署を出て数メートル歩いた所で、さて、何処に行こうかと迷ってしまった。
考え直すと、警察署に居て一日中、窓から外の景色を眺めていても良かったかもしれない。
戻ろうかと考る。しかし最近、何故か署長が青年課の部屋を見に来たりする事が多かったので、
やはりこのまま何処かに行ってしまおうと決めた。
ギャンブル館に、飲食店、公園に屋台街など、色々と候補は挙がったが、
結局、いつもの様に端末カフェに行く事になった。
署から地下鉄で二駅分の距離で、無造作に立ち並ぶビル郡が見えてくる。
その中から小さな青のビルがヒョッコリと顔を出していた。あれが端末カフェだ。
さらにその青ビルからヒョッコリと婆さんが顔を出している。
「マルボロ一枚」
「あいよ」
ここのオーナーはこの皺くちゃの婆さんで、煙草屋と兼業でやっている。
しかし今時、シガーガムなんて駄菓子を買う奴は居ないし、その上に端末カフェだ。
今や端末が設置されていない場所と言えば、機械も拒否する自然愛護団体の事務所か、
ホームレスのテントぐらいで、端末カフェも最盛期に比べればその数を半数以下に減らしたと聞く。
この青の端末ビルも最近では滅多に客が訪れず、何時潰れてもおかしくない雰囲気だった。
階段を上りながら考える。本当にこの婆さん一人でやっていけてるんだろうか?
いや、もしかしたら、大富豪の親類が居て、そいつ等のお陰で細々とやっていけてるのかもしれない。
そう言えば、何処と無くどっしりとした感じで、気風漂う………。
『一時間毎ニ、五日本ドル、ト、ナリマス』
「え………あ、ああ、昼食パック………」
『アリガトウゴザイマス、本日ノ、献立ハ、和食デス』
「………」
このボロの旧式ロボットと、階段のヒビが入った土壁を見ていると、
やっぱりただの婆さんの様だった。俺は個室にそそくさと入った。