死体を喰うケモノ
二日目(1)
大塩が殺されたらしい。
翌朝。
深夜まで待ちぼうけをくらった反動で、水野は朝の十一時に目を覚ました。
なんとなくテレビを点ける。
いつものくだらないワイドショーは潰れていて、かわりに特番が組まれていた。
【街を騒がす《ケモノ》。その正体とは?】
装飾過多ぎみのテロップと、それに合わせた気味の悪い音楽。
画面は変わり、レポーターが現場を歩きながら、真剣な表情で事件の概要を語っている。
《ケモノ》というのは、一年半ほど前から街を恐怖に陥れている、大量殺人鬼の名称である。
もちろん自分からそう名乗ったのではなく、マスコミが勝手につけた名前だ。
しかし凄惨極まるその手口が、ぴたりと《ケモノ》の名称にあてはまるため、大量殺人鬼の渾名となった。
「二十三人目の被害者が殺されたのは、こちらの公園でした――」
カメラが引いていき、レポーターの背後を映し出した。
ゆたかな緑が目にあざやかな、そこは――
昨日の森林公園だった。
厭な予感がした。自分が昨日いた場所ではないか。
これは偶然だろうか?
どくんどくんと心臓が早鐘を打つ。
レポーターは足早にアスファルトの地面を移動し、白線の残った場所を示した。
「ここに、大塩平八郎さんの頭部が置かれていました」
…………
聞き違えたかと思った。
チャンネルを換え、他局のニュース番組を確認する。
けれど彼の耳は正確だったようで、どこの局も、その名を報道していた。
銘探偵、大塩平八郎の名を。
水野は唖然としたまま、流れる画面を見ていた。事件の概要は頭を通過して、どこかへ消えてしまっていた。
殺人鬼《ケモノ》が、なぜケモノと呼称されるのか。それには理由がある。
喰人。
それは生きたまま牙を立てるときもあるし、殺してから死肉をむさぼるときもあった。人間のなす業とは思えない所行を、人々は畏怖をこめ、《ケモノ》と呼ぶのだった。
また、《ケモノ》にはある特徴があった。
殺害、もしくは咀嚼現場で、手がかりといった情報をすべて消し去っていくのだ。
指紋、汗、毛髪に至るまで丹念に隠滅する。潔癖症の部屋のように、塵ひとつも残さない。
もはや別の場所で殺した死体を、死体発見現場で始末しているような印象さえある。
これにより、犯人はある程度、自分のカニバリズムを理解していることがわかったが、そんな事実は、捜査に何ら好影響をもたらさなかった。