Neetel Inside 文芸新都
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「心が欲しいのです」
「○月×日の話」

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   「○月×日の話」


「そういえば、私貴方の下の名前を聞いていないわ」
「聞きたい?」
「ええ」
「大した名前でもないよ」
「大した名前とかそういうのはどうでもいいの。私は一生貴方を覚え続けなくちゃならないんでしょう?」
「ああ、そうだったね」
「じゃあ、教えてくれてもいいじゃない」
「じゃあ、一つだけ約束してほしいんだ」
「約束?」
「そう、約束」
「どういう約束かしら?」
「これはね、君の心を欲しがった理由でもあるんだ」
「もったいぶらないで言って頂戴」
「じゃあ、君はこれから絶対に『偶然』って言葉を言わないでほしい」
「偶然? 貴方、本当に奇跡とかそういった類が嫌いなのね」
「そうやって祖父に育てられたからね」
「いいわ、偶然って言葉は使わない。だから貴方の名前を、教えて」



「鵠沼××」



「やっぱり笑ったね」
「だってそんな……」
「今、言いかけた」
「言いたくもなるわ。こんな偶然そうないもの」
「……前も、君はそう言ったんだよ」
「どういうこと?」
「いいや、気にしないで。こっちの話だ」
「変な人ね」
「ともかく、僕はね」
「あら、貴方が僕って使うとなんだか変な気分ね」
「話の腰を折らないでくれよ」
「ごめんなさい、続けて」
「君は約束を守れなかった。だから此の話はこれ以上言わない」
「生真面目な人ね」

「でも、素敵じゃない」
「素敵?」
「私も貴方も、自分の求める結末に至るまでの道を求め続けた結果、交じり合ったのでしょう?」
「そう、なるのかな」
「とっても面白いじゃない。もっと早くにどこかで交わっていたら良かったのに」
「そうだね」
「だってそれでもし、もしよ? お互いが――」





   完

       

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