ事ができそうだった。まず、そのツンとした乳首。これはやはり歯を立ててやら無いと失礼だろう。
「あんッ」
一瞬、艶っぽい反応してまた動かなくなる。指のお返しにと血が出るくらい歯を立ててやったのだが、最初の反応以降まったく動きは無かった。
さて、この目立たない胸だからこそ自己主張する乳首にばかり目が行きがちだったが、やはりその本体である乳房にも注目しなければいけない。尻や頬とはまた違う抜群の弾力性。そして吸い付くような肌質。いくら揉んでもあきが来ない。
しばし腰を動かすのも忘れ、乳房に没頭していたが、思い出したように腰の動きを再開する。
やはりなんといっても五十嵐の膣内はすばらしく、まるで性器全体を抱擁されているような錯覚さえ受ける。腰を引けば待ってくれといわんばかりに絡みつき、内へ内へと引きずり込む。と、思えば腰を押し、出すとくるなくるなと押し返す。
だがしかし、反応がない。まるで人形を抱いているようで薄気味悪い。
「ちっ」
急に熱が冷めた俺は、こいつを道具だと思う事にした。これは体温を持ったラブドール。ただの性処理道具に過ぎない。そう思えば幾分か気分はましになった。
さっさと済ませてしまおうとピストンを早め、膣内に出してやる。
「あん……うん……」
射精中の満足感に浸っていると、今まで反応の無かった五十嵐がいきなり声を上げた。それも少し艶っぽい声をだ。俺はなんだかおかしくなっていけるところまでイってみようと再び腰を動かし始める。
するとどうだろう。先ほどまで壊れたぬいぐるみのようだった五十嵐が、いきなり艶っぽい声を上げ始めたのだ。もしかしたら壊れてしまったのかもしれない。でも正直そんな事はどうでもよかった。とにかく俺は声を上げる五十嵐を飽きるまで抱いたのだった。
「うん……?」
体がやけに重かった。
外はもう夕暮れ時らしく、綺麗な黄昏色に染まっていた。調子に乗りすぎたのか気を失ってしまったようだ。
「うーん」
大きく伸びをし、はてどうしてこんな時間に目がさめたのかと首をひねる。
「あっ」
思い出して血の気が引いてゆく。
どうかたちの悪い夢であってくれとあわてて辺りを見回す。
「おいおい、うそだろ?」
そこに五十嵐の姿は無かった。それどころか、先ほどまでの行為が嘘だったのではないかというくらいに綺麗さっぱり跡形がなかった。俺の体もどこも汚れていなかったし、むしろ綺麗すぎるくらいだ。
「いや、本当に夢?」
しかしこの手に残る感触は確かに本物だし、指には歯形も残っていた。わずかにアンモニア独特の芳ばしい香りもするし、極めつけは俺の服装が制服ではない。となると一体何が起こったのだ。
ふと机を見ると、ご丁寧に手錠と鍵がそろえて鎮座している。そう。あの五十嵐にかけていた物だ。なにやら書置きもあるようで封筒まで置いてある。
ガチガチとうるさい口を必死に閉じながら震える手で中のメモを取り上げる。
「服がないのでジャージを借りていきます。あと、学校には遅れないように」
読み終えた封筒をひっくり返すと、大量の毛髪が零れ落ちる。
「学校? ジャージを借りる?」
どうなっているんだと首をひねり、もしかしたら復讐の機会をうかがって隠れているのではとあたりを警戒してみるも、気配すら感じられない。慌てて家の戸締りを確認して震える足を引きずってベッドにもぐりこむ。もしかしたら夢なのかもしれない。いや、夢だったに違いない。明日学校に行けばきっと何事も無かったかのように僕を蹴るに違いない。そんなわけの分からない妄執に取り付かれながら僕は意識を手放すのだった。
次の日の朝。いつもと少し違う朝。
目を覚まし、なぜか香るかぐわしい匂いにつられてリビングに向かうと、朝食が湯気を立てていた。
家政婦なんかを頼んだ覚えはないし、朝食のデリバリーサービスも頼んでいない。念のため戸締りと誰かいないかを確認してみたが、どこもしっかり鍵がかかっているし、誰の気配も感じられない。
おかしいなと首をかしげながらも、昨日の事もあり腹ペコだった僕は用意されていた朝食をいただいた。それはなんだか懐かしく優しい味がした。
学校に向かいながら、ここまでの事を整理してみる。しかし、五十嵐さんを襲ったところあたりで校門にたどり着いてしまう。
元気な声に顔を上げれば、校門では五十嵐さんが他の生徒に笑顔を振りまいていた。
「なっ」
五十嵐は、自慢のロングストレートの髪をベリーショートにまでばっさりと切っていた。
そう、俺がちょうどばっさりとやってしまった長さくらいに。
「おはよう」
「お、おはようございます」
肝のつぶれる思いで声をひりだす。いったいなんなんだ。なんで笑顔なんだ。何で何も言ってこないんだ。
おそるおそる五十嵐さんの隣を通り過ぎようとしたとき、いきなり五十嵐さんが顔を寄せてきた。
「朝ごはんは御口に会いましたか?」
「朝、ごはん?」
朝ごはんというとあの朝ごはんだろうか。いや、しかし戸締りはされていたはず。
きっと聞き間違いだろう。
「どういった物が好みなのか分かりませんでいたので、とりあえず我が家のレシピでおつくりいたしましたのですが……」
「あ、あぁ。うん。美味しかったよ」
「それはよかった」
そう言ってぱぁっと花を咲かせる五十嵐さん。
なんなんだなんなんだなんなんだなんなんだこれは。
「これから毎日毎日毎日、お食事を用意させていただきますから差し上げますね。そのためにたくさん勉強しますし、たとえ引越しをしようと必ず見つけ出し、地下にもぐろうと抜け道を作り、どんなセキュリティでもかいくぐって絶対ぜったーい作りますから楽しみにしててくださいね」
そっと耳打ちをする五十嵐さんの顔に恐る恐る目をやると、その瞳には殺意や悪意は感じられない。むしろ善意や好意しか感じられない純粋な感情がぎらぎらと輝いていた。
「あ、あ、あ……」
「私、一生懸命貴方の奴隷を全うしますよ」
咄嗟に後ずさりしたその耳元に呪詛のように呟かれた奴隷宣言に、どうしていいかも分からずになさけない声を上げる僕だったが、五十嵐さんはにこりと微笑んでまた後でと。離れる。
「ほら、ネクタイが曲がっていますよ」
「あ、ありがとうございます」
そんなにゆがんでいたつもりは無かったのだが、所々傷ついた指で五十嵐さんが僕のネクタイに手を伸ばす。
「だから、逃げないでくださいね。私のご主人様」
そう言って、飼い犬の首輪を嵌めるようにギュッときつく絞めなおされたネクタイに息苦しさを感じながら、ぴしりと音を立てて僕は壊れた。
それはそう、五十嵐の主人としてふさわしい俺になるために。