Neetel Inside 文芸新都
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ロリコンリロード
ロリとの遭遇(1)

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俺は捕まった。
何をしたかって?
妹とたこ焼を作ってただけさ。
だが世間は俺を人では無いと呼び、
法は俺に四十年の服役を命じた。
俺は………俺は一体どうすれば良い?

俺にはわかる。
やったのは奴等だ、奴等しかいない。
だがどうする?この鋼鉄の箱からどうやって抜け出す?
どうする英雄、考えてみろ。

『識別不能』

『識別不能』

新しく入ってきた囚人が、外の様子を教えてくれる。
俺の想像していた通りだ、奴等はやりやがったんだ。
フン、『ロリータコンプレックス』か、まだ弾はある。
手始めに刑務所の制度を変えた事を後悔させてやる。
周りは味方だらけだぜ。




「………」

俺はゆっくりと書類を机に投げると、早朝に水でセットした髪をクシャクシャにした。
白髪交じりの汚い髪が垂れ下がる、剃り切れていない髭がアゴを覆った顔。
我ながら酷い風貌だ、などと思っていると、脇から綺麗な腕がニュッと出てきた。
手にはこれまた、上品なカップに入れられた熱そうなコーヒーを持っている。

「デッカードさん、美味しいですよ」
「お前が美人ならもっと嬉しいんだがな、チェン」

悪態をつきつつも、そのコーヒーをゆっくりとすする俺。
それを嫌そうな顔一つせずニコニコと眺めるチェン。朝の何時もの風景だった。
小奇麗な部下に旨いコーヒー、これだけ聞くと、なんだか優雅な朝に聞こえるが、
しかし実際は毎朝毎朝、恐らく、この時間帯は俺にとって朝一番の重労働なのだ。
もしここに署長が居たらば、優秀な後輩を茶運びに使うな、なんて怒られる。
俺は朝っぱらから他の課の若い奴にクスクス笑われながら、嘲笑と罵倒を浴びる。
居なければ居ないで、ゆっくりとコーヒーを飲みながら仕事が進められるものの、
真面目なチェンによる一息もつかないお世話が待っている。
受けた側である俺が最後にはドッと疲れてしまい、世話の意味が全く無い。

「デッカードさん、朝ごはん食べて無いでしょう?
 サンドイッチとかオニギリとか作ってきましょうか?」
「いや、朝はいつも抜いてるから………」

そして今日はどうやら後者の様だった。いきなり朝ごはん要ります?、だ。
大体、なぜ買いに行くんじゃなくて、作ってくるんだろうか?
たまにこいつは、もしかしてアッチの気があるんじゃなかと不安になる。
真面目で優しそうな内面と、それがそのまま外見になった様な男だ。
何かと俺につきまとってくるが、友人も恋人も幾らでも作れるだろうし、
仕事の手腕もそれなりのモンで、頑張れば昇進だって可能だろう。
なのに毎朝毎朝、なぜ俺の様な落ち目の中年上司に会いに来るのか。

「あ、もしかしてまた水で髪をとかしたんですか?
 前に整髪材、買ってあげたじゃないですか」
「………チェン、お前この書類の男、どう思う?」

俺は書類を指差して、チェンのマシンガントークならぬ、マシンガンお世話を止めた。
一時的ではあるだろうが、せめてコーヒーを飲む間くらいはゆっくりしたい。
チェンも流石に俺の質問を無視する訳にもいかず、書類の方に視線を向ける。
俺がズズズとコーヒーをすすり、ほんの少し、沈黙が流れた後、
チェンは飽きれた溜息を吐く様に話し出した。

「知ってるも何も………『ロリータコンプレックス』の元祖じゃないですか」
「まだ捕まってないんだってな」
「そんな他人事みたいに………」

『ロリータコンプレックス』―――『幼児性愛』。
十代前半、時にはそれ以下の年齢の少女に性的な欲情を持ってしまい、
その結果、道徳的な思考が出来なくなり、様々な精神疾患を伴う病気だ。
現在では『精神のエイズ』と呼ばれている。通称『ロリコン』。
そしてその元祖こと、発病者第一号として認定された『草薙 勝』。
奴は第三次世界大戦中、ニホン空軍のエースパイロットとして活躍した英雄だったが、
奴の部屋から女児の腐乱死体が発見され、殺人、死体遺棄で有罪となった。
これによって世論は幼児性愛者の弾圧へと傾き、ニホンの司法機構も法の見直しを迫られ、
結果、『ロリコン』は重度の精神病として認定される。
そして奴は発症者第一号として、医療刑務所での無期懲役を言い渡された。
世間では幼児性愛を感じさせる書物や映像が押収、規制される………。

「重青年犯罪対策課の課長さんの担当じゃないですか」
「ふん………こんなボロの机一つだけの課が何処にあるって?」
「デッカードさんが真面目に働かないからですよ」

チェンの言った通り、俺は重青年犯罪対策課の課長だ。
だがこんなのは、言わばあってもなくても良い様な課であり、
やる事と言えば、軽青年犯罪対策課の手伝いで、チンピラに禁煙を勧めるぐらい。
本来ならビデオや雑誌など、裏で回っている幼児性愛物を押収したりもするらしいが、
そんなのは本庁がやる事で、基本的にこっちまで仕事は回ってこない。
発病者が発見された場合も、現場で逮捕劇を繰り広げるなんて事も無く、
現場付近の聞き込みや、証拠物件の収集だとか、要するに雑用しか来ない。
他の課の邪魔にならず、経費もかからない、ただのお飾りポスト。
それが青年重犯課だった。

「働くたって、青年重犯で何する事があるんだ?
 どっかのドラマみたいに凶悪犯が身近に居たりするのか?」
「そ、それは………そもそも若い頃に真面目に働かないからですよ!
 だから署長に睨まれる様になって、こんな地位に付けられたんです!」
「………」

思わず言葉に詰まってしまう。それはチェンが珍しく大声を出したからじゃ無い。
もっともだったからだ。 若い頃に刑事としての下積みを全部放り出してしまったのは俺だ。
聞き回りや、現場百回、調査書の提出など、面倒くさかったのだ。
それらを全て放り投げ、下の方で楽に暮らしているのは俺だったのだ。

「………そうか、そうだな」

妙に納得してしまって、俺は静かに返事を返した。
チェンは、俺の様子を見て、言いすぎたかなといった雰囲気に見えたが、
署長の姿が見えると、中途半端なお辞儀をして、自分の課に戻っていった。
チェンは結構怒ったかもしれない。あいつは努力を惜しまない奴だ。
目の前の上司が努力もせずに自分の愚痴は流す様は、流石に見るに耐えなかったのだろう。
後で謝るとしておこう、などと思いながら、俺は外回りの為に署を出て行った。

       

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