Neetel Inside ニートノベル
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プラチナバード・ガール
パスト・アンド・ナウ(11.18.2012)

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 『“シャングリラ”第1宇宙港から中継です!ご覧ください!地球連邦軍・第3艦隊の入港に反対するデモ隊と警官隊の間で押し合いが起きております!第3艦隊は入港後このスペースコロニー“シャングリラ”を拠点としてXeon軍残党の掃討にあたるとしており、報復攻撃による“シャングリラ”への被害が懸念されております!地球連邦軍中将マロニー氏はこの懸念に対し・・・』
 「やれやれ、これじゃジャンク屋は商売がしづらくなるわね・・・」
 「どーして?」
 「あら、シャワーもう浴び終わったの?なんでかっていうと、連邦軍とコロニー軍とはね・・・」
 私がラジオのボリュームを下げながら振り向くと、金髪と細い体をびしょびしょに濡らしたアリスがたたずんでいた。全裸で。私のメガネがズリ落ちる。
 「てえぇ!?ちょっと!拭いてから来なさいよ!バスタオルは!?」
 「え?ほっとけば乾くじゃん」
 「そこから!?ちょっと、ケーブルが漏電しちゃうじゃないもー!まったくあーたって子は!」
 脱衣所に飛んでいってバスタオルをかっさらってくる。と、地べたに座っていた。
 「ほら!立って!拭いてあげるから!もーはしたない!」
 「ほっとけば乾くのに・・・」
 と言いつつ素直に立ち上がってされるがままになっているアリスだった。まったく・・・
 「まったく、親の顔が見てみたいわ・・・」
 と言って失言だったかと思う。この子は記憶がないのだ。
 「親かぁ・・・どんな人なんだろ」
 「たぶんきれいな金髪のお母さんでしょうね・・・いつか会えるわよ」
フォローになっただろうか。分からないが、金色の長髪をバスタオルで丁寧に拭いてやると、アリスは気持ちよさそうに笑っていた。

 アリスの正体は分からない。宇宙船の事故で脱出した市民かもしれないし、あるいは捨て子かもしれない。ただコールドスリープ容器のデザインや溶液からすると、もしかしたら連邦軍かXeonのPH研究所にいたのかもしれないと思う。というのもコールドスリープの溶液からPH用のナノマシンが検出されたからだ。
 PH(ポスト・ヒューマン)は第六感の発達した人間で、常人を遙かに上回る感覚の鋭敏さやエスパー能力さえ持つとされる。それゆえ発見当初こそPHは人類の革新などとも呼ばれたが、戦乱の時代の中でやがて戦争の道具として利用されることになる。今もなお戦乱は続き、PHは人体実験まがいの研究対象にされ、また戦争にかり出されている。
 だとすればアリスは逃げ出してきたのか?研究所から?その過程で不完全なコールドスリープにより記憶喪失が起こった?
 「ねーねークレアー!あっち人がいっぱい居るよ!」
 アリスがからみついてきて思考が中断される。食料の買い出しに市街地へ向かっているところなのだ。歩きにくいったらありゃしない。
 「あっちってどっちよ。てかあんた口に昼ご飯のケチャップついてるわよ!」
 ハンカチでアリスの口をぬぐいながら、疑似母親ぶりも板についてきたなぁ・・・とか嬉しいような虚しいような複雑な気持ちになっていると。
 「あっちだよー」
 指さした先はジャンクMS屋のガレージだった。アリスお気に入りの宇宙戦闘機がある場所だ。たしかに人がいっぱい居る。全員軍服を着ているが。あと軍用のジープが3台。どうも穏やかな雰囲気ではない。
 しかも囲んでいるのは
「コロニー軍じゃなくて連邦宇宙軍・・・?」
 各コロニーの独自軍と統一地球連邦宇宙軍ではロゴが異なる。ガレージを囲むジープにでかでかと描かれているのは地球連邦軍のロゴだ。
「なにしてんのかな?行ってみようよ」
「いや、さっさとあっちへ行くぞ」
 えー、とアリスが反抗するのを引きずって早足で遠ざかる。
 ここで見つかるのはまずい。私も、おそらくアリスも。

――――――――10年前
 
「こんなことはやめてください!オペレーター!実験を中止しろ!」
「止めるな!貴様TITANSに逆らうのか!宇宙棄民ふぜいが!」
 オペレーションルームは緊迫に包まれていた。憲兵は私にライフルを向けていて、私は刺し違えても腰の後ろの自動拳銃で目の前のTITANS高官を射殺することも辞さないと思っていた。
 当時地球連邦軍で実権を握るようになったTITANSと呼ばれる一派の将校は、当然地球連邦軍のPH研究所に影響をおよぼすようになっていた。当時私は連邦軍PH研究所で研究副主任を担当していた。TITANSが台頭しはじめたころから研究成果の催促が厳しくなっては居たものの、その日は特に異常だった。
 その日武装した憲兵10名を引き連れてやってきたTITANS高官はスケジュールでは数ヶ月後の予定だったPH能力開発実験をその日のうちに強行するよう要請してきた。いろいろ難癖をつけて強行を正当化してきたものの、今思えば主導権争いに敗北しつつあったあの頃のTITANSは焦っていたのだろう。
 私たちPH研究所はしかたなく一人の被験者の能力開発実験を開始した。当時のPH能力開発は肉体の改造と、薬物投与と催眠によるマインドコントロールをメインに行われていた。実験は順調に進み、薬物投与の許容量限界に達したとき、TITANS高官はそれ以上の投与を強制して、われわれに銃を向けた。憲兵は被験者にまで暴力をふるいはじめ、私はそれを制止して、高官に銃を向けようとしていた。
 腰の後ろに手を回し、自動拳銃を引き抜こうとする手が止められた。
「すみません。こいつはたまに気性が不安定になるんです」
 同僚の研究員だった。
 何を言ってる!私がまともだ!と言おうとして、後ろから憲兵に殴られて私は気を失った。あのとき同僚が止めてくれず、私が自動拳銃を引き抜いていたら、おそらく私は射殺されていただろう。
 私はそれがきっかけで研究所を抜け、被験者を逃がしたためにTITANSから追われる身となった。その追っ手から逃げるためにXeon残党にも手を貸したために、その後の作戦でTITANSが壊滅した今も地球連邦軍から追われる身となっている。

       

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