不人気叩かれ文芸作家の僕がプロデビュー…
13・初めての共同創作
僕はアパートの鍵を開けながら澪奈さんに
「本当にうちでやるんですか?」と最終確認をした。
「うちで打ち合わせ! 先生、冗談うまーい」
そう言って澪奈さんは僕に体をすり付けて来る。
ウサロック先生ことエリナさん……もとい、エリナ登場からやたらとボディタッチが多い。
エリナは
「小説だけでなく作者の普段の生活を見なければ作品世界は描けません。
作品の世界観とは作者の部屋そのものですもの」と答える。
僕は
「幻滅すると思うけどな……本当に何もない部屋だから」と告げた。
もういっそ見放されてしまいたい気分になっていた。
あまりにもみんな買いかぶり過ぎてる、冷静に見てもらいたい、そう願いを込めて二人を部屋に入れた。
澪奈さんは
「あたしは二度目だもんね」とエリナに勝ち誇るように言いながらパンプスを脱ぐ。
エリナは
「澪奈!ばっかじゃないの!」プイと顔を背けてスニーカーを脱いだ。
うっ、怒った顔もメチャ妖精さんで美しかわいい。
アパートに上がったエリナは
「一人分の食器にテーブルだけ……でこっちはキングサイズのベッド……こんな部屋初めて見たわ、さすが凡百の作家とは違いますね」
僕は
「はは、つまらない部屋でしょ。彼女もいないし貧乏だから何も無くて」
こんな美少女に寂しい生活を見られるなんて……僕は急に自分の生活が恥ずかしくなった。
エリナはごろりとベッドに寝転び
「良い匂い、先生はいつもここで寝てるのね……」と呟いた。
うっ僕のベッドに金髪碧眼の美少女が…? でも良かったー昨日布団を干しといて。
エリナは枕元においてある本を持ち上げ
「あっ!本当にあたしの画集がある! 感激!」と叫んだ。
「そりゃもちろん! ウサロック先生の画集を見るとすごく創作意欲が湧くからいつも見てます」
「厳選された品での生活に、あたしの本を置いて下さって光栄ですわ。
何もないこのお部屋からあんな傑作を産み出すなんて先生は正に創造神ですわ!!」
厳選された品での生活…ものは言い様だなと苦笑いして頭をかいた。
澪奈さんはこたつテーブルに買ってきた飲み物とお菓子を並べ手を叩いた。
「はい、じゃあ打ち合わせしましょうか」
エリナはベッドから飛び上がり、キラキラと瞳を輝かして持ってきた鞄から大きなiPadを取り出し
「♪せんせい先生セーンセイっ!!!
昨晩『雲海のフーガ』のイメージ画を描いてみましたの。受賞作と世界観が繋がっているって聞いたから利用できるでしょ!
ねっねっね、ちょっと見て下さい!」
「え!? 本当ですか! 嬉しい」
僕はipadをのぞき込んだ。
「す…凄い」
もうキャラ表、イメージボード、タイトルロゴまである!
絵が上手くクオリティが高いのはもちろんだが、僕が思い描いていた通りの世界が高密度で再現されている。
しかも憧れのウサロック先生に自分の世界を描いてもらえるなんて光栄の極みだ!!
エリナは
「まだ落書き段階だから、イメージに合わないでしょうが、叩き台ですので何でも言って下さい!
すぐに修正します」
「これが落書き? もうすでに芸術の域だよ!!」
「嬉しい!先生に誉めて頂けるなんて!!
でも、ほらほら何か無いんですか?」
「えっとじゃあ、受賞作にはヒロインのトアーの母親の若い頃が出てくるんだ。それをまず見てみたいんだけど…」
僕は口頭でキャラの説明をした。
エリナはふんふんと言いながらささっとiPadにペンを走らす。
わずか数秒で素晴らしい絵が現れる。
「先生どう?」
「凄い…」
「えー何かイメージと違うところとか無いんですか?」
「えっと、僕が説明していないのが悪かったんだけどピアスをしていて……」と追加説明をする。
ふんふんとエリナは僕の説明を聞きながら素早く修正してゆく。
「わっ!すごい!!これだよこれ僕が想像した通りだ!」
「嬉しいです!」
こうやって人と創作するのってなんて楽しいんだ!
その時ガチャリとドアが開いた。