Neetel Inside 文芸新都
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拡散記
花束

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   18 花束

 半年ほど後に帝都はたんなる更地にされてしまっていた。私はその場所を訪れた。細い潅木がいくらか生えていて、それ以外の雑草は見られなかった。
 なぜか立ち入り禁止になっているごく狭い区域があって、鉄条網で封鎖されているものの内部になにかがあるように見えなかった。
 そこに立っている憲兵に話を聞くことにした。
「この中にはなにがあるんですか」
「わたしに聞かれても困る。わたしは無関係な人間だよ」
「本当ですか? ここの警備をしているのでは?」
「いや、違う」
「じゃあなんでここに立っているのですか。警備していると思われてもしかたないでしょう」
「どこに立っていてもあんたには関係ないだろう」
「たしかに」
「もう話しかけないでくれるかな」
「じゃあ最後に、この中にはなにがあると思いますか。推測でいいので聞かせてくれませんか」
「なぜだ?」
「いや、別に理由はないですよ。ただ参考意見として聞きたいだけであって」
「いいからどこかへ行ってくれ」
 私はその場を離れることにしたが、彼がどうも怪しいという考えは払拭しきれなかった。
 しばらく歩いて、石つぶてを彼に投げるという考えが浮かんだ。ところが石が落ちていなかったので残念ながら断念した。

 この国が現在どういった状況か、正直私には分からなかった。誰が統治しているのか、帝都はどうなったのか、今が何年なのか分からない。革命が誰かによってなされた後、すべてが不鮮明になった。すべての報道が一旦停止し日蝕があった。テレビでは延々と砂嵐が流れ新聞は来なくなった。そのあと都市から人が消えた。私は無作為に選んだ家から金銭を盗んで暮らしていた。
 ■■■は少年のままだった。たまに家に来ては酒を飲んでいた。彼は酔っているようには見えなかった。しかし彼の頭脳がアルコールや不眠に侵される等すると、ときどき家が広くなったり、逆に狭くなったり、音がぼんやりと聞こえたり、ひどく寒く感じたりすることがあった。彼にそれを聞いても、自分のせいじゃなく私の主観の話だと言われたが、どうも納得できなかった。

 その後どうやら三年ほど経過したらしい。私には二週間くらいに感じられたが、そうらしい。
 国家が解体されたと聞いたときも私はまだ実感できなかった。三つに分裂したらしい。革命党の出資者だった■■■■グランギニョールが、公演政治によって帝都のあった場所を統治し、■■■■劇場を名乗った。■■軍閥は帝都の西を管理することになった。私が住んでいる東側の区域は旧統治者だった貴族たちが■■■■教団と合同で支配し、■■■■自治区と呼ばれるようになった。
 私は劇場へ向かった。更地は大都市になっていた。
 ■■・■・■■・■と、背の低い老人がいた。老人は煽動官の■■■■■と名乗った。広場では人々が誰かを燃やしているところだった。それは悲鳴を上げないので人形に見えたがどうやら人間らしかった。少女■■は人間など肉でできた人形に過ぎないという趣旨のことを言った。かつて宮殿のあった場所には巨大な劇場があった。天井は遥か高く、そこには人工の月が浮かんでいた。劇場の端から端までは電車で五駅もあった。
 また誰かが死んでいる。首をギロチンで落とされていた。誰が殺されているのか尋ねると老人が、誰でもない人物だと言った。彼は殺されるときだけ存在している。どこかから来たのでもない。殺されるためだけに今だけそこにいるのだと。人々は熱狂しているように見えたが、大歓声を上げた一瞬後には恐ろしいほどの静寂がやって来る。誰もが忠実な演技をしているように思えた。
 劇場を出て帰るとき、皆が枯れた花束を持っていることに気づいた。あれは精神が荒み破綻していることを示しているのか、と少女に尋ねると、彼女はあらかじめ我々は全員そうなのだから、示す必要は無いと言った。

       

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