世界が終わるとき
弁当
僕は憮然とした顔つきで次から次へと箸を動かし弁当を食べていく。美味いかと聞かれると正直微妙なところだ。不味くはないというのが正解だろうか。そもそも八割が冷凍食品のこの弁当に美味いも不味いもない。唯一作ったものといえばこの白飯ぐらいだ。昨日の夜、自分で炊いたのだが。
僕の家には弁当を作ってくれるような人はいない。滅多に顔を見せない母親がわざわざ僕のために弁当を作ってくれるはずもない。最後に会話をしたのはいつだろう。覚えていない。
そんなことを考えていると視線を感じた。もちろん関根礼香のものだ。彼女は僕の顔をジッと覗き込んでくる。食事中に顔をじろじろ見られる、はっきり言って不快だ。眉をひそめて一旦箸を止める。それに気が付いたのか彼女はいきなり話しかけてきた。
「おいしくなさそうな顔をしているね」
「悪い?」
「別に?」
「ならいいじゃないか、人の顔をじろじろ見るのはマナー違反だと思う」
「まぁ、細かいことは気にしない」
「…………」
とりあえず無視して食べ続ける。
関根はにやりと嫌な笑みを浮かべるとこういった。
「私はね」
「うん?」
「てっきりあなたが私に気があるものだと思っていたけど……」
「つまりなんだ、僕が君のことを好きと」
「そう、でも、違うみたいね」
「…………」
何が違うのか
そう尋ねようとした瞬間、彼女は答えた。
「あなたはその世界の終わりにしか興味ないのね」
「そうだな」
「フフフ、面白い人」
「何が」
「初めて会った、君みたいな人」
「…………」
「面白い」
それは失礼じゃないか。
そう言ってやろうかと思ったが、あまりに無邪気な彼女を笑顔を見ると何も言えなくなってしまった。別に絆されたわけでも惚れたわけでもない。ただ、世界の終わりが目の前にあるみたいで、何も言えなくなってしまうのだ。
その後は彼女の話を聞くだけで昼食の時間は終わってしまった。