自分の好きなものを食べ、好きなテレビを見て、好きな詩を綴る。
こうして私は終える。全てに満足して、そうして終わる。
後悔は無い。来ると分かっていたものだし、歯向かうことの無意味さも知っていた。
来たるべき絶望を前にして、私はしかして希望する。
唯一無二の、それが精一杯の反抗。
誰が悪いわけではない。私だって悪くない。
責めるべき相手を見つけるべきものではないのだから、心の内はまったくといっていいほどに揺らがない。
投じられた巨石に反し、水面はちっとも波打つことがなければ飛沫を上げることもしない。
―――ああ、こんなものか。
最期まで希望することを抵抗と、反抗としながらも。私は思いの外、自身に絶望していた。
喉が裂けるまで叫びたかった、頭を掻き毟って泣き喚きたかった。
死にたくない、死にたくないと。
無様に生に縋り付きながら終えたかった。
だが、いざその時を迎えてみればどうだ。最期の晩餐に丁寧に舌鼓を打ち、画面に流れる映像に曇りない笑みを浮かべ、ふと思いついた詩をノートに書き連ねては満足している。
満足している。
―――こんなものか。私の人生はこんなものか。
違うだろう。そうじゃないはずだ。何かの間違いではないか。
空が燃えている。深紅色の天空が絶望を撒き散らしていく。外は阿鼻叫喚の大騒ぎ。醜く顔を歪ませながら、空を見上げ救済を乞う人達。
何故、自分がそこに含まれない?
もっと、あるだろう。やりたいこととか、遺恨とか無念とか心残りとか。死ねない理由があるだろう。
どうして私は、こんなにも穏やかに絶望を受け入れている?
どうして私は、こんなにも嫋やかに希望を払い除けている?
―――そうか。私は、そうだったのか。
考えに考えて、全ての終わりを間近に控えて、ようやっと理解に至る。
所詮そんなものだったのか。
願う未来が無かった。
望む結末が無かった。
希う世界が無かった。
私という人間は、こうなる前にとっくに終わっていたのだ。
―――道理で。縋れないわけだ。
窓から見える終末の景色は、とても鮮やかで美しく見えた。
宙より降る紅色の災厄。星を滅ぼす大隕石。
最愛の女を娶り、子を持ち、満ち足りた世界を創り上げたと思っていたけれど。
―――その実、私には何も無かったわけだ。
空っぽの心には、生命の終わりも世界の終焉も、絶望とすら捉えられなかった。
ここまで生きて来たはいいけれど。結局のところ、
―――最期まで、
何かが欠けていた男は、地上を吹き飛ばす炎と衝撃に見舞われる一瞬まで、小首を傾げたまま咀嚼を続けていた。