Neetel Inside 文芸新都
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文芸新年企画~執筆はじめ~
元日/BR

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 泥のような眠りから覚めると、世の中は嬉々としていた。
 野ざらしの笑顔、赤薔薇の生首、白銀の世界を映しだしていた十五インチの液晶は、新年を祝う文面、袴を着た芸人、ヘビのマスコットがここぞとばかりに占拠している。どうやら世間体では旧年にサヨナラと手を振り、新たな一年が始まろうとしているらしい。僕はこう言った行事にはとことんルーズな人間であり、他者から指摘されなければ今日が記念すべき新年一日目だとは気付かないだろう。液晶テレビが笑っている。
 さて、僕は例年通り今年も寝正月を過ごしている。実家から帰ってこいと言われることもなく、当然餅なんてものはなく、お年玉は恐らくひそやかに口座に振り込まれ、届いた年賀状も見慣れた眼鏡店の定型文だけ。昔から僕にとって正月は無いに等しい存在であり、意識したことも実感したこともない。日本の伝統行事など真っ向からサヨナラベイベーな僕にとっては一月一日という日付も単なる三六五の一つに過ぎないのだ。
 だるだるのスウェットで立ち上がる、テレビはそのままに台所へ向かって、棚に積み上げているカップラーメンから一つを無造作に取出す。消費期限は切れてない。ポットのお湯を注ぐ。料理する気はなし、外はまだどうせ何もやってはいない、となれば僕の見方は即席麺のみである。即席麺となら結婚できる気がする。
 割り箸で蓋を挟み込み、居間に置いた炬燵の上に置くと、僕は傍に置いた座椅子に座り込む。テレビジョンでは元日から芸人が上裸になって笑われている。あんな生活を送るくらいなら、こうして自堕落に過ごしている方が数段マシだ。まあ、この生活もそれほど有意義なものではないのかもしれないが。
 カップ麺が茹で上がるのを待つ間、僕は数少ない趣味に手を伸ばす。自前のノートパソコンの画面が映し出しているのは、「新都社」の文字。VIP発のWEB漫画WEB小説のサイトだ。僕はかつてこのサイトで連載をいくつか持っていた。が、それも今は昔、最近は碌な作品を書いておらず、適当な作品を上げては放置を繰り返していた。
 自分の作者名で検索を掛けると、いくつか作品が一覧に表示される。最後に更新したのはもう二年も前で、作者コメントには「次回更新は未定」などと書かれている。こういうコメントを書いた時は、恐らくもう書く気がない時だ。相変わらずやる気がなかったのだな、と僕は嘆息する。そして、何気なく自作のコメント欄を開く。
 すると、見たことのないコメントが、そこにはあった。
『面白いです。続き待ってます』
 僕の作品には珍しいコメントだった。しかも、投稿されたのはわずか一週間前である。全く数奇な人がいるものだ。大して人気のない僕の作品の、しかもこんな駄作にこんなコメントをするだなんて。コメントした人の顔が見てみたいものだ、全く。
「そんなことを言われたら、書くしかないじゃないか」
 この時は対してやる気はなかったと思う。だが、結果的にこの時軽い気持ちで小説の続きを書き始めたことが、かつての僕を取り戻すきっかけになったと考える。こんなひょんとしたことでも、人はやる気に満ち、生気を取り戻し、息を吹き返すことが出来るのだと実感した。
 伸びきったカップ麺が、笑っていた。

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 今年の抱負「とりあえず何か書く」

       

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