今時女性兵というのは珍しくなく、その多くは魔法使いである。そして運悪く私はその魔法使いと出くわしてしまった。
私自身、剣の腕には自信がある。たとえ相手が百人切りの勇者であろうと、大陸1の剣術家であろうと、はたまた剣士にとって不利と言われる槍の使い手であろうと遅れを取るつもりはない。
しかし、遠距離から岩石を吹き飛ばす火炎弾やら大木をネジ切る竜巻と真空波。人間を跡形もなく炭にしてしまう雷を放ってくるとなると話は別であり、先程まで身を隠していた大きな岩が例の火炎弾によって跡形もなくなっているのをみて寒気を覚える。
「抵抗しなければこの場は見逃します。武器を捨てて出てきてください」
何度も何度も敵に吐いた言葉を自分に当てられるとは……
「……出てきませんね。では、死んでもらいます。ウィンド」
魔法兵が魔法の名前を叫んだとき、反射的にその場に伏せた。これで難を逃れる絶対的な自信があるわけではないが、なにもしないよりはましである。突風が吹き荒れ、頭上ではヒュン、ヒュンと風が空気を、大木を切る音が聞こえる。木葉を揺らす音が小さくなった時、決死の覚悟でその場から飛び出す。運よく短時間で魔法兵を見つけることができた。彼女の顔は驚きと絶望で支配されていた。死の恐怖とプレッシャーから解放された喜びを感じると同時に魔法兵をその場に押し倒す。彼女が落とした魔法書を蹴飛ばし、自分に背を向ける形で組伏せる。
「これで形成逆転です」
魔法兵の少女に冷たく言い放ち、鞘から剣を抜き、彼女の首にあてる。
「まっ、待ってください。降参します。なので命だけは……」
戦令30条が頭をよぎる。看護兵又は戦う意思のない兵隊を無闇に傷つける、または殺生、凌辱、これをしないこと。しかしそんなものはここを知らない人間が作ったルールである。そして戦争はスポーツではないし、審判や観衆など存在しない。
「それはできません」
え!?という魔法兵に理由を聞かせる。
「あなたは強い。そして、あなたが怖いんです。もしあなたの気が変わり私を襲う……そう思うと……」
声と体が震えだす。彼女も一緒だ。
彼女が抵抗する素振りを見せた瞬間、反射的に首を跳ねていた。ビクンと脈打つ頭のない体。私はなにも見ていない。なにもなかったのだ。誰も見ていないはずである。頭では理解しているが私はその場から逃げ出した。逃げるように去ったのではない。誰にも見つからぬように、何事もなかったように都合の悪いことから逃げ出した。それだけである。