Neetel Inside ニートノベル
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ミシュガルドを救う22の方法
18章 赤い月のまつり

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 細目の富豪デスク・ワークはエリーザ・ブラックビキニとエア・チェアーとの試合結果よりも興行収入に満足していた。すっかり味をしめ、早くもより大がかりな大会を企画している。開催日が赤い月の19日であることから赤い月のまつりという名前に決定。
 武器持ち込みあり、反則なし、面白ければ何でもありという無節操なルールらしい。
すでに大会まで一月をきっている。
 本来の体があれば、優勝も狙えるだろうに。ないものねだりをしてもしかたがない。
 気持ちを切り替えて、できることをやるだけだ。
 下宿している安宿を出て、メゼツは裏路地をひた走る。闘えることがうれしくてしょうがないようで、どんどん走るペースを上げていく。伴走するうんちはおいて行かれるばかりだ。
 基礎体力を養うためでもあるが、それだけではない。
 ライバルたちの様子を偵察する目的もある。
 すでに対戦相手は決まっていて、SHWによって大々的に宣伝されていた。
 緒戦の相手は白兎族のプリンス、セキーネ・ピーターシルヴァンニアンだ。この辺りの貧民街に住んでいるらしい。なぜ高貴な身分のくせに、わざわざスラムに住むのか。なんとなく分かる気がする。自分も同じ気持ちだ。
 堅苦しい生活をしていると自由というものに強い憧れを持つものらしい。クノッヘン通り沿いの高級住宅地にでも居を構えようものなら、見知った貴族のお歴々とばったり顔を合わせかねない。それでははるばるミシュガルドまで来た意味がなくなってしまう。
 ふたりは意外なほど共通点が多い。どちらも前線勤務の経験があり、戦中は屋根のあるところで寝るほうがまれだった。木の枝に座って仮眠をとったこともあるし、塹壕の中で夜を明かすこともある。だからどんな環境にも適応することができた。
 メゼツはうんちをおいてきてしまったことに今更気が付いて、もと来た道へ折り返す。セキーネがどこに住んでいるのかを調べたのはうんちで、メゼツは知らない。追いついたうんちに道を尋ねると、息を切らせながら教えてくれた。
 うんちが指さす木造平屋のあばら家から、深い息をつく音が聞こえる。半裸のセキーネが精神を統一し、軍隊格闘の型をとっている。その一挙手一投足に無駄がなく、まるで舞のように優雅だ。鍛え抜かれた白兎人の裸体は、男でも見惚れるほどに美しい。つい足を止め見入ってしまった。
「ついにみつけたよ!」
 別にやましいことをしているわけではないのに、焦って振り返える。
 セーラー服にポニーテール。猫耳だがこれは飾りだ。この少女にずいぶん前に会ったような気がする。
「エルフの女魔導士についてばっちり調査してきた」という言葉で、ようやくこの情報屋にニフィルの調査を依頼していたことを思い出した。
 しかし、もはや状況は一変している。ウンチダスに憑依してアルフヘイムや獣神帝をスパイする任務を課した前皇帝は、すでに鬼籍に入っている。いくらニフィルがアルフヘイムの重要人物でも、いまさら現皇帝に報告するまでもない。
「いや、待てよ。トーナメント戦だから、一回戦に勝ち上がれば、二回戦は腐森の巫女とあたるじゃねーか。ニフィルの情報を聞かせてくれ」
 自分の調べてきた情報に価値を見出されて、情報屋の伊予国えひめは鼻高々に話し始めた。
「エルフの僧兵長メラルダさんの機密データ入手したよ! バストはDカップくらい、特定の彼氏はいません!」
「は? おれはニフィルを調べて来いっていったんだぞ!! 全然機密データでもねーし」
「しかもメラルダはCカップですよ。情報屋としてまだまだですね」
「うわっ、いつのまに!!」
 セキーネは音もなく傍らに立ち、想像で大きさを比べるように両手でわしわしと空をつかんだ。
 えひめははぐらかそうと強引に話題を変えた。
「だって魔法の知識に精通しているエルフと言う話だったから……それよりも赤い月のまつりはトーナメント戦なんですよね。幽白の最終回みたいに優勝者が王様になるのかな?」
 メゼツは伊予国えひめが異世界から来たことを知らない。当然幽遊白書も知らなかったがゆえに、優勝者が王様になるという言葉に新鮮な驚きを感じた。
「でかした、!!」
 うれしそうにメゼツはえひめの肩を叩いた。
 メゼツは闘うことが好きだったが、けして戦争好きではない。生まれる前からずっと続いてきた戦争はメゼツが死んだ後に終わったらしいと聞いている。70年もの戦乱は決着が着かず、一千万とも二千万とも言われるしかばねと、憎しみだけを残した。それが戦争だと言えばそれまでだが。
 あの戦争はなんだったのか。メゼツなりにずっと考え続けていたが、納得のいく答えはいまだ出ていない。
 強いものが王になれば良い。野生の時代まで原点回帰するシンプルな答え。これこそ求めていたものだった。
「強いものが王なり皇帝になり、争いは各国元首同士のシバきあいで決着すればいい。そうすれば死人も憎しみも最小限ですむ。さしあたっては、赤い月のまつりの優勝者をSHWの大社長にしたらどうだ?」
 世紀の大発見でもしたようにメゼツは純粋に喜んでいて、うんちは言いにくかったが、言わなければならなかった。
「難しいと思います。結局権力者が強い人間を傀儡にしてしまうのでは」

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┃>SHWの優勝者を大社長にする ┃→最終章 世界を救う16の方法 へすすめ
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┃ SHWの優勝者を大社長にしない┃→最終章 世界を救う17の方法 へすすめ
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