Neetel Inside 文芸新都
表紙

まほうつかい おんな レベル1
★賜りしファンアート★ + ○月×日 ライトニングシンドローム

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     (読者ページにて、sar様より頂きました)

     


     

 たぞ!
 さすれば、私の次なる一手は言わずと知れたことなります。――参りましょう。
 この手にたずさえし猛きいかずち、今こそ解き放たれん!
 えい。

 わたし は いかずちのつえ を ふりかざした!

 しかし なにも おこら

 うん。まぁモップ。知ってる。これ。モップ。床を、拭くやつ、です。
 まったく。誰ですか。強く信じれば願いは叶う、とかのたまった人は。
 信じたのに。今、ふりかざした時、ちょこっと。こころもち強めに。これは、いかずちのつえだ! 私、信じたよ……?
 されどモップ。きわめてモップ。叶ってない。床を……綺麗にするやつ……です。
 いかずちのモップくらいには、なってくれたっていいのにね。
 かといって、もし見事に

 つえから いかずちが ほとばし

っちゃってたら、それはそれで悲劇でした。位置の関係から、向こうでグラスを拭いているルイーダおばさんへ、いかずちまっしぐら。クリティカルに直撃。……酒場が、血に染まった。そんな見るも無惨な光景が広がっていたやもしれないのです。あぶないあぶない。あやうく棺桶屋のご厄介になってしまうところでした。
 それに。これがモップで良かったんじゃないかとも思えます。これがほうきじゃなくて救われたな、と。ほうきは、たいへん都合がよろしくありません。私は親を質に入れようともあれだけはふりかざすまい。自分にきつく戒めているのです。
 だって、ほら、あれ装備して歩き回ると、私のニュートラルポジションがまほうつかいから一転して、まほうおばば寄りに近づいてしまうじゃないですか。あの方たちの、あの見事なベギラマっぷりは多少なりとも尊敬に値しますけれど、まだまだ育ちざかりたい齢14にして 「おばば」 呼ばわりで生きていくのは、さすがに重たい。犠牲になるモノが、でっか過ぎるのです……。
 ていうかあいつ魔物だし。人と会うたびいちいち、まほうおばばA が あらわれた! ってなります。A。私はA……。時としてB……。その上いつも 「ウケケケーッ」 とかそういう感じに笑わなきゃいけないなんて。過酷ですよ。はい。やはり。モップで良かったのでしょう。

 ガラハドさんも……。もし念願がモップだったら、命ごと奪いとられる事はまずなかったでしょうに。まっこと惜しい人を亡くしたものです。心よりご冥福をお祈りいたします。黙祷。

「お掃除終わった?」

 ルイーダおばさんから質問が届いたので、ぱちり。黙祷おわり。

「ううん。ぜんぜん」
「じゃあ、あなたは、いま、そこで、なにを、していらっしゃるのかしら?」
「しいて言うなら……命の儚さに思いを馳せてございます?」
「働きなさい」
「はい」

 仕方が無いのでせっせとお掃除を始めます。
 小作人の気持ちで、せっせ。はたらきアリの気持ちで、せっせ。
 うーん。しかしこうも毎日掃除ばっかりだと、あまりやる気出ませんよねー。飽きますよ。飽きる。商い中なのに、飽きる……!
 わあ、なんて陳腐なとんちでしょう。びっくりするくらいどこかで聞いたことありそう感。しかもちょっとオヤジくさいです。笑点くさいです。私、なんでこんなの思いついちゃうんだろう。イヤだなぁ。おばさんの余波かなぁ。
 ルイーダおばさん (地主にして女王アリです) は、静かにグラスを磨いています。いつもと変わらぬ慣れた手つきで。キュィッ。キュィッ。と。まだお客さんのいない酒場に、摩擦音が響いています。甲高い、でも、なんだか嫌いじゃない音です。
 ……。
 キュィ……キュィ……キュィ……。
 あれ……いいな。

「はい! はい!」

 手を上げて、大きな声で、はっきりと。「はい!」。これは意見を発表する時のルール。
 ふふ。我ながら優等生っぽいです。これは3-Bに入れるかも。

「はい、そこのまほうつかい。なに?」

 キンパチにキの字にもなれそうにない人が、すぐに私を指差してくれました。

「たまには仕事を交換しようよ。私そっちがいい。グラス磨くの、やりたい」
「ダメ。このグラス、高いのよ」

 なるほど。壊すの前提。私、落とす。グラス、割れる。決められた未来。なるほどー。
 ひっどい。よくわかりました。おばさんは、私を、なにひとつ信頼していない。

「はい! はい!」

 ならば反論。私は再度ハンドアップします。

「はい、そこのまほうつかいもどき」

 人をモシャス後のマネマネみたくゆうな。あるいはがんもどきっぽくゆうな。

「このモップだって、高いんじゃないかな」
「残念。それ5均。5ゴールド均一」
「うそ。安っ」
「よくわかったわね。ずばり嘘よ」

 ……なんなのでしょう、この人。
 どうにも口じゃ勝てないです。昔の人は言いました。青は藍より出でて藍より青し。立場的に、私は青色。おばさん藍色。しかし勝てない。藍より青せない。
 こうなったら、もう実力行使しかありません。

「はい! はい! はい!」
「……はい、そこのかわいいウェイトレス。どうぞ」

 とうとうまほうつかいですらなくなってしまいました。屈辱! はなはだSHIT! です。
 でも、かわいいって付いてたから、ちょっと許します。

「決戦しよう!」
「は……?」

 私は握り締めていたモップを果たし状とばかりにずいと突き出し、

「負けた方がお掃除! 勝った方がキュィキュィ!」
「…………」
「いざ!」

 おばさんはしばらく沈黙したのち、ハアア。盛大な、想像を絶する大溜息を放つのでした。
 そして、見るからにしぶしぶと、“状”を受け取ってくれました。

「本当、駄々っ子なんだから。それで、勝負の方法は?」

 あ。考えてなかった。
 とりあえず、肉弾戦だけはパスです。なにせ私の非力さ加減は相当折り紙つきですので。
 出来れば、運だけで雌雄が決しそうなジャンルで戦いたいところ。

「じゃんけん、とか」
「つまらないわね……。じゃ、トランプでもしましょうか」
「あー、いいね。うん。それにしよう」

 私がうなずくのを見て、どこからともなくトランプの箱を取り出すおばさん。

「ポーカー、分かる?」
「もちろん。知ってるよ」

 ポーカー。カジノ。秘密の数字838861。不思議な不思議な4ゴールド。です。
 まぁ、私にはほぼ関与しない話なんですけれども。

「決まりね。勝負は一回」
「おーけー。いざ。尋常に!」


* * * * * *


 その後色々あって、色々省略し、結果だけ言うと負けました。
 私が繰り出したスリーカードは、あわれあっけなく散ったのです。私渾身の、7のスリーカードは……。

「惜しかったわね」

 クスクス笑うルイーダおばさんの前にはA、A、A、A、そしてジョーカー。綺麗に並んでいます。ファイブカード。事もあろうにエース。向かうところ、敵なさ過ぎ。
 すごーい! 初めて見たー! ……ていうより、ねえ、いつ仕込んだ? ねえ。これ、絶対 イカサマしたでしょ? こんな果てしないもの、出るはずないじゃないですか。たとえ、おばさんが世にあまねく名の知れたあそびにんで。たとえ、うんのよさが255だったとしても。出しちゃいけません。
 ……ぬかりました。この人が尋常なわけがなかった……。

「私、おばさんはきったないと思います」
「そお?」
「えっげつないと思います」

 子供相手にイカサマ駆使して叩きのめすとか、どーゆう大人ですか。野生の獅子より、子に優しくない。“おばさんは我が子を千尋の谷に突き落とすのに全力を尽くす”。私は ふかく こころに きざみこみました。いずれ必ずかしこさのたねならぬやさしさのたねを一服盛りたいです。

「私はね、勝てる勝負しかしないのよ」

 さらり外道。
 それ、カモとしかやらないって事じゃん……。鬼。悪魔。アクデン。
 いつの日か私が人を信用できない大人――家を訪ねてきた勇者に、有無を言わさず 「帰れ帰れ!」 って言うタイプ。初期ホフマン?――になってしまったら、それは十中八九この人に由来しています。

「もういっかいだけ、付き合ってあげようか?」
「……いい」
「そう。それじゃ、はい。これ返すわ。この子も、やっぱりあなたが良いって」

 おばさんはこの日一番の素敵な笑顔を浮かべては、それなるをずずい。私の手へと握らせるのでした。「お掃除。頑張ってね」
 
 ……おかえりなさい、モップ。私の、私だけの、いかずちのつえ……。
 一緒に戦おうね。床と。

       

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