不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
12・オマーン国債公開処刑
●
オマーン国債(PN)は激怒していた。
必ず、かの厚顔無恥の牧野ヒツジに一泡ふかせようと決意した。
ここ数日、新都社は『雲海のフーガ』のコメントで溢れかえっている。
オマーン国債は抵抗を試みようと叩きコメントを入れるのだが、あっという間に絶賛コメントに埋没し、コメント返信は相変わらずスルーされ続けている。
オマーン国債は
(こうなったら……『長いものに巻かれる作戦!!』)と考えた。
(この色気で牧野ヒツジをたらしこんで付き合って、賞金全てを貢がせてやる!)
(なーに相手は童貞クソ野郎、百戦錬磨のアタシにとっては赤子の手をひねるようなもの)
(確かオフ会で、ヤツはこの駅を利用しているとか言ってたな……)
そういうわけで、ここ数日オマーン国債は牧野ヒツジ宅の最寄り駅を張っていた。
「いたっ!」
オマーン国債は駅前広場のベンチに一人座る牧野ヒツジに近づいた。
「あらー↑? 牧野さんじゃないですか! 偶然ですねー」
牧野ヒツジは振り返り
「え? オマーン国債先生?
すみません。この前のオフ会、途中で帰って…」
「そんなそんな! いいんですよぉ!
突然の受賞ですから混乱したのでしょう、分かりますよ~
あら! 髪お切りになった?
ヤダこうして見るとすごいイケメンじゃないですか!!」
「プロの方に切ってもらって……
そんな事より、どうしたんです? こんな所で」
「ええ、ちょっと仕事で偶然きてて」
牧野ヒツジの隣に座り、腰を密着させて胸をぐっと押し付ける。
(けっ! 顔を赤くしやがってイイ反応するじゃねぇか)
「牧野さん、凄いですね。カミナリ大賞のサイト見ましたよ!
もう、カミナリマガジンの立派な顔じゃないですか!
おめでとうございます!」
「うっ!見たんですか?
いや、なんか出版社さんも、期待値だけあげすぎちゃって」
「でも分かりますぅ! 牧野さんってば何か持ってる感じするもの。
実はアタシも、オフ会で会った時から先生のこと気になってて……
ホントは仕事というのは嘘で先生にお会いしたくてここに来たんです」
「え? どう言うことですか?」
「あの、もし良かったお付き合いとかしたいなって…」
「?」
(すっとぼけんじゃねぇよ)
オマーン国債は牧野ヒツジの耳に吐息を吹き掛ける。
「つまり、牧野さんのカノjy…」
その時、駅舎内のコンビニから田所澪奈と栗栖エリナが出てきて、
「あら? 牧野先生……
そちらはどなた?」と尋ねた。
牧野ヒツジは
「ああ、こちら新都社のマンガ作家さんです。
オマーン国債先生です」と紹介した。
澪奈とエリナの表情がこわばる。
「オ……オマ……ン」
「こ……くさい?」
(うがぁぁああ、このクソばか童貞、人をペンネームで紹介するなァァア!!!)
オマーン国債は、スーツ美人とブロンド美少女が汚物を見るような視線を自分に向けていることに気がついた。
二人は
「そうなんですか。どうも、はじめまして……」とそっけなく挨拶をした。
牧野ヒツジは
「で、こちらはカミナリマガジン編集の田所さんと……えっとイラストレーターの方」
(な、なに大手出版社づとめで美人かよ。で、こっちがイラストレーターで金髪美少女だと?
FU・ZA・KEN・NaaaaAAA!!)
オマーン国債は牧野ヒツジにさらに密着して
「そうなんですかー
実は私たち付き合っ……」
ギロリッ!!
スーツ美人がコメカミに血管を浮き上がらせ
「つきあっ!?」と聞き返す。
(やけに鋭い目で上から睨むんじゃねーよ……怖ぇえだろ)
田所澪奈の目力にまけて、目線をそらした先にショーウィンドウがあった。
そこには抜群のスタイルの美人と美少女、そして胸だけは強調しているが寸胴、短足の自分の姿の対比が……
(これが、こ…公開処刑……)
回りを行く人々の視線が心なしか痛い
(絶対に見比べられてりゅ……)
ブロンド美少女は
「ほら早く牧野先生、お菓子と飲み物を買ってきましたわよ! さぁさぁ打ち合わせするんでしょ!時間が無いですわ」と言ってオマーン国債との間に割って入り、牧野ヒツジを立ち上がらせる。
美女と美少女が牧野ヒツジの両脇を抱えるようにタクシー乗り場へと向かう。
…ボキリ
オマーン国債は自らの心が折れる音を聞き、精神的敗北を覚えた。
そして涙を数滴こぼしながら脱兎のごとく走り去った。
オマーン国債の背中に牧野ヒツジの声が響く
「オマーン国債先生! ろくにお話しできなくてゴメンなさい!
またオフ会ででも…」
(だから衆人環視の中でペンネームを叫ぶんじゃねぇぇぇ!クソクソクソ!
なんであんな童貞バカちんなんかに恥をかかされなきゃなんねぇんだよぉぉぉおお!!)
●