付き合ってから三ヶ月の今日は記念日。
「今日は帰りたくないの」
そんな台詞を聞けば男なら誰だって期待するだろう。いや、期待したっていいだろう。むしろ期待しないほうが失礼に値するのではないだろうか。
「も、もう一軒回る?」
とはいえ、もしも勘違いだった場合は恥ずかしい。恥ずかしいので震える声で聞いてみた。
無言のまま、彼女は小さなおさげをぶんぶんと横に振る。
「じゃ、すこし休憩する?」
同じく返事はない。だが、わずかに頬を高揚させながら横ではなく縦に首を振ったということはイエス。と見ていいのだろう。この場合の休憩というのは勿論普通の休憩ではない。
「じゃ、じゃ、行こうか」
何とか平静を装って言ってみたはいいものの、心臓は痛いほどに跳ねる。
なにせ、年齢に見合わずこういう状況に耐性がない。と、言うより経験がない。彼女がほしいなと思うことはあったが自ら行動を起こすことは無かった。所謂、曲がり角で食パンくわえた少女とぶつかったり、空から女の子が降ってくる。運命的出会いってやつをただ口を開けて待っていたのだ。
このままではいけないと気がついたのはいつだったか、黄ばむ枕が気になり始めたときだったような気もする。
すでにバッドエンドへのカウントダウンが止められなくなっていた俺に、初めて出来た彼女。
告白は向こうからだった。始め、何かの罰ゲームなんだろうと思った。なにせ、相手は駅で偶然出合った、淡い水色のパーカーを着た女子中学生だったのだ。
年相応に幼さが残るやわらかな笑顔と、俺の胸ほどしかない身長、精一杯の勇気を振り絞ったのだろう震える手で差し出された連絡先が書かれた一枚のキャラクター物の便箋、丁寧に編まれた黒の三つ編み印象的だった。後に、薫<かおる>と名乗ったこの少女は、驚くことに22歳のOLらしく、頬を膨らませ普通免許を押し付けてきた。
なぜ、どうして。と聞いてみたのだが、秘密。と眩しいばかりの笑顔で封殺されてしまい、結局俺なんかの彼女になった理由は分からずじまいだ。
しかし、崩壊の近づく三十路手前で差し出された助けの手、初めて出来た彼女というものを何とかモノにしようと俺は躍起になっていた。彼女は覚えていないかもしれないが三ヶ月記念だからといってちょっと高いレストランも予約した。味はいまいち分からなかった。
休憩しようと入ったものの、恥ずかしさと未知への恐怖からか、お目当てであるはずの視界にちらつくピンクやらなんやらで煌々しくも艶やかにこちらを誘うネオン街からは自然と逃げるように足を遠ざけ、たどり着いたのはわが城、六畳一間のアパートだった。
「あ……」
ドアノブに手をかけてふと思い出す。今、自分の部屋はどんな状況だったのかを。
幸いにも足の踏み場はある。ただ、部屋の隅に小さな山となった加齢臭たっぷりの洗濯物や机の上を占拠しているし、コンビニ弁当の空やらペットボトルが無造作に放置されたままだ。ザ・一人暮らしといった感じで堕落しきったこの部屋に、果たして人を、彼女を招きいれてもよいものか。
「ちょ、ちょっと待ってもらえるかな。散らかってるから少し片付けるよ」
「いや、気にしなくていいですよ」
「いやいや、俺が気にするから」
そういう俺の制止も聞かぬまま、彼女は小さな体に見合わぬ力強さで俺を押しのけ、強引に扉を開けてしまう。
「あー……一人暮らしって感じの部屋ですね」
なんだか妙にうれしそうな薫は、そのまま笑顔でテキパキと部屋の片づけを始めてしまう。
片付けてくれている手前、やめろとも言えず、ただその風景をぼんやりと眺めながらふと思い出した。
コンドームもっていない。
「ちょ、ちょっとコンビニ行って来る!」
言ってらっしゃいと俺を見送る声を背中に受けながら、俺はコンビニへと走った。
「ありがとうございましたー」
しばらくこのコンビニは利用できないな。と、顔見知りの店員のいやらしいにやけ顔を思い出しながら、手に入れたコンドームの箱を眺めてそんな事を考えてしまう。
種類とかそういったものはよくわからなかったのでとりあえず一番薄い奴にした。あの店員に押し付けられたのだ。曰く、こっちの方が生っぽいらしい。
「た、ただいまー」
若干フワフワと夢心地のまま部屋に帰る。彼女は片づけが終わったのか、ベッドの近くで固まっていた。
「ただいま」
「あ、おおおおお帰りなさい!」
そういってあわてた様子でこちらを振り返る彼女の小さく可愛らしい手には「半裸の少女」だの「半裸の人妻」の肌色がまぶしいマイフェイバリットコレクション。所謂、エロ本が握られていた。
「お、男の人だもんね。しかたないよね」
真っ赤になった頬でにこりと苦しい笑み作りながらも、薫はエロ本を書類やら給料明細の束と一緒に部屋の隅へとまとめていく。
「の、喉渇いたでだろ? ほら、オレンジジュースでよかったよな」
「あ、ありがとうございます」
強引に話をそらそうとコンビニで買ったジュースを手渡す。まさか、コンドーム単品で買えなかったチキンハートがこんなところで役立つとは。
話をそらしたものの、彼女はどうも視線はそらせない様子で、部屋の隅に追いやったエロ本をちらちらと盗み見しながら、ペットボトルを受け取り、中身を子猫のようにちろちろと小さな舌で舐める。
「あっ……」
と、小さな声を上げて彼女の視線が一点に釘付けになる。
「あっ?」
なにかとその視線を追えばビニール袋。もっと言えば、中にあったコンドームの箱。
今度は俺がうつむく番だった。
だが、そのまま玄関で立ちっぱなしでいる訳にもいかず、狭い部屋で机を挟で正座する形に落ち着く。沈黙が苦しい。
「へ、部屋の掃除ありがとうね」
「い、いえ。いいんですよ」
「でも、なにかお礼を」
「そ、それならさっきジュースをもらったんでそれでいいですよ」
「そ、そっか」
再び沈黙。下手すればこのまま朝を迎えてしまうのではないかと言う焦燥感と、早まったかと言う後悔で背中を変な汗が伝う。
「シャ、シャワー借りても、いいですか?」
「へ?」
「あの、だから、シャワー。お借りしてもいいですか?」
「なんで?」
「いや、ほら、汗かいちゃいましたし……」
「え、あぁ。もちろん。どうぞどうぞ」
じゃあバスタオルが必要だなと、立ち上がる彼女に釣られて腰を浮かせるが、なれない正座のせいでふらりとよろめく。
「きゃっ」
ベタだ。ベタすぎだ。
ふらりとよろめいた体は引き寄せられるようにして彼女にぶつかり、そのままベッドに倒れこむ。
目の前には大きな薫の潤んだ瞳。そしてオレンジジュースで程よく潤ったみずみずしい唇。自然と俺は唇を寄せる。
「あの、その……」
「ご、ごめん。なれない正座で足がね! 足がしびれちゃって!」
顔を真っ赤にしていやいやと首を振る彼女に、我に返り必死になって言い訳をする。
「と、とにかくシャワー。浴びるんでどいてもらってもいいですか?」
「あ、ごめん」
あわてて身を離し、パタパタと風呂場へと走っていく彼女の背中をぼんやりと見送る。あそこで拒否されるというのはどうなのだろう。やはり、早まったのではないか。
相手の気持ちも考えずにコンドームなんか買ってきて、ヤる気満々じゃないか俺は。と自己嫌悪に陥る事数分、聞こえてきたのはシャワーの小さな水音で。姿が見えない分変に想像が盛り上がってしまいそうである。自分より頭ひとつ分小さい彼女ではあるが、出るところは出ている。こう、ボン・キュッ・ボンとまでは行かないがポン・キュ・ポンくらいあるのではないかと思う。幼げの残る少し丸みの帯びたわいらしい顔からは想像できないくらいの女性としては成熟した体の持ち主だ。
その彼女がなぜか自分の部屋にあるシャワーを浴びている。
普通なら期待してしまう状況だろうが、先ほどの事もあり、すっかり自信をなくした足取りで新品のバスタオルを引っ張り出し、風呂場に届ける。
「さっきはごめんね。その、俺もこういうこと初めてだったからつい焦っちゃって……でも、今日はもうそんなことしないよ。薫ちゃんの嫌がる事はしなくないし嫌われたくないから。……だから、その……本当にすまない」
無言のままシャワーの水音が響く脱衣所にタオルをそっと置き、俺はその場を離れる。
戻った俺はベッドに腰をかけ、意味もなくコロコロと部屋の掃除を始める。落ち着かないのだ。結局、薫は何も言ってくれなかったし、もしかしたらこのまま別れを告げられてしまうのではなかろうかと掃除が捗ってしまう。
「お、お待たせしました」
「いや、そんなに待っていなっ?!」
恥ずかしそうに伏せ目がちにこちらを見た彼女はなんとアレだ。ほらアレ。下着姿に俺のYシャツを羽織っていた。しかもいつもは髪を小さく結んでいるのに今は下ろしていた。
「き、着替えがなかったので適当に借りちゃいました」
てへっと舌を出すしぐさは小悪魔的で、吸い込まれるように膨らんだ谷間に目を奪われてしまう。
「あ、あの。そんなに見られると恥ずかしいです」
「ご、ごめん」
「そ、それで、ですよ?」
「うん」
恥ずかしそうに胸元を隠し、何かを待つようにしてこちらに視線を投げかける薫だったが、それが何を意味しているのかが分からない。
「で、電気、消してください」
蚊の羽音のようなか細い声で言う彼女に従い、電灯の紐を二三度引けば、部屋は月明かりが照らすロマンチックな一室へと早変わりする。
窓から差し込む光に、乾ききらずに濡れたままの髪が艶かしく光る。彼女の陶器のように白い素肌も、月明かりを受けてよりいっそう白く美しく見える。
「け、消したけど?」
「そうですね……」
お互いに暗闇の中で見つめあう。相変わらず薫は俺の目の前に立ったままなのだが、そんな格好では風邪を引かないのだろうか。
「き、着替えを――」
「馬鹿っ!」
気合一閃、ものすごい勢いで俺の胸へと飛び込む彼女に押され、俺はベッドに背中をつける。
二人分の重さは辛いのか、ベッドがぎしりと小さく軋んだ。
見つめあう二人。満月のせいなのか、彼女の顔には今までに見たこともないような加虐的な笑みが添えられていた。
「鈍いんですから」
ぺろりと舌で唇を舐めたそのしぐさに、ゾクリと生理的な嫌悪感から急いでその場から逃げようと身をよじったが、肩を両手でがっちり押さえられ、さらにはちょうど腰のあたりに馬乗りになられており身動きが取れない。
本能が警鐘を鳴らす中、下半身に感じる暖かく柔らかい感触に、不覚にも立ててしまった。
「もうこんなにして」
自分の股の間で盛り上がったズボンを敷きながら、薫はペロリと俺の唇の端を舐めた。
「か、薫……さん?」
「ねえ、知ってる? 男の人でも、乳首。感じるらしいよ?」
「い、いきなり何をするんだよ?! っていうかどこ触ってるんだよ!」
そういうと彼女は右手で太ももの辺りからゆっくりと指を這わせてゆき、そのまま人差し指でなぞる様にして乳輪をいじる。
「何をって、ナニをですよ」
鋭い犬歯を覗かせながら、楽しそうに笑う彼女は、俺の知っているかわいらしい薫ではなかった。
「ほら、こっちもこんなにして」
左手で勃起しきった股間をなでながら、ふーっといきなり服の上から乳首に息を吹きかけられる。
「くっんッ!」
「ふふふ。かわいいですね」
そういわれてこみ上げてくるおかしな感情を必死に押さえ込む。
「ほら、これはどう?」
人差し指でピンとまだ甘立ちだった乳首を弾くようにして遊び始める。
もちろん、感じてなどいない。感じてなどいないのだが、自然と漏れそうになる声をなんとか飲み込みながら、どうか立たないでくれと乳首がおろし金にかけられているビジョンを思い浮かべ、平静を取り戻そうと勤める。
「ふふふ、我慢してる我慢してる」
それすらも面白かったのか、彼女はいやらしく笑うと、いきなり甘立ちのままの乳首を摘み上げる。
「ぎっ」
鈍痛に顔をゆがませたが、彼女はとても嬉しそうに引き続き乳首をつねり、引っ張る。
「お、おいやめ――」
「う・る・さ・い」
言いかけた唇を唇で塞がれてしまう。見た目通り薫の唇は柔らかく、そして少し甘酸っぱかった。
初めてのキスにまどろんだのもつかの間、つい先ほどペットボトルの飲み口をちろちろと舐めていたかわいらしい舌が、今は俺の歯茎をざらりと這い回る。
何とか抵抗してみようと舌で交戦を試みたが、押しかえそうにも絡めとられ、口を離そうとしても吸い付かれる。
両手で頭を抱えるようにして貪欲に俺の舌を追い回す彼女の舌は暖かく、そして冷酷なまでに俺の口内を犯していく。お互いの息が苦しくなるほどに舌を絡ませ、そして歯茎をなぞり、たまに自分の口の中へと俺の舌を引っ張り甘噛みをする。
完全に彼女のリズムで息継ぎをさせられ、酸欠気味の脳はぼんやりと、そして受動的にその行為を享受し始める。と、そうなった頃を見計らったのか、彼女の唇はてらてらと唾液の糸を光らせながら俺の唇から離れる。それを少し寂しいと感じてしまったが、それもつかの間、彼女はそのまま俺の服をびりっと破いてはだけさせてしまう。
「わー。おっきな胸板」
そういいながら俺の胸に頬ずりをする彼女は、いつもの笑顔だったが、その瞳に宿っていたのは妖艶な炎だった。その証拠に、右手は飽きることなく俺の乳首をギュッとつまんでは潰すように力を入れて俺の反応を楽しんでいた。左手はというと俺の方をがっちりと押さえつけて逃げる事も出来ない。
自分でも恥ずかしいくらいに勃起してしまった乳首は、もはや性感帯のように敏感になり少しのことでも声が漏れそうになる。
「ふーっ」
「くっ」
いきなり手を離したかと思えば今までの行為により、熱くなった乳首に冷えた息を突然吹きかけられ、つい声を漏らしてしまう。
「ふふふ」
妖艶な笑みを浮かべながら指先で押しつぶしようにクリクリと勃起しきった乳首をこねながら、彼女は俺の顔をじっと見つめていた。
瞳はうれしそうに細められ、頬もかなり高揚している。口元はといえば先ほどまでの行為の名残で唾液が月明かりを反射させ、よりいっそう薫を淫らに見せていた。
「結構頑張りますね」
「くっ」
恨み言のひとつでもいえればよかったのだが、おかしな声を漏らさないので精一杯だった。別に声くらいはと思うかもしれないが、今出してしまえば俺の中で何かが終わってしまいそうで怖かったのだ。
「じゃ、こんなのはどうです?」
「っん! はぁっ!」
カリッそれは突然の痛みだった。あわてて自分の口元を押さえながら自分の胸を見てみれば、彼女が乳首に噛み付いていた。
「かーわい」
下ろした髪が顔をまだらに覆い隠していたが、白い前歯がその隙間から乳首を挟んでいたのが確認できた。
「本当、かわいいですよ」
コリッコリッとゆっくりと前歯を左右に揺らし、規則的な刺激を俺に与える。もちろん俺はというとこのまま噛み千切られてしまうのかとジンジン痛む先端に不安を覚えたが、ギュッと拳を握り耐える。
「噛み千切っちゃいましょうか」
俺の思考を読んだのか、彼女はとがった犬歯を見せるけるように笑う。
「や、やめ――」
「ガウッ!」
ふっと当てられていた歯が離れたと思えば、彼女が大きな口を開けていた。迫りくる歯を前にして逃げ出す事もかなわず、硬くまぶたを閉じ、その痛みを待つ。
――ガチン
前歯がぶつかる音が聞こえ、心臓がきゅっと小さくなる。
しかし、いつまでたっても痛みが訪れる事は無かった。
「くっくくくく……」
恐る恐るまぶたを持ち上げてみれば、肩を震わせながら声を殺して笑う薫が居た。
「本当に噛み千切られちゃうと思いました?」
笑いすぎたのか瞳は潤み、肩を押さえていた手の力も幾分か弱まっている気がした。
千載一遇のチャンスだと体を起こそうとするも、それを敏感に感じ取った彼女に再びベッドへと押し返されてしまう。
「逃げちゃ、嫌。ですよ?」
射るようにして俺を見つめる彼女に、俺はただ頷く事しかできなかった。
「わかればいいんですよ」
そういうとチュッと胸板にキスをして、そのまま唾液で濡れた乳首をに唇を当てる。
今度は何をするのかと身構えたが、やさしく飴玉でも転がすようにコロコロと舌先で舐め回し始めた。それは先ほどの鋭い痛みとは別の、しかしどこかもどかしいような鈍い快感で、自然と身震いが止まらなくなる。おまけに、先ほどまで気にならなかった柔らかな髪の感触が胸板を這い回るようにして広がって行く。
ぞわぞわと悪寒に似た何かが背中を走るが、悲しいくらいに体の力が抜けていく。
「ふう」
満足したのか、彼女は唾液で頬に張り付いた髪をかきあげ息をつく。
俺も、いつの間にか上がっていた息を整えながら、ふと時計を見た。
なんと30分経過していた。それが長かったのか短かったのかはふやけきった俺の乳首を見れば言うまでもない。
「さて」
一息ついて、彼女は俺の視界から消えうせる。釣られて俺も上半身を起こす。ぎしりとベッドが軋んだが、それ以上に夜風が胸をなでるその微かな刺激でさえ今の俺には辛かった。
「えと、なにしてるんです?」
「だから、ナニするんですってば。ほら、今出してあげますからねー」
膝を突き、俺の股の間でカチャカチャと音を立てながらベルトに手をかけている彼女にその質問はナンセンスだと思ったのだが、案の定、分かってないですねと砂糖菓子のような、それでいてくどすぎる甘ったるい声を出しながら彼女はズボンを引きおろした。
「ちょ、それは!」
慌てて制止しようと手を伸ばしたが、彼女の方が早かった。
「なんて……」
痛いくらいにそそり立ち、パンツから少し顔を出していた俺の愚息に声のトーンを上げた彼女は、そのまま一気にパンツから俺の一物を解放し、潤んだ瞳でほうと熱っぽいと息を吐き出す。
「なんて凶悪なおチンチンなんでしょうか」
うっとりとしたような声が聞こえてくる。
「え、え?! チ、チンなんだって?」
「じゃ、早速いただきましょう」
かわいい唇から飛び出たあまりに卑猥な響きに動揺する俺をよそに、下半身が暖かいものに包まれる。
「くっ口?!」
理解するのには一秒とかからなかった。なにせ、手やオナホールでは味わえないような適度な柔らかさと硬さの入り混じったほんのりと暖かな感覚を口以外に俺は知らない。
蛇のように彼女の舌が俺のあそこに絡みつき、そして締め上げるのだ。その様子はまるでその器官だけ別の生き物が住み着いているのではないかと思うくらいの速度で俺のモノを愛撫する。
「かっこれは」
これには流石に声が漏れた。
「おふぃにめふぃまふぃらか?」
「くっくわえたまましゃべるなっ」
上目使いのまま、言葉を発するたび俺のナニがむにむにと口蓋<こうがい>に押し付けられ、それが今までに経験のない快楽となる。
「ふぉーめーんーらさーい」
「だっ、だかっらッ!」
俺が感じているのを悟ったのだろう。わざとゆっくり言葉を発し、口の中をビリビリと振るわせると、彼女はまた口内で俺のモノを愛撫し始める。絡みつく舌のザラッとした感触がそのままダイレクトに脳髄を冒す。
「も、もうやめっ……」
初夜をむかえた未通女<おぼこ>が天井のしみを数えながらそうするように、シーツをギュッと硬く握り締め震える俺とは対照的に、手も使わずその口でナニをくわえたままうれしそうに目を細めると、薫はズゾゾと音を立てて俺のモノを吸い上げる。
「ふぉっ!」
その快楽につい腰が浮き、聞いたことのないような情けない声を上げる。
「んふふ」
もちろん薫は勢いを弱めることなく、下品な音を立てながら俺のナニに吸い付く。
背中をゾクゾクと悪寒がかけ上っていく。終わりのときが近い。
「え?」
と、ここで彼女がいきなり口を離してしまう。
「アホ面だねー」
言いながら猫のように目を細めた彼女はクスクスと口元を押さえながら笑う。
「タマタマがキュンキュンしてたからもうすぐなんだなーって思ったから、やめてあげたの。おじさんも、無理やりは嫌でしょ?」
絶対に分かってやっている。そうでなければそんな笑みは浮かべられない。
「ほら、おじさんはいい人だし。私も嫌がる事はしたくないかなーと思ってー」
さっきまでやめてくれと懇願する人の乳首を散々もてあそんだ人間の言う台詞とは思えないようなことをいいつつ、チラチラといきり立ったままの一物に視線を送る。
「はぁーやりすぎちゃったかなー」
ため息をついたつもりなのか、生暖かい息が俺のナニを刺激する。もう、それだけでイッてしまいそうだった。
「……けてください」
「なあに?」
「つづけてください!」
「あははは。いい年したおじさんがこーんな小さな子にお願いしちゃうんですかー?」
ケタケタとおなかを抱えるようにして笑う彼女は、はたから見れば本当にかわいらしい女の子だった。
「いいですよう。おじさんがどーしてもって言うなら続けてあげてもいいですよー?」
しかし、この笑みは、もはや小悪魔を通り越して悪魔の笑みである。
「た、頼むよ」
それでも、そんな笑みに魅入られてしまった俺がいるわけで。
「ぷぷぷ。みっともなーい。でも、いいよ。そこまで必死になるなら続けてあ・げ・る」
内心やったと思った。ガッツポーズもとった。しかし、彼女の行為は先ほどの激しいものとは打って変わり、ペットボトルをくわえていた時のように俺のナニの先をチロチロと舌先で突くのみにとどまった。
「くっ汚いぞ!」
「汚いー? そりゃおじさんのおチンチンのほうが汚いよー」
ああいえばこういう。しかし、どうもイけそうでイけない絶妙なラインを攻め立てるこの技にはただただ感服するほかなかった。いったいどれくらいの男の屍の山でこのテクニックは研磨されたのか。
ゾクゾクからピリピリへと弱い電気でも流したかのようなシフトチェンジした感覚に、より刺激を求め自然と腰が浮き上がる。
「た、頼む。い、イかせてくれ」
「えーなにー? よくきこえなーい」
そういってる時点で聞こえてるだろうがと思うのだが、彼女はあくまで待つのだ。
「お、おねがいします」
「ナニをお願いするのー?」
そう。年上の、三十路の、おやじが、屈服し、哀願し、懇願するのを。
「イかせて下さい! お願いします!」
「ふふふ。よく言えましたー」
恥も外聞も無くただ目先の快楽の為に懇願する。だって仕方がないだろう。男というのは欲望に忠実なものだし、快楽というのは痛みに勝る。
必死の願いが通じたのか、彼女は偉く上機嫌のまま俺の一物をくわえこんだ。それも、根元まで一気にだ。
「ひぅ」
快感でおかしな声が上がる。
なにせ、喉奥の肉やら舌やらいろんな物がぎゅうぎゅうと俺のモノを圧迫するのだ。それだけでも達してしまいそうだと言うのに、驚く事に彼女はそのまま頭を上下に揺らし始めた。
コツコツと喉に祈祷の先の敏感な部分を小突き、プチプチと口蓋垂<こうがいすい(のどちんこ)>が限界まで膨張した竿を潰す。
敏感になっていた俺のナニは、彼女の頭が三往復する前には限界を向かえた。
「イくっ」
咄嗟に両手で彼女の頭を捕まえ、一番奥までくわえさせ、がっちりとホールドする。
「っっっ?!」
いきなりの事に彼女はえずき、ふくらはぎをぐっと両手で押すのだが、体勢の問題もありより奥へと腰を突き出してこみ上げてきた欲望をそのまま薫の中へと流し込む。
ドクンドクンと脈打つような今までにないくらいの長い射精の後、放心状態の俺のナニに、突如歯が立てられた。
「いっつっっっ!?」
慌てて薫の頭から手を離し、自分のまたに目をやれば、小さく縮んだ俺のモノに薄っすらと鮮血が滲んでいた。
「何するんだよ!」
「ごほっごほっ……そっちこそ……殺す気かよ!!!」
「あっ……」
目にいっぱいの涙をためて、苦しそうにのどを押さえながらこちらを睨む薫。
「あーこれは予想外だなーこれはかおるちゃんのシナリオにないなー」
彼女はドブのようににごった瞳のままぶつぶつと何かを唱えながら口元に垂れていた精液を拭うと、右手で顎をさすりながらカクカクとロボットの動作確認のように顎に異常がないか確かめていた。
「さぁて」
「ひっ」
その時、彼女の目はもはや俺の知る幼く可愛らしい薫ではなかった。
「かおるちゃんをーこんな目に合わせてー、どうなるか分かってるよね??!」
「ぁ……あぁ……」
じろりと殺意の混じった瞳にで睨まれ、逃げるようにしてベッドを後ずさる。
――コツン
しかし、狭い部屋のベッドの上。すぐに背中はひんやりと冷たい壁に突き当たる。
「なぁーににげてんのぉ?」
ゆらりと陽炎のように左右にはかなく揺れながらも、彼女はジリジリと俺を求めてベッドへと右手を、そして左手をかけていく。
乱れた髪から覗く目は血走り、見える犬歯は刃の如く、俺はとある映画を思い出した。そうだ。テレビから這い出てくるあれだ。あのシーンに近い。
――ギシリ
彼女が獣のように四つんばいで一歩近づくたびにベッドが軋む。静寂が支配するこの部屋へ、その音は三番目に大きく聞こえる。二番目は自らの心臓の音。高価なスピーカーをつないだかのように重低音を聞かせながら鼓膜を揺らす。
「はーッ! はーッ!」
そして一番は、彼女の口から漏れる吐息だ。地の底から響くようにしてかつ切るように短く響くその音は、頭に直接響いているのではないかと疑いたいくらいに脳を揺らす。
ベッドが軋み、俺の股の間に右手が置かれる。もう一度ベッドが軋めば左手は俺の腰の隣へと。
「つ・か・ま・え」
ぬっと彼女の顔が俺の間近に接近してくる。唇と唇が触れ合う距離なんて生易しいもんじゃない。そう、いうならば眼球と眼球が触れ合う距離だ。
彼女の吐息は甘く、そして熱い。目は血走り、獲物を追うそれで、理性のかけらも感じられない。
「た!!!!!」
「ひうっ」
右手が小さくなったナニを握る。
「ほら! はやくしてよ!」
「いたっ! いたいっ! いたいから!」
ごしごしと乱暴に、ベシバシと乱雑にこすられ、股間に鈍痛が走る。
「っかしーなー? なに? 弾切れ?」
手の中で一向に大きくならない俺のモノに痺れをきらせたのか、眉間にしわを寄せ目を細めながらに彼女は俺の問う。
「弾切れかー。困ったなー使えないなー」
いいながらも相変わらず怖い顔は俺の目の前にあり、ちっともそんな気分にさせてはくれない。
「いらないならー潰しちゃおうか?」
「うっ……」
そういって彼女は俺の玉を指で転がす。
「ね? 使えないんなら潰してもいいよね?」
「い、いや……」
恐怖で喉が張り付いて上手く声が出せなかった。なにせ、目の前のこの女はマジだ。キレちまってる。
「かおるちゃんにーひどい事する役立たずのふにゃちんさんはばいばいなのー」
もうキャラがおかしいとかそういった次元ではなく、この女の中で何か重要な物がトんでしまったらしく、徐々に玉への圧力が高まっていく。
死ぬ。いや、死にはしないだろうけど男として死ぬ。年下の、それも違法にしか見えない女にいいようにもてあそばれた上で何もできずに死んでいく。男としての尊厳に唾を吐かれ、さげすみ陥れられ、何もできないまま終わる。
鈍痛と脂汗を抱きながら、薫の小さくやわらかであたたかい手は、何のためらいもなく俺の男を破壊するのだろう。
父よ母よ。先立つ不幸をお許しください。それなりに、それなりな人生でした。
「およっ?」
「おっ????」
突如彼女の目に狂気でなく理性の光がさす。
「なに? こんな状況なのにおじさんおったてちゃった訳?」
「え?」
自分でも驚いたが、彼女の手の中で、俺のモノは大きくなっていた。
「ぷっくくくく」
先ほどまでの怒りはどこへといった感じで顔を伏せて肩を震わせる彼女。
「は、はははは……」
「なーぁに笑ってんだよ!」
「ぎぅっっッ!」
グッと玉をホールドしていた指に力が入る。それも、入っちゃいけない強さでだ。
「ははーおもしろいかおー」
「ぎゃっッ!!!!」
再び強く潰しにかかられる。まるで傷口をえぐる様な鈍く重たい痛みに汗が吹き出る。
「ど、どうしてこんな事……」
「どうして? そりゃおじさんがかおるちゃんをいぢめたからでしょー?」
「いじめてなんかないは――はギっっッ!」
「とーっても苦しくてーしんぢゃうかと思ったんだからねー」
「っはぁはぁ……す、すまなかった。あまりに気持ちよくてついッ?!」
「かおるちゃんがすごいのは当たり前なんですー」
可愛らしくニコニコと笑ってはいるが、その手は怒りに身を任せてすきあらば潰そうと力をこめる。
「ったく、適当にいい思いさせたげて取れるものとってバイバイしようと思ったのに初めからこれとかまじありえなくない?」
「なっ。最初からそのつもりで?!」
「ぷぷぷー。まさか私みたいな美少女が本気でおじさんみたいなさえない男に惚れると思ったのー?」
そうかよ。そうなのかよ。結局はそういうことなのかよ。
「童貞くさいしー適当に何とかなると思ってたのに予想以上のおチンチンでつい、かおるちゃんもハッスルしちゃったのがいけなかったのかなー」
ふつふつと湧き上がるどす黒い感情に、痛みも忘れて彼女を突き飛ばす。
「きゃっ」
小さな悲鳴とともに彼女はベッドから落ちる。
「舐めやがって! あんまり大人を舐めるなよ!」
そのまま倒れた彼女の髪を鷲掴みにし状態を起こさせると、大声で喚く。
「うっ……ううぅぅっ」
どんな反応が返ってくるかと身構えていると、彼女は肩を小刻みに震わせながらしゃくり声を上げ始める。
「だっだまされたりしないからな!」
「ご、ごめんなさい」
「だから! そんな言葉でだまされたりしないんだからな!」
「わ、私、初めてだったから、その……友達がこういうほうが男の人が喜ぶって言うから一生懸命練習して……」
いやまさか。でもほんとに?
「本当は恥ずかしかったし、気乗りしなかったけど、私、喜んでほしくって」
とうとう顔を両手で覆うようにして泣き始めてしまった彼女に、俺はかといって何の慰めの言葉をかけてやることもできず、どうしたものかと頬をかく。
「あー薫ちゃん? お、俺が悪かったよ。その、薫ちゃんの気持ちや努力も知らずに……」
ベッドから降り、しゃがみこんで彼女の背中をとんとんと叩いた。
「っク」
すると、グスグスと聞こえていた音はやみ、かわりに体が小刻みに震え始める。
「か、薫ちゃん?」
「ぶぁーか!」
刹那に見たのは彼女の拳だった。眉間を打ち抜く衝撃に、俺はあっさりと意識の手綱を手放した。
「……ん?」
体がやけに窮屈で、痛かった。
「あー目が覚めた?」
「この野郎! やっぱりだましてやがったな!」
気を失う前に見えた最後の光景に頭がスパークを撒き散らす。
「このやろ――?!」
俺は今、立ち上がったはずなのだが、いきなり何者かに首根っこを引っ張られ、ギシギシとベッドが軋ませるだけだった。
「なんだよこれ……」
「気づいた?」
両手は後ろで腕を組むようにして手首から肘までをぐるぐると巻かれ、その先は首元に伸びていた。なるほど、暴れれば首が絞まるようになっている。足はというと開かれた状態で棒のようなものにくくり付けられており、開閉ができない。
「な、何のつもりなんだよ」
「だからーかおるちゃんをいぢめた仕返し」
ニッコリと微笑みながら、どこから取り出したのか彼女は長いゴム手袋を装着し、俺に近づく。
「やめ……」
「痛いのは初めだけ。すぐによくなるよ」
「いやだ! いやだ!」
「ほら、暴れないの」
「やめてくれー」
「おらっ!!」
「あーッ!!」